日本料理のことば

おせち【御節】の意味・由来。料理・食材に込められた想いとは

お正月に食べるおせち。定番の料理に田作り(ごまめ)、たたきごぼう、煮豆(座禅豆、黒豆)、数の子、エビや子芋などがあり、それぞれに新年を迎えるにあたっての願いが込められていることはご存知の方も多いはず。では、「おせち」自体はどういう意味の言葉なのでしょう。そこには、農耕民族ならではの慣習が関係しているのです。

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村 友美 / イラスト:松尾奈央(Factory70) / 協力:辻󠄀調理師専門学校

目次

「おせち」は、「御節供」の略語

「お」は、敬意を表す接頭語の「御」。「せち(節)」は、区切りや折り目の意です。
古来より人々は、一年のところどころにある節の日、いわゆる節日(せちび・せちにち)に、神へ「節供(せちく・せっく)」と呼ばれる特別な食物やお酒を供え、それを下げて同じものを分け合って食べていました。この神と人との共食が「直会(なおらい)」です。

だから本来のおせちとは、「節日の直会の節供(供物)」のことであり、その意味でおせちとは、「御節供」の略語と言えます。江戸時代中期の国語辞書『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(1924年「近藤出版部」)にも、「せち」の説明として、「節日の食膳を節供と云(いう)を略せる也 俗におせちと云」とあります。

農耕文化から発展した「おせち」

日本の一年は稲の育成周期で回っており、節日はそのほとんどが稲作を中心に設定されていました。生活基盤が異なっても、米を主食にするのはみな同じ。自然の機嫌を損ねてしまうと暮らしていけません。五穀豊穣、家内安全、子孫繁栄、健康などを祈念して神を迎え祀る場には、米や餅、酒、山海の珍味といったご馳走が必須で、節日と供物(節供)は、同一視できるほどに切り離せない関係でした。元来おせちとは、正月や節句など区切りとなる「日」と、節日に食べたりふるまったり供えたりする特別な「食べ物」、どちらも指す言葉として通用していたのです。

正月のご馳走に定着したのは江戸後期から

今では、節日の中で最も重要な「正月」のご馳走だけを、おせちと呼ぶのが一般的です。いつから定着したのでしょう。市井の風俗慣習に関する随筆『用捨箱』(1841年)によると、少なくとも江戸後期には民間で「おせち」と呼んでいたようです。

現在、正月の祝い肴※として知られる数の子、田作り(ごまめ)、たたきゴボウ、煮豆(座禅豆、黒豆)も、同じく江戸後期には出揃っていました。家や地方の違いにより、他の食材や煮物が加わることもありますが、基本的にこの3~4種を重箱に詰めるのが常だったようです。

※祝い肴:祝いの膳に用いる酒の肴。

ちなみに滑稽本『浮世風呂』(1809~13年)※では、「早く帰つて お節の支度をせにやアならねえ」と言って、祝い肴や、なます、塩引き鮭の名が出てきます。年の暮れにどこの家も正月を迎える準備に追われるのは、昔も今も変わりません。

※1957年刊・岩波書店『日本古典文学大系63』所収の『浮世風呂』(中村道夫校註)より。

おせち料理に多種多様な料理を盛り込むようになったのは、本格的には明治中期以降のこと。きんとん、かまぼこ、厚焼き玉子、松竹梅・鶴亀に見立てた各種材料など、数多くの口取り※が加わりました。それらには必ず「めでたい」由来が添えられます。なぜなら、正月のおせちを供える先は、一年の福徳を司る歳徳神(としとくじん)だから。たくさんの願いを込めて、おせち料理を供え、大切な人といただきながら、新しい年を寿ぐ。おせち料理は、単にお腹を満たす食ではなく、それ自体が縁起物とも言えるでしょう。

※口取り:酒の肴のこと。

おせちの重箱の段数と詰め方

一般的に、おせち料理は新年を祝う3品の祝い肴、口取りのほか、魚介を使用した焼き物、根菜などを使用した煮物、酢の物の5種類に分けられます。

4段の重箱に詰める

おせちは基本的に、4段の重箱に詰めます。5段に料理を詰める場合、5段目は「福を詰める」場所として空箱にしたり、預かり重や控え重といって1~4段目の補充用に使ったり、屠蘇の器を入れたりもします。

<4段の場合>
壱(いち)の重:祝い肴と口取り(ごまめや数の子、黒豆、たたきゴボウなど)
弐(に)の重:なます(生寿司や酢の物など)
参(さん)の重:焼き物(味噌漬けや酒粕漬け、醤油ベースの幽庵焼き、化粧焼きなど)
与(よ)の重:煮物(子芋や梅人参、クワイなど)

おせち料理の意味・由来

最後に代表的なおせち料理の由来を簡単にご紹介します。食材そのものの由来、語呂合わせ、形状と色、縁起物の見立てにより、五穀豊穣、子孫繁栄、無病息災や長寿、開運、商売繁盛といった願いが、「あの手この手で」めいっぱい込められています。

たたきごぼう

ゴボウを叩いて開くことから、開運の意味。開きごぼうとも言う。ゴボウ自体が、地中深く根をはるので、地に根づき代々繁栄することを願ったり、体に良い食品なので健康を祈ったりする。

田作り(ごまめ)

稲の肥料として刻んだ干鰯(ほしか)が使われていたことから、五穀豊穣の願いを込める。主に関西でごまめと呼ばれるのは、材料の干した小イワシ類が、伍真米(ごまめ)とも言われたため。たくさんの幼魚が子宝に恵まれることを連想させるので子孫繁栄の意味もある。

黒豆

「まめに暮らせるように」と、体が丈夫で健やか、無病息災を願う。

数の子

元は「かどの子」だったのが、卵が多いので「数の子」と呼ばれるようになったと言われる。子の数が多いことにあやかっての子孫繁栄、また、鰊(ニシン)の子を「二親の子」と掛け、「子宝に恵まれますように」という願いも込められている。

エビ

姿が長いひげと曲がった腰に見えることから、長寿を願う食材。紅白の色も縁起が良い。

きんとん

明治時代以降のおせち料理。漢字で書くと「金団」で、名の通り経済発展や豊かさを願う。黄色は太陽や生命力の象徴。

昆布

広布(ひろめ)と呼ばれた食材なので、「名声を広める」とかかっている。また言葉遊びで「よろこぶ(昆布)」。

言葉遊びで「めでたい(鯛)」。紅白の色も好まれる。

蓮根

穴の開いた形状から、「将来の見通しがよくなるように」という願いを込めて。

巻物

昆布巻・伊達(だて)巻など。昔、大事な書画や文章は「軸に巻く」という形態(いわゆる巻物)だったことからから、文化の繁栄や、「学問や教養が付くように」と願う。

子芋

親芋の周囲にたくさん付いて育つため、子孫繁栄を願う。

八頭(ヤツガシラ)

サトイモの一種で、子芋と同じく子孫繁栄を願う。末広がりの「八」という縁起が良さ、人の頭(トップ)になれるようにという願いも込められている。関東など、一部地域で用いられる。

かまぼこ

日の出に見立てて、めでたい食材とされる。紅白で用いられ、赤は「魔除け」、白は「清浄」を意味するとされる。

おせちのレシピ

おせち料理のレシピについて詳しく知りたい方は以下記事をご覧ください。

おせち【御節】のレシピVol.1たたきごぼうと田作り(ごまめ)
おせち【御節】のレシピVol.2 黒豆蜜煮
おせち【御節】のレシピVol.3車海老と数の子
【レシピ付き】『瓢亭』流、おせち料理 前編
【レシピ付き】『瓢亭』流、おせち料理 後編
【レシピ付き】上野流おせち料理、新年を寿ぐ祝いの肴3種
【動画レシピ付き】手間なし+時短の『さか本』流「田作り照煮」

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