うつわ×食ジャーナル

木桶を「ハレのうつわ」に進化させた『中川木工芸』の、世界から注目されるテーブルウエア

木肌の美しい白木の桶。夏のプレゼンテーションに、涼やかに映えます。戦前まではもっぱら素朴な日用の雑器で、もてなしの食卓に上がることはあり得なかった木桶を洗練させ、うつわや花器に進化させたのは、京都の職人。さらに、デザイン性に優れた新しい木桶を生み出し続けているのが、今回ご紹介する『中川木工芸』の中川周士(しゅうじ)さんです。

撮影・文:沢田眉香子

木桶をもてなしのうつわに洗練させた、京都の職人たち

水を汲んだり、ご飯を保温するおひつとして、かつて木桶は身の回りに欠かせない道具だった。木桶の工房は、最盛期には京都だけで約300軒あったといわれるが、昭和の中頃には激減し、たった3軒となってしまった。

そのうちの1軒が、『中川木工芸』の初代・亀一さんが修業した工房。実用品だった木桶を、卓上や床の間に置けるような美しいうつわへと洗練させた。

「祖父がよく『ケではなくハレの桶、上手(じょうて)ものの桶をつくりたい』と言っていたのを覚えています」と中川周士さん。そのために、当時の職人達はさまざまな工夫を凝らした。

「樹齢100年以上の木曽檜など上質な木を使い、盛り込んだ料理を映えさせるよう、存在感を消すために薄く仕上げました。分厚い木桶を好んだ江戸前の職人からは、『京都の桶職人は、木をケチっている』と悪口も言われましたが(笑)」。

こうして出来上がったのが、真っ白な木肌に走った柾目が美しい木桶。手に取った時の軽さは繊細そのもので高級感がある。「箍(たが)を締めた時に割れてしまうかもしれない、ギリギリの線を攻めています」と語る。

jou0002b初代が奉公時代に考案した湯豆腐用の木桶。左手前の金属の筒に熾(おこ)した炭を入れて湯を温める。奥の急須は下部が筒状に伸びていて、中のだしが温まる。京都の老舗有名旅館の朝ごはん用に、今も使われている。

現代の生活を彩るために、生まれ変わった木桶

そんな「木桶の革命」を引き継いだ中川さんの父、『中川木工芸』二代目の中川清司さんは美術工芸の「木画(もくが)」で人間国宝に。三代目となった中川周士さんは、もう一度桶の可能性を追求したいと考えた。

そのシグニチャーワークとなったのが、2010年に「ドン・ペリニヨン」とコラボレーションした白木のシャンパンクーラー「KONOHA」だった。その形は一般的な円柱ではなく、木の葉型。このような形の木桶は、前例がなかった。

「箍の負荷が木の葉型の先端に集中してしまうので、締めるのが難しかったです。量産にあたっては「3D CAD」を使って構造をゼロから見直して、精巧な図面を描きました。面白いことに、デジタル技術を導入することで、従来から作っていた丸い木桶の完成度も上がっていきました」。

現代の食卓のニーズに応える木桶の仕様やデザインも数多く考案し、商品化した。例えば一合用のおひつ。自宅で使えば暮らしの豊かさを感じられるし、ちょっとしたもてなしにも洒落ている。木桶の保温性を生かしたアイスペールや、木の香りで酒席を和ませるチロリなどもある。

jou0003c左/少人数の家庭向けに考案された一合用の小さなおひつ。シルバーの箍は、装飾の役割も兼ねている。中/日本酒に木の香りを添え、手触りもあたたかい酒器、「チロリ」。右/結露しないため、テーブルを濡らさない蓋付アイスペール。盛り鉢にも使える。

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