特集

【レシピ付き】大阪産(もん)レシピ Vol.2 大阪『弧柳(こりゅう)』松尾慎太郎さん作 アカシタ料理2品

大阪産(もん)の魅力をお伝えするレシピ記事Vol.2は、12月から3月にかけて旬を迎えるアカシタ(シタビラメの一種)がテーマです。今回調理を担当するのは、浪速割烹の精神を色濃く引き継ぐ料理人の一人、大阪・北浜『弧柳(こりゅう)』店主の松尾慎太郎さん。一つは、アカシタで高山牛蒡(ゴボウ)を巻いた香ばしい八幡(やわた)巻き。もう一つは、アカシタの真薯にアカシタの骨だしを合わせた滋味深い椀物。どちらも骨まで美味しくいただくレシピを考案していただきました。

文:川島美保 / 撮影:下村亮人

目次


大阪・北浜『弧柳』松尾慎太郎さん作
アカシタの八幡巻き 高山牛蒡のすり流し

『弧柳』のアカシタの八幡巻き

弧柳』の松尾慎太郎さんが披露する一品目は、焼き物。ゴボウやニンジンを鰻で巻き、甘辛い味付けで煮焼きする八幡巻きのアカシタ版だ。

アカシタは海底の泥中に身を潜めているせいか、皮と身の間に独特の土っぽい香りがあります。ゴボウの野趣がよく合うと思いまして」と松尾さん。なにわの伝統野菜を愛する松尾さんゆえに、使うのは高山牛蒡。豊能(とよの)町高山地区で江戸時代から栽培されていて、アカシタと同じ12月以降に旬を迎える。

「品のある香りと、柔らかな食感が特徴。アカシタの繊細な持ち味を損なうことなく、風味を持ち上げてくれます」。

アカシタは塩のみで味付け

「今回手に入ったアカシタは、大きくて立派。この肉厚さを味わうにも、八幡巻きは相応しいかと」。そう話しながら甘辛く炊いた高山牛蒡に、アカシタの身をクルクルと巻き付けていく松尾さん。アカシタの味付けは、焼く直前に塩を振るだけにとどめる。

「甘辛い蒲焼きにしてしまうと、アカシタの白身魚らしいデリケートな旨みが損なわれてしまいます。高山牛蒡にしっかり味を入れてあるので、それで充分ですよ」。

あとは炭火でじりじりと焼けば、さあ完成…と思いきや、凝り性の松尾さんの工夫はまだまだ続く。

頭・尾・骨は、香ばしい煎餅に

「食材はできる限り使い切るのが大阪料理。骨周りは特に旨みが濃いんですよ」と、頭や尾、中骨は、じっくり揚げて骨煎餅的に。素揚げならではの骨身の香ばしさと、ガリガリッと骨を噛み砕く食感が快感。骨まで愛せる抜群の佳肴は、これだけでも粋な一品になる。

ちなみに中骨を庖丁のみねで叩くひと手間は、骨を曲げやすくするだけでなく、火の通りが良くなる効果もあるそうだ。

ゴボウを多彩に合わせて深い味わいに

器の底に敷いた薄茶のペーストは、高山牛蒡のすり流し。カツオ昆布だし・白醤油・塩だけで淡く味付けた、いわば和風の野菜ソース。

「異なるアプローチでゴボウの風味を重ねることで、味に奥行きが生まれます」と松尾さん。添え物にも、カリッと素揚げした細切りゴボウをさりげなく添えている。

ふわりと焼けたアカシタの身と、よく肥えた身から滴る脂を受け止めたゴボウの野趣が、見事なバランス。骨まで丸ごと味わえる楽しさがひと目で伝わるビジュアルも、パフォーマンス力が高い。

アカシタの八幡巻き 高山牛蒡のすり流しのレシピ

<下準備>

高山牛蒡はタワシで土を落として10㎝程度に切り、食べやすい太さに切る。鍋に水・酒・砂糖・たまり醤油・濃口醤油を合わせて煮る。
①とは別に高山牛蒡の土を落としてスライスし、太白ゴマ油で炒めてからカツオ昆布だしで炊く。煮汁ごとミキサーにかけてペースト状にし、白醤油・塩で調味してザルで漉す。
アカシタの頭と尾を切り落とし、エンガワを骨ごと切り取る。

アカシタの頭と尾を切り落とし、エンガワを骨ごと切り取るシーン

中骨に対して垂直に庖丁を入れてから、写真の様に中骨に対して平行に庖丁を入れ、尾側の末端はつないだ状態で3枚におろす。裏面も同様におろす。

アカシタの身を3枚におろすシーン

④の中骨を庖丁のミネで叩いて柔らかくし、筒状に整えて楊枝で止め、軽く干す(半日程度)。

アカシタの骨を筒状に整えるシーン

①を芯にして④の身を巻き付け、金串を打つ。

ゴボウをアカシタの身で巻くシーン

<仕上げ>

③・⑤を160℃前後の油でじっくり素揚げする。
⑥を炭火で焼き、3㎝厚さに切る。
器に②を流して⑦・⑧を盛り、⑦の中骨の内側に高山牛蒡の細切りを素揚げしたもの、ミョウガのせん切りを入れ、マイクロフェンネル・ナスタチウムを飾る。好みで粉山椒を振っても良い。

アカシタの共身真薯 骨出汁椀 河内蓮根 焙り干子

『弧柳』のアカシタの共身真薯

続く二品目は、椀物。最大のポイントは、こんがり焼いたアカシタのアラで取っただしだ。

「鱧や真鯛などの頭や中骨でだしを取るのは定番の手法ですが、それをアカシタで試したら、想像を超える美味しさと独特の香り。ぜひとも椀物で味わっていただきたい味でした」と、目を輝かせる松尾さん。

昆布も要らないと、酒と水だけでじわじわと旨みを抽出。潮だしと呼ぶのが一般的だが、松尾さんは材料がダイレクトに伝わる骨出汁の名を選んだ。

アカシタを重ねた椀種

椀種にもアカシタを使う。共身真薯(ともみしんじょ)と名付けられたそれは、巻いたアカシタの身をアカシタの真薯でくるんだ二層仕立てだ。

「同じ身を使うので共身と呼びます。小骨が多い腹側を、真薯に仕立てることで食べやすくしました。食感のコントラストも味わいどころです」。

アカシタの持ち味を生かすために、つなぎの山の芋と卵白はごくわずかに。ふわふわの口溶けを狙ってやや多めのカツオ昆布だしでのばし、70℃の湯煎で柔らかく火を入れることで、真薯の芯に潜むアカシタの身が、しっとりと仕上がる。

レンコンと干し子で香りと旨みを増幅

真薯に添えたのは、炭火焼きした河内蓮根。こちらは大阪河内地方で採れる大阪の伝統的な野菜で、モチモチとした食感と甘みが特徴だ。

「炭火で焼くことで香りが持ち上がり、食感はもっちりホクホクに。ゴボウと同じく馴染みのある土っぽい香りが、アカシタのクセのある香りを、美味しい香りへと導いてくれます」。

吸い口には、軽く炙った一片の半生干し子を。干し子とは、成熟したナマコの卵巣を干した珍味だ。複雑な旨みと独特の熟成香で、アカシタの美味しさをもうひと押しする。

「繊細な持ち味をどう生かすか悩みましたが、料理人としてアカシタに向き合う良い勉強になりました。もし次があるなら、お造りにも挑戦してみたいですね」。アカシタを丸ごと味わう2品を見事に完成させてもなお、松尾さんの創作意欲は高まる一方だ。

アカシタの共身真薯 骨出汁椀 河内蓮根 焙り干子のレシピ

アカシタを5枚におろし、上身(背側の身)に塩をあて、2時間程度おく。アラはきつめに振り塩をして、しっかり色付くまで焼いておく。

アカシタを5枚におろし、焼いたシーン

①の腹側の身は、皮を引いて適当な大きさに切り、庖丁で細かく叩く。すり鉢に移して塩を振り、なめらかになるまで丁寧に摺る。山の芋のすり下ろし(すり身の1/4程度)・卵白ごく少々・カツオ昆布だしを加え、裏漉しする。

アカシタの身をすり、裏漉ししたシーン

ラップに②をのせ、その中央に①の上身を巻いてのせる。②で①を包み込むように茶巾に絞る。70℃で30分ほど湯煎して火を入れる。

アカシタの身を茶巾に絞るシーン

①のアラ・昆布・酒・水を鍋に合わせ、沸騰させないように15分程度煮出して漉す。数滴の薄口醤油、塩少々で調味する。

アカシタのアラを煮出したシーン

③、炭火焼きした河内蓮根を器に盛り、④を注ぐ。軽く炙った半生干し子をアカシタ真薯の上に飾る。

『弧柳』松尾慎太郎さん松尾慎太郎さんは、1975年大阪・吹田生まれ。調理師専門学校卒業後、大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川』で12年間修業。視野を広げるべく居酒屋『キッチン和(にこ)』や『仏蘭西懐石 星家』で異なる経験を積み、2009年に北新地で独立。2021年秋、北浜の一軒家に移転。浪速の味はもちろん、骨董と現代作家による作品を織り交ぜた巧みな器使いを見せるもてなしで、新たな大阪料理の在り方を提案している。

大阪産PR画像「大阪産(もん)データベース」(https://osaka-mon.org/


フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事特集

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です