ニュースな和食店

京都『衹園さゝ木』再始動! 弟子と共に挑む、新たな店づくり

2023年8月。約半年の大改装を経て、京都『衹園さゝ木』の新たな舞台が幕を開けました。真新しい檜のカウンター前には、店主・佐々木 浩さんが弟子と共に料理するフルオープンキッチン。常に新風を巻き起こしてきた佐々木さんが還暦を過ぎてもなお挑む、新たな店づくりとは。そこには弟子たちと共に歩んでいきたいという、揺るぎない信念がありました。

文:船井香緒里 / 撮影:高見尊裕

目次


スタッフ全員が主役

「京都・衹園で店を始めて四半世紀。日本料理の根幹を重んじながら、新風を吹き込みたいという一心で突っ走ってきました」と佐々木さん。石窯の設置、営業時間の一斉スタート、さらに“さゝ木劇場”と称されるライブ感溢れるパフォーマンスなど。「割烹の革命児」と称され、常に前代未聞の挑戦を成し遂げてきた。

しかし還暦を過ぎ、ふと立ち止まって考えたという。「今までの延長線上で、このまま守りに入るのはオモロない。せやけどこの先も、佐々木 浩という“俺が、俺が”の店づくりでえぇのか? ありがたいことに僕は多くの弟子たち、そしてお客様に支え続けられています。せやから今一度、勝負に出ようと」、リニューアルを決意する。

新たなコンセプトはずばり「弟子たちと一緒に料理を作る」。
「若い彼らは、とてつもないパワーと情報を持っている。せやから、弟子たちの発想を柔軟に取り入れ、僕の経験値を掛け合わせた“新味”に挑みます」。つまりはチーム全員で、新しい料理を追求するという。その揺るぎない想いは、全面改装した店内の至るところに。

was8901b佐々木 浩さんは、1961年奈良県生まれ。祖父、父が料理人という環境で育ち、高校卒業後に料理人の道へ。滋賀県の料理旅館を皮切りに複数店で修業し、27歳で京都・先斗(ぽんと)町の『割烹ふじ田』料理長に就任。98年、36歳で独立し、衹園町北側に『衹園さゝ木』を開店。その後、移転に伴い店舗の規模を広げ、2006年、八坂通に100坪の一軒家を購入。1年がかりで改装を施し、連日「予約の取れない店」として満席を取り続ける。隣にいるのは、奥様の太津子さん。

まず、玄関を入ってすぐの場所に、ガラス張りの「ラボ」を新設。ここは新たな料理を創造する場所であり、スタッフが仕込みをする様子を垣間見ることもできる。また、フロアへと続く自動扉の手前では、邪気祓(じゃきばら)いのための仁王像が、弟子たちを守り、お客様を迎える。

was0001c左/「ラボ」では、料理の仕込みはもちろん、新メニューの試作を行うなど実験の場として活用する。右/佐々木さんの出身地である奈良には、東大寺や金峯山寺(きんぷせんじ)など有名な仁王像があることから、自らの店にも配置した。

そして、一番の見どころはやはり客席である。真新しい吉野檜の一枚板。目前にあった石窯や壁を一切合財取り払い、フルオープンキッチンに変貌を遂げた。「表舞台とバックヤードの垣根をなくすことで、スタッフの仕事に目が行き届くし、すぐに指導ができる。そして彼らは緊張感を持ってお客様と向き合うことができます」。

was8540d長さ8m、奥行き1m。樹齢300年以上と言われる吉野檜の一枚板カウンター。その頭上には、以前使っていたマホガニーのカウンターを設置。「お客さんやスタッフたちを見守ってもらえるように」と佐々木さん。以前17あった席を12に減らしたことで、スタッフたちはより一層、接客に集中ができる。広々とした厨房の真ん中に炭焼き場を据えたのは、「今一度、原始的な調理法で勝負したいのと、古い職人の技術を弟子に伝えたいから」。

さらに、奥の離れも改装し、間仕切りのテーブル席から6席のL字カウンターに。「当初はメインと離れ、2つのカウンターの営業開始を30分ずらそうと考えていたのですが、それじゃまた“俺が、俺が”になってしまう。だから思い切って同時にスタートすることに決めました」。

営業中、佐々木さんが離れのカウンターに立つ際は、弟子がメインカウンターを守らなければならない。その逆も然り。8名の調理スタッフ全員が、“おやっさん”と共に表舞台に立つ。「チーム全員が主役を張れる店にしたい」という目論見が、佐々木さんにはあるのだ。

弟子と共に挑む味づくり

was8881e

「以前は献立のほとんどを僕が決めていました。しかし今は、調理スタッフ全員でミーティングをし、お互いの知恵を振り絞りながら、コース料理を組み立てます」。

昼のコースは夜に出す料理3品を含む計6品に、ご飯、デザート。夜は、これまでと同様、鮨2カンを含む料理9品に、ご飯、デザート2品という構成だ。

例えば夜の先付「白芋茎(ズイキ)と鯛の昆布〆」には、中国料理のクリアなスープ・清湯(チンタン)と昆布だしからなるジュレをかけている。
このメニューの発案者は、煮方・坂東春樹さん。佐々木さん曰く「オモロい発想やなと。でも少しだけ香りのアクセントが欲しいと助言をして、針ショウガの甘酢漬けを添えることに」。

実は改装中、5人の弟子たちを武者修行に出したという。「坂東は、中国料理『京、静華(きょう せいか)』でお世話になりました」。スタッフたちは和洋中、さまざまな店で鍛えられた。その成果が少しずつではあるが、献立の中に見て取れるのだ。

夜の焼き物「鮑柔らか煮ステーキ」の試食時にはこんなエピソードも。「『美味いけど、食感のコントラストが何か必要やな』と彼らにお題を投げたところ、若手スタッフの勝村和彦が『塩揉みしたコリンキーを添えたらどうですか?』と言いよったんです。それオモロいやんか!と即、採用でしたよ」と、佐々木さんの頬が緩む。

「ミーティングで彼らはまだまだ遠慮がち。せやけど、半年後には慣れてきてもっと活発に意見を言い合えるようになるはず。献立を立てる中で、今までにない師匠と弟子の濃いセッションができるんじゃないかな」。

was8009f料理は全て夜のコース44000円(全12品)から。先付は、白ズイキと鯛の昆布〆を、昆布だしと清らかな旨みの清湯ジュレと共に。オクラ、針ショウガの甘酢漬けを添えて。

was8092g冬瓜の松前煮と鮎の風干しの椀。利尻昆布と本枯節から引いた一番だしは、清らかで深い味わい。ほろりとほどける冬瓜と、鮎の凝縮感のある味わいが、じんわりと広がる。

was8226h焼き物は、鮑柔らか煮ステーキ。水に昆布と酒を加え、2時間炊いた鮑は太白ゴマ油で、表面を香ばしく焼き上げた。飴色の玉ネギを忍ばせ、味わいに立体感を。肝ソースは、隠し味にオイスターソースを用い、コクを深めている。塩揉みしたコリンキーの小気味よい食感がアクセント。

佐々木さんはさらに、「この一連のやり取りがあることで、お客さんの前で『この前菜はコイツが考えよったんです』とお披露目もできる。『コレ考えたのは君か。美味いやんか』と話題にあがれば、それがスタッフのモチベーションに繋がるでしょう」と。

“俺が、俺が”に終止符を打ち、弟子たちの感性を引き出しながら、育てていきたい。佐々木さんの思惑はそこにある。

遊びのある数寄屋造り

「全面改装を考えたとき、純日本建築の内装にしようと思っていたんです。そんな時、ご常連である銘木商『永井半』の永井慶和(よしかず)さんが、『「数寄」とは「好き」と同じ意味。佐々木さんらしさを取り入れないとおもんないで!』と。その一言に突き動かされました」。

そんな時、気鋭の建築デザイナー・藤田卓彦(たかひこ)さんに出会う。「藤田君は、荒削りなところもあったけれど、アイデアをどんどんぶつけてくる。僕は、弟子だけやなく『建築家も育てたる!』って奮起しました。永井さんや、和紙作家・堀木エリ子さんなど重鎮とも会わせ、彼自身、苦悩しながら一皮も二皮も剥けたと思います」。

その空間には、数寄屋造りの伝統を重んじながらも随所に、佐々木さんらしい遊びが光る。「簡単には真似できへん、空間を生み出せたと自負しています」。

例えば、フロアへと続く自動扉が開くと、堀木エリ子さんによる手漉(てす)き和紙のライトオブジェが圧倒的なオーラを放つ。堀木さん曰く「佐々木さんはいつも、新たな挑戦により高揚感を生み出すので、私もここで新たな挑戦をしたいと思います」と。平面と立体を組み合わせ、動線により見え方が変わる作品は、堀木さん自身、初めての試みだったという。

また、メインカウンターがある部屋の天井には、黒部のへぎ板の網代(あじろ)が、壁側に向かい緩やかな曲線を描いている。「この形状こそ、職人さんの技巧であり、どこにもない作品です」。

離れのカウンターの中柱は、茶室では最高級とされる椿の原木に、竹と檜を組み合わせて。土壁には、黒の塗装を施し、細い銅板を入れ込んで現代的な装いに仕立てた。「空間づくりも料理と同じなんやと。伝統や基礎をしっかり踏まえるからこそ、遊びや革新が成り立つ。ほんまもんとは何なのか、オモロさとは何なのかを若い子たちに伝えるのも僕の役目やと思ってます」。

弟子たちの若い感性と、経験値の高い師匠がもたらす相乗効果が、新生『衹園さゝ木』の大いなる武器。挑戦は、始まったばかりだ。

was0002i左/フロアへと続く自動扉が開くと、和紙作家・堀木エリ子さんによる手漉き和紙のライトオブジェが異彩を放つ。右/オブジェを横から見ると、円形に。

was8508j店奥の離れにある6席のカウンター。黒を基調にした壁の塗装、タモを用いたなぐりの床は本漆塗り…と随所に佐々木さんの美意識が宿る。

was8617k以前、シャッターが降りていた場所を改装し、ショップを開店。『衹園さゝ木』のだしパックや焼菓子、鯖寿司などオリジナル商品を販売する。


フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事ニュースな和食店

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です