和食を科学する料・理・理・科

日本酒ペアリングの科学vol.4 燗酒に合わせた新作椀

日本酒ペアリングを科学的に考えるシリーズの最終回は、『おおさかもん料理 鮨 守屋』のお椀を日本酒に合わせてブラッシュアップします。店主の守屋栄一さんが「うちのだしに合う」と選んだのは、純米吟醸の40℃燗。農学博士の川崎寛也先生の提案で、まずは吸い地、河内鴨、添えのナスと、お椀の要素を分解。一つずつ酒と合わせて改良を試み、新作の河内鴨のお椀が誕生しました。最後に、川崎先生が提案する「相性の要素の分類」を理解した上で目指すべきペアリングの着地点を紹介します。

文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン

目次

守屋栄一さん(大阪・堺『おおさかもん料理 鮨 守屋』店主)

1983年、百舌鳥(もず)生まれ。体育大学では体操競技部に所属し、卒業後は営業マンに。26歳で脱サラし、本町の大人気店『なる山』(閉店)や寝屋川『寿司ほまれ』などで修業。寿司と鮮魚の店『阪神髭定』でも経験を積み、2020年、独立。河内鴨やなにわ黒牛、なにわの伝統野菜などの“おおさかもん”と、「渦巻(うずまき)処理」を施した熟成ネタの寿司を看板に謳う。唎酒師(ききさけし)の資格を持ち、ペアリングにも注力している。

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)、「日本料理大全シリーズ」(日本料理アカデミー)、「料理のしくみがわかる本」(味の素)。

純米吟醸40℃燗と河内鴨のお椀の相性を分析

守屋栄一(以下:守屋)
川崎先生が提案する「相性の要素の分類」をベースに、vol.1、vol.2、vol.3で、日本酒と僕の料理の相性を言語化していただき、いろんな気づきがありました。今回は、うちのお椀を酒に合わせてブラッシュアップしたいと思います。
川崎寛也(以下:川崎)
前回までは料理に酒を合わせましたが、今回は酒に料理を合わせる試みですね。
守屋:
酒は、うちのだしに合う山形の「上喜元(じょうきげん)」純米吟醸の40℃燗にします。まず、だしを味わっていただきたいので、お椀はコースの一番最初にお出ししているのですが、主役は必ず河内鴨。添えの野菜で季節感を表現しています。

ryo0097a山形「上喜元」の純米吟醸「黄橙(おうとう)」。幻の酒米と言われる「辨慶(べんけい)」で醸す。オレンジや白桃を覆わせるフルーツ香があり、ほどよい酸とキレの良さを併せ持つライトな酒質。

川崎:
まず「上喜元」を味見しましょう。ほんのり甘みがあって軽快な酒ですね。穏やかな旨みがだしと合いそうです。
守屋:
40℃燗にするとボディ感が増して、より吸い地と相性が良くなります。では、お椀をお作りしますので、ぜひ合わせてみてください。

ryo0097b河内鴨は5㎜厚に切り、さっと湯引きして、淡口醤油を加えた一番だしに浸しておく。

ryo0097c左/ナス豆腐は、焼きナスのお浸しと豆乳をミキサーにかけ、アガーで固めたもの。右/万願寺唐辛子は炭火焼きに。

ryo0097dナス豆腐の上に、田楽味噌で味付けした河内鴨のそぼろをのせ、万願寺唐辛子の炭火焼きと地漬けした河内鴨を盛る。カツオ昆布の一番だしに淡口醤油を少し加えた吸い地を張り、堺『やまつ辻田』の柚子七味を吸い口に。

川崎:
まず、万願寺唐辛子の焦がしたような香りがパンときます。ちょっとその香りが強いですね。味噌味の鴨そぼろのコクが加わって、吸い地が美味しい。でも、アガーで固めたナス豆腐が溶け出て、少し汚れてしまうのがもったいないですね。河内鴨はレアすぎるかな。「上喜元」40℃燗を合わせると「ウォッシュ」されずに、鴨の生っぽさが残ります。
守屋:
うちは“おおさかもん料理”と謳っているので、お椀は河内鴨で仕立てたいんです。40℃の燗酒と「シェア」の相性になるのが理想なのですが…。

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