"自作VR方式"で
バーのムードを壊さない。
京都『K6』のパーテーション術

 "自作VR方式"でバーのムードを壊さない。京都『K6』のパーテーション術

京都を代表するオーセンティック・バーといえば、誰もがその名を挙げる一軒こそ『K6(ケー・シックス)』だろう。創業は1993年と、老舗と呼ぶには少し若いバーながら、オーナーバーテンダー・西田 稔さんの薫陶を受けた人材が店を盛り立て、また独立しては「K6出身のバー」を増やし、いつしか『K6』は"バーの京大"という異名を冠されるまでになった。

しかし、京都のトップランナーたる『K6』でさえも、コロナ・ショックから逃れることはできなかった。「店に入って18年になりますが、春以降、こんなに暇になることがあるものか、と衝撃を受けました」と店長・西尾博之さん。さまざま経緯はあったとはいえ、「バー=3密というある種の固定観念から社会的プレッシャーをかけられ続けたのがオーセンティック・バーだ。4月の非常事態宣言から5月末まで休業し、6月から営業を再開したが、9月になっても客足が戻ったとは言えない状況にある。

しかし西田さんは、そうした苦境にあっても「バーのなすべきこと」から目を背けることがなかった。それは、この状況下にあっては「安心して酒を楽しめる空間づくり」だった。



エントランスや洗面所には、もちろん消毒液や洗浄剤を設置。非接触のセンサー式除菌スプレーを導入し、機器の接触による感染にも配慮している。

「非常事態宣言下での休業中、西田はどういう対策を取るべきか相当に悩んでおりました。『お客さまが思う"これくらいやれば大丈夫"というレベルよりもずっと大がかりにやらなければ、心底から安心してはもらえないだろう』と考えていましたね」と西尾さん。

エントランスや洗面所での手指の消毒や洗浄、出入り口扉の開放や、定期的な店内の換気、あたりは当然として、西田さんが考案した、いかにもオーセンティック・バーらしく、遊び心にあふれ、かつ効果的な感染対策の方法が、カウンターを仕切るパーティションだ。
飲食店のカウンターを透明なアクリル板などで仕切ることは昨今では当然の風潮になりつつあるが、こちらのパーティションをよく見てほしい。何かが写っている、写真を貼りつけたボードであることが分かるだろう。


店内の西側にある、創業時からのバー・スペース。席を隔てるパーティションに、きれいに貼られている写真は...。

さらによくよく見れば...。そう、実際にカウンターに腰を落ち着け、左右を眺めたときの視界、それを写真に撮って引き伸ばし、パーティションにしてあるのだ。「透明なボードで仕切るのはいかにも味気ないだろうし、違和感もあるということで絞り出した、西田渾身のアイデアです(笑)。写真撮影も、スチロール製ボードへの写真の貼りつけも西田がひとりで行ったんですよ」。


実際に腰かけて隣席に目をやろうとすると、こんな風景。奥のボトルの森が写真の中へ繋がっていく、だまし絵のようなギミックに思わず顔がほころぶ。

しかもこのボード、単に左右の景色を写し込んであるだけではない。上の写真を見ていただければ分かるように、カウンターの縁は現実のそれと写真とできっちりと繋がり、座ってみたときにはほぼ直線に見えるよう設えてあるのだ。よくよく見れば多少のズレはあるが、視界の端に入っている状態では、ちょっとしたVR(バーチャル・リアリティー)のような感覚を味わえる。

さらにさらに、「このパーティション、自由に動かせるんですよ」。西尾さんはそう言うと、ボードをスポッと上へ抜く。現れたのは、日曜大工で使うようなクランプだ。なるほど、これにボードをはめ込んで固定する仕組みなら、たとえば3人客が来た時でもパーティションをずらして対応できる。


パーティションのボードは、カウンターに固定したクランプにかぶせて使う。重厚なカウンターに傷をつけずとも、フレキシブルに、かつ安価にお客を間仕切ることができるわけだ。

もうひとつ。テーブル席の仕切りには、見ての通り、メインカウンターとバックバーを大写しにした、吊り下げのスクリーンを使っている。これがまた、ボトルの森の景色でスピリッツを呼ぶのだ。

こうしたユニークなコロナ対策に、お客さんの反応は?と尋ねると、「面白がってくれるお客さまの方が多数派ですが、賛否どちらにしても、まずは『ええっ、何これ!』と驚いてくれはりますね」と西尾さん。そこで「このパーティション、オーナーの手づくりなんですよ」などとお客に知らせれば、話が弾まないわけがない。

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スクリーンには撮影者の背後にあるメインカウンターのバックバーが写っている。スクリーンがないときの景色と同じではないが、この遊び心がバーらしさではないか。

西尾さんはじめスタッフ全員は、マスクの上にフェイスガードを装着。「声がどうしてもこもってしまうので、少し大きめの声になってしまいますが」うつす・うつされるの不安は「まあないでしょう」と笑う。もちろん、やはり全員、毎日の検温もクリアしている。

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店内東側のメインバー。「このパーティションがあると周囲が気にならなくなるためか、「これ、いいね」と喜ばれるお客さまも一定数おられますね」と、目くばせの西尾さん。

オーセンティック・バーは、過度にオシャレである必要はないが、必ず"洒落て"いなければならない。求められるアベレージ以上の感染対策を講じながらも、バーらしい洒落や遊びの心を忘れずにお客を楽しませてくれる。このあたり、『K6』が"バーの京大"と称される由縁の一部なのだろう。(写真・文/河宮拓郎)

店舗情報

【住所】京都市中京区木屋町二条東入ル ヴァルズビル2F
【電話番号】075-255-5009
http://www.ksix.jp/

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バーのムードを壊さない。
京都『K6』のパーテーション術

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