「祇園さゝ木」一門会、師弟セッション

佐々木 浩流、9月の献立の立て方【前編】

京都の名割烹『祇園さゝ木』出身の料理人によるコラボイベント後編。この日、3人の“おやっさん”である佐々木 浩さんの姿もカウンターにありました。自らの店を巣立った後も足を運ぶ、愛ある姿勢。すべて食べ終わった後、3人にかけた言葉とは。

文:阪口 香 / 撮影:高見尊裕

目次

佐々木 浩さん(『衹園 さゝ木』店主)

1961年、奈良県生まれ。前衛的な味と軽妙な話術で場を盛り上げるカウンターの名手。98年、36歳で独立し、衹園町北側に『衹園 さゝ木』開店。2006年、現在の地に移転してからはいよいよカリスマ性を発揮。「弟子を育てる店造りを」と再度改装を施し、23年8月、リニューアルオープンを果たす。直営店の『衹園 楽味』は「大人の居酒屋」をコンセプトに掲げ、2013年に開店。アテをつまみながらお酒を楽しめる『食ばぁー 楽味』併設。

古代米の酒粕を随所に使った、同系色の肉の皿

ノリ:
滋賀の精肉店『サカエヤ』の新保(にいほ)吉伸さんが手当てした、北海道の経産牛、部位はサーロイン。130日熟成させたものです。50℃で温めた後、フライパンと炭で一気に火入れしています。

付合せの野菜やソースには、京丹後『向井酒造』の「伊根満開(いねまんかい)」という、古代米(赤米)を使って造られた日本酒の酒粕を使っています。「伊根満開」は鮮やかな赤色で甘酸っぱさもあるお酒。酒粕にもその雰囲気を感じていただけるかと思います。

『cenci』中川寛大さんとビーツの料理右/付合せのビーツは、ガーゼで巻いて「伊根満開」の酒粕などをまとわせて蒸し上げた。

経産牛のステーキビーツは酒粕を外した後にカットし、酒粕とサワークリームで作ったソース、クレソンをのせた。手前のソースはブルーベリーのジャム。全体に散らしているのは、沖縄の島コショウ・ピパーチ。フルーティな香りが特徴。

宮下:
ペアリングは「伊根満開」とフランス・ローヌ地方のシラーを混ぜたもの。「伊根満開」が甘いお酒なので、スパイシーな香りと酸のあるシラーでバランスを取りました。

日本酒「伊根満開」とワインのシラー

楠:
ノンアルコールは、発酵させた紫キャベツとデラウェアのジュースを混ぜ、和辛子、たまり醤油をほんの数滴加えたもの。最後に乾燥させたタイムを散らし、香りを添えています。和辛子が結構ポイントで、一気に味を引き締めてくれますね。

発酵キャベツのドリンク

赤~紫色の同系色でまとめた料理とドリンクは、とてもアイキャッチ。肉の火入れが抜群で、しっとり保水され、噛んだ瞬間にブワッと肉汁が溢れる。ソース、ビーツ、ペアリングに使った「伊根満開」が統一感をもたせるだけでなく、それぞれの食材との相乗効果で多彩な味わいに。コース後半を盛り上げる料理となった。

“真っ黒”な箸休め

箸休めの料理

楠:
冬瓜を炊いたものを黒麹に漬け込みました。黒麹とは焼酎を造る際などに使う麹で、甘酒のような甘さ、クエン酸由来の酸味も出ます。そこにクラッシュアイスを入れ、振り柚子をしているので、口中をさっぱりしていただけます。

シャーベットや爽やかな野菜料理が供されることが多いポジションに、意想外な一品。見たことがない料理に、お客も関心を寄せていた。

旨み濃厚なスッポンスープ

宮下:
蒸しスープは、スッポンのだしに、鶏の足のモミジ、ドライトマト、貝柱、生ハム、ショウガを入れて蒸してます。味つけはほんの少しの薄口醤油のみ。具は小カブと玄米餅です。

イタリアのモスカート(マスカット)のオレンジワイン(白ブドウの皮や種も一緒に醸したもの)とお楽しみください。ジューシーで、ちょっと苦みのある感じがスッポンに合うかと。

『ひがしやま司』宮下 司さん、発酵料理人・楠 修二さん、『cenci』中川寛大さん

スッポンのスープノンアルコールは、麦茶を干したショウガ・オレンジと共に煮出したもの。

旨み濃厚なスープに、玄米餅のプチプチした食感や素朴な風味、シンプルに炊いた小カブの存在感が映える一品。食事前にホッと落ち着くポジションだ。

三者三様の締めもの

『ひがしやま司』宮下 司さん、発酵料理人・楠 修二さん、『cenci』中川寛大さん

納豆ご飯とタコのキーマカレー

楠:
青大豆の藁納豆ご飯(写真左)です。豆の味をしっかり感じていただきたいので、発酵はごく浅くしています。“納豆感”を出さないよう、混ぜずに食べていただくのが美味しいです!
宮下:
いつも、コースの最後にカレーを出しているのですが、今回は今までに作ったことのないタコのキーマカレーに挑戦しました。タコとショウガを炒め、トマトジュース・スパイス・黒ニンニクなどを加えて煮ています。上にのせたのは万願寺唐辛子のピクルスです。

手打ち麺と枝豆と鶏節の麺

ノリ:
全粒粉の中力粉を手打ちし、モチモチ食感の麺を作りました。
スープは枝豆を鶏節だしでのばした冷製。富山湾の白エビに米粉を付けて揚げたものと、パクチー・青ジソ・レモンバジルを盛っています。レモングラスオイルをかけているので、混ぜてお召し上がりください。

先付八寸と同じく、それぞれの個性が表れた食事内容。納豆の豆の味わい深さ、タコのキーマカレーという意外性、手打ち麺の食感とスープの馴染みの良さ、ハーブの爽快感など、三者三様に楽しませた。

アニスを利かせた豆花(トウファ)

デザートの豆花

ノリ:
台湾の豆腐のデザート「豆花」をアレンジしました。
豆乳に和三盆で甘みを付け、にがりで寄せた豆腐に、番茶が利いたワラビ餅、アニス(甘い香りのスパイス)を加えて甘く炊いた白小豆を添え、上にマンゴーとパッションフルーツのソースをかけました。仕上げにアニスの香りも添えてます。

アルコールペアリングは、ペルノー(アニスのリキュール)にクラッシュアイスを入れ、ソーダで割ったものです。
楠:
ノンアルは、できたてのミックスジュース。バナナ・桃・パイナップルに、煮切った白ワインを加えています。最後にホッとしていただけたらと思います。

アニスのエキゾチックな香りがアクセントになったデザート。パッションフルーツやワラビ餅など、方向性の違う甘みもしっかりまとめ上げ、食後酒を楽しんだようなスッキリ感もあった。

師匠・佐々木 浩さんから3人へ

『祇園ささ木』の佐々木浩さん

宮下:
おやっさん、今日はお越しいただいてありがとうございました!
佐々木:
こちらこそ、ええ刺激をもらったわ。
3人とも今までに習得してきたことを自分なりに咀嚼して、挑戦的にボリューム感を付けて「これを食べてくれ!」という強さというか自信というか、躍動感みたいなものがあった。それは、すべての料理から感じたわ。
今日はこうして、カウンター越しに勝負したワケや。僕は63歳やから20歳以上年齢が違うけど、「負けてられん、まだまだ走り続けたい」という気持ちにさせられた。感銘を受けた!
全員:
ありがとうございます!
佐々木:
ただ、今日のテーマは何か?ということをもっとはっきりさせた方が良かったな。同じカウンターで食べてた人が「今日のテーマは発酵なんやね」と言うてはった。でも、それだけじゃないやろ。

3人おるから一部・二部・三部構成にするとか、「今日のテーマはコレです!」というのをしっかり掲げるとか。料理人の意図とお客さんの受け取り方ってまったく違うから、そこは今後、生かしていったらええんちゃうかな。
ノリ:
料理として着地させることに精一杯になってたかもしれませんね。
楠:
テーマがあると、お客さまもそこを意識しつつ召し上がっていただけて、より満足度の高いイベントになるでしょうね。いい気づきになりました。
佐々木:
そう思うわ。
でも、今回のコラボは非常に満足度が高かったと思う。それは3人の関係性、兄弟弟子というのも要因やな。献立決めるにも意見しやすいやろし、カウンターの中でも動きやすい。今日見てたら、宮下が主軸で動いて、足りないところを楠や中川がリカバリーしてる。だからこそ料理に膨らみが出つつも無理がない。これは素晴らしいこと。
宮下:
やっぱり、店主同士や面識があまりない人とのコラボは難しいですか。
佐々木:
僕は今までいろんな人とコラボやってきたし、地方も回ってきた。和食同士のコラボってあんまりないから、大概別ジャンルの店主とのやりとりになる。立てるとこ立てて、引くとこ引く、お互い駆け引きしながら進めることになるな。
宮下:
その難しさを乗り越えてやる意味って、どこにありますか?
佐々木:
親方同士は、正直あまりないと思う。
ただ、弟子たちにとってはすごくプラスやねん。イタリアンとかフレンチとか中国料理とか、全然違う調理法を知ってる友達ができる。「あれ、どうやって火入れたん?」とか「あのソース、どうやって作るん?」とか聞いていったら、自分の武器になるし、料理の幅を広げることになる。

そのチャンスを作るのが親方の仕事。それを「めんどくさい」とか言うヤツはちっちゃいわ。弟子がついたら、そいつらのことも考えていかなアカン。
宮下:
おやっさんの親方としての姿勢を、改めて学べて嬉しいです。
佐々木:
また、久々にみんなで飲もうよ! いろいろ話したいわ。
全員:
ぜひ! よろしくお願いいします。ありがとうございました!

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