上野修三の古典

【レシピ付き】主役になる子芋と、名脇役の芋茎(ズイキ)

2022年も中秋(旧暦8月15日)の名月は満月となりました。ススキを飾り、月見団子を供える“お月見”の夜のご馳走に、豆や栗と並んで子芋があります。子芋は、里芋の親芋の横から出た芽が成長したもの。そして、里芋の葉と茎の間の葉柄(ようへい)部分がズイキで、葉柄専用に広く栽培されている赤ズイキの他、軟白栽培した白ズイキ、ハス芋の茎の青ズイキがあります。また、ズイキを干したものは割菜(わりな)と呼ばれます。「子芋は主役を張れる野菜の一つ。実はどっちも里芋なんでっせ、と言うてズイキと取り合わせた料理もよぉお出ししましたな」と上野修三さん。初秋の味覚・子芋を軸に、懐かしい仕事を伝授します。

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:団田芳子 / 撮影:東谷幸一

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雲丹入り子芋のとろろ被(が)け——ねっとりとしたとろみを生かして

子芋いうのは、親芋を支えるようにぐるりとくっついているので、親孝行芋とも呼ばれますな。
大阪には石川早生(いしかわわせ)という子芋がおましてネ。8~10月に収穫できる極早生種やけど、名月の夜のご馳走にするために早作りしたと聞きますな。

石川は大和川へ流れ込む一級河川でおます。その周辺の石川村(現・河南町)で変異種として生まれたのが石川早生。この種芋を持ち帰った和歌山、鹿児島など、現在は全国で栽培されてますわなぁ。

早採りな分、初々しい風味があって、加熱すると柔らかくなり、ツルリと滑らかな舌触りが魅力。けど、あのふくよかな旨みは皮と身の間の粘り気に潜んでますから、六方や八方にむいてはもったいない。布巾で皮をしごきとっておくれやす。

子芋はねっとりとしたとろみが魅力でっさかいね。とろろ仕立てがよぉ合いますねん。淡口八方煮にしてから、なめらかになるまですって、昆布だしでのばして淡口醤油をぽとり、塩をぱらりで、とろろ汁。これも旨いけどネ。料理屋としては、もうちょっとご馳走にせなあきまへん。

それで子芋に穴を掘って、ウニを詰めたものを合わせたんやけど、コレ、衣つけて揚げても旨いでっせ。何や子芋の素揚げかと思って嚙んだら、中からウニがとろりと口に広がるという寸法。こういう遊び心があると、カウンターを挟んで、「オヤジ、ビックリするやないか、オモロイこと考えるな」と会話も弾みまっしゃろ。
里芋は田楽にしても旨いけど、味噌を穴に詰めるってのも手だすな。子芋なら柚子味噌なんかええやろね。

小指の先ほどの小さな落子(おちこ)が手に入ったら、煮浸しにすると旨い。落ち子は淡い甘みがあって、とろ~っとやらかいから、甘みを控えた淡口八方地で炊いたら、煮汁も一緒にするっと吸うてしまえる。コレ、冷やして出しても乙な味でっせ。

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