うつわ×食ジャーナル

京都の「料理と器 新文化産業創造プロジェクト」

「うつわは料理の着物」。
海外のお客様が和食に出合ったときに必ず驚くのが、日本の「食のうつわ」の豊かさ。食材、料理と一体となって季節を感じさせ、料理人の世界観を描く日本のうつわは、世界に誇る和食文化。このコラムでは、うつわの作り手の提案、うつわをめぐる料理人の挑戦や、おすすめのうつわガイドなど、料理人のための「うつわ」最旬トピックスをお届けします。

撮影・文:沢田眉香子

30612020年2月に平等院の塔頭・最勝院で開催された「料理と器 新文化産業創造プロジェクトグループC」の成果発表会。

乾山(けんざん)、仁清(にんせい)、永樂(えいらく)など、食のうつわの巨匠を輩出してきた京都。そこには、古くから茶人や料理人、美意識の高い注文主が、工芸家たちを刺激してきた歴史がある。そんな作り手と使い手のコラボレーションを現代に再現するべく、若手料理人と陶芸家たちによる勉強会が行われている。

発端は、平成30年5月に立ち上げられた「伝統産業×食文化」コラボ推進委員会。京都府立陶工高等技術専門校の修了生を中心とする若手陶芸家18名と老舗料理屋の若手和食料理人が「伝統産業×食文化」新文化産業創造プロジェクトとして「料理に合わせた食器づくり」に取り組んだ。これまで3グループに分かれて勉強会を重ね、作ったうつわに実際に料理を盛り、ゲストを迎えて試食する、という成果発表を行っている。

残念ながら、今年は新型コロナウィルス感染拡大防止のため休止となったが、2020年に開催された「料理と器 新文化産業創造プロジェクトグループC」の成果発表会の様子をレポートする。

このグループの料理人には、『宇治平等院参道 竹林』下口英樹、『いづう』佐々木勝悟、『萬亀楼』の小西雄大。陶芸家には、叶具夫(かのともお/松谷窯)、伊藤紫峰、髙野昭阿弥(たかのしょうあみ)、山本たろう、中村譲司、津田友子(未央窯)が参加した。(※文中敬称略)

宝珠型の蓋物は、山本たろう作。青海波をイメージした波模様には、琵琶湖の湖面のような静けさがイメージされている。「鼻を近づけながら、蓋を開けてください」と言う、料理を担当した『いづう』の佐々木勝悟の言葉に従って蓋に手をかけるが、丸くて取手がないので自ずとうつわと手先に注意が集まる。そこで蓋をそっと開けると、中からふんわり漏れてきた鯖のなれずしの香りに意識を集中することができた。香りを包み込む球形と、ゆっくり蓋を開けさせる所作とが、「熟れた発酵の香りを楽しんで欲しい」という料理人の思いを巧みに伝えた形だ。

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『萬亀楼』の小西雄大が陶芸家たちと作ったのは、有職料理のシンボル「嶋台」。
 嶋台は神と人が共に飲食する「神人共食」という日本料理のルーツを表現するために、宮中で生まれた御膳でありうつわ。本来は白木だが、ここで挑むのは、やきものの嶋台。「今回の取り組みでは、『自然界の土で作り、また土に戻す。尊い方には清しもの』という、土を使う民族である日本人のおもてなしの精神性を表現した」と小西。これも新時代のうつわの表現と言える。

有職料理の伝統を受け継ぐ『萬亀楼』では、嶋台に山海の幸を盛って、挿し花で季節を表現する。この日は、甘鯛鱗(ウロコ)焼き、ホタテの蝋(ろう)焼き、大根おろしとナマコ、サーモン燻製、カラスミなどが様々なデザインの嶋台型のやきものの上に雅やかに並んだ。

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嶋台をテーマに創作された、髙野昭阿弥の染付のうつわ。おめでたい鶴亀、松の模様が描かれている。『萬亀楼』の小西雄大は、和食素材の将来への危機感から「カツオ節を使わないで料理する」ことにも挑戦した。

「うつわ違いで、ここまで違う」を実感させたのが、『いづう』佐々木勝悟の「三宝柑蒸し寿司」を盛った、髙野昭阿弥の葉皿と、津田友子のスクエアプレート。前者は果物の生命感あふれるカラフルな演出、後者は無機質でモダンなプレゼンテーション。特に津田が使った紫の釉薬は、食のうつわにはタブーに近い色出し。「和食ではありえない色と形だと思ったが、いざ料理を乗せてみたら、紫がカボスを浮かび上がらせて、意外に合う」という感想が聞かれた。
今回のテーマは「守破離(しゅはり)」の“破”。うつわの固定観念を“破”る成果が得られたようだ。

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髙野昭阿弥のカラフルな葉皿の上に乗った、『いづう』佐々木勝悟の「三宝柑蒸し寿司」。柑橘のみずみずしさが皿の上にまで広がるイメージ。

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津田友子のプレートは、シックな紫。色の強さでかぼすの形を浮き上がらせ、強いインパクト。

「椀もの」のうつわは漆器がお約束だが、それにもやきもので挑戦。中村譲司の碗は、一見、塗り物のような漆黒。薄造りで、手にとった時の軽やかさ、滑らかさも、繊細な椀ものを包むうつわとして違和感がない。蒔絵がわりに蓋裏と見込みにあしらった銀彩が、星空のようにクールだ。料理は『宇治平等院参道 竹林』下口英樹。精進だしで炊いて、あられ粉をまぶして揚げ焼きにした海老芋の白味噌仕立て。このうつわなら、夏のハモの吸い物も涼しげに映えそうだ。叶具夫の碗は、ラグジュアリーな銀彩で、食べ終わると見込みに掻き落としの赤い文字「福」「禄」「寿」が現れるサプライズ。お祝いの食卓に使ってみたい。

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中村譲司の碗は、蓋裏に銀のラインが放射線状に並び、内側に水滴のような銀の粒が散っている。

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叶具夫の碗は赤地に銀を塗り、それを引っ掻いて赤い模様を出した「掻き落とし」。「福」「禄」「寿」のおめでたい3文字を組み合わせて、架空のおめでたい文字を作った。

食後は、使われた作品を並べて意見交換。
ゲストにはイタリアンやフレンチのシェフもいて、「金属のカトラリーを使った時の、うつわへのダメージをどうしたらいいか?」「海外のお客様は、ナイフとフォークがうつわと接する時の音や感触などにも敏感なので、焼き締めは使いづらい」など、和食とは違う洋食のうつわへのニーズが語られた。日本文化研究者からは「それぞれの器の色や形に具体的なメッセージが込められている。日本料理のうつわが単に容器としてではなく、食事にストーリー性を添える要素となっていることがわかった」と、日本料理のうつわの世界に感銘を受けた様子だった。

近年、キャラクターの立ったうつわ作家たちがブームだが、そのトレンドの中では、京都の若手陶芸家たちの作品はちょっと控えめに見える。それは、京都が、個性よりもろくろや絵付けなどの技、料理を品よく引き立てるクオリティを何より大切にする土地柄だからということもある。とはいえ、若手作家がみんなコンサバだということではない。細かな分業に支えられてきたうつわ作りの世界で、今回の試みのように、作り手と使い手が直接に交流する機会は、実際かつてなかったこと。長い伝統の中での「守破離の“破“」。「日本料理のうつわ」の伝統が新たな局面を迎えたのを感じた。

3073_2工芸ジャーナリスト、日本文化研究者なども参加し、懇談会では意見交換が活発だった。

「伝統産業×食文化」コラボ推進委員会事務局 (府立陶工高等技術専門校内)
【電話】 075‐561‐2943  E-mail:tokgs-k@pref.kyoto.lg.jp

【作家の問合せ先】
叶具夫(松谷窯)インスタグラム:tomookanoh
髙野昭阿弥 インスタグラム:shoami.kyoto
津田友子(未央窯):https://www.tsudatomoko.jp/artist/
中村譲司:http://george-nakamura.com/
山本たろう:https://yamamototaro-utsuwa.shopinfo.jp/

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