「祇園さゝ木」一門会、師弟セッション

Vol.3 後編 テーマは「椀物」。 『さゝ木』の夏味、鱧椀の凄み

第3回目となる師弟セッションのテーマは「椀物」。前編では、佐々木さんの右腕を長く務めた“一門会の長男”、『祇園 きだ』店主の木田康夫さんに、コンソメをとる発想で甘鯛のだしをひき、甘鯛のクリアな風味を生かした玉ネギの摺り流しをご披露いただきました。後編では、「椀物は、澄み切った味わいと、ほっこり感を持たせなければ」と語る佐々木さんが、鱧椀という王道を通して、自身の哲学を語ります。

文:船井香緒里 / 撮影:高見尊裕
佐々木 浩さん(『祇園 さゝ木』店主)

1961年、奈良県生まれ。前衛的な味と軽妙な話術で場を盛り上げるカウンターの名手。1997年の開店以降、その独創性で脚光を浴び、2006年現在の地に移転してからはいよいよカリスマ性を発揮。個性豊かな料理人を育て、「一門会」は人気店主の集まりに。

木田康夫さん(『祇園 きだ』店主)

1971年、滋賀県生まれ。『先斗町 ふじ田』から佐々木さんの右腕として活躍し、『祇園 楽味』など系列各店の料理長を経て2016年独立。軽妙なトークと魅せる仕事でカウンターを沸かせている。「柔軟でいて冷静。頼りになる一門会の長男」と佐々木さん。

だしのW使いで、鱧椀に底味を

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木田康夫(以下:木田)
前編では「椀物には、澄み切った味わいとほっこり感が必要」とアドバイスを受け、初心に立ち返ることができました。次はおやっさんの番です。『祇園 さゝ木』におけるこれからの季節の椀物、言うたら“鱧”しかないでしょう。
佐々木 浩(以下:佐々木)
さすがのヨミやな。実は、鱧を使うなら、今しかないと思っている(取材時は5月20日)。
木田:
ちょっと早くないですか? 温暖化で旬の時季が早まっているということですか?
佐々木:
違うんや。6月に入ると鱧は卵を持つやろ。すると、子を守るために骨を強化させる。同じように骨切りをして湯引きや椀種に仕立てたら、骨がやや舌に残る感じがして、僕は気になるんや。
「祇園祭は鱧祭り」と言われるくらい、これから鱧料理は最盛期を迎えるとされているけどな。正直なところ、鱧のふくよかな旨みを感じられるのは、今しかない。その繊細な身質だけを生かしたいから、ウチでは一旦6月10日で鱧の料理は終わり。次は、松茸が旬を迎える落ち鱧までお預けや。
木田:
なるほど。今の時期だけの鱧椀なんですね。おやっさんにとっての椀物の極意、改めて学ばせていただきます。
佐々木:
よっしゃ、まずは鱧だしからいくで。頭と骨は、塩をして一晩寝かせる。余計な水分を拭い、表面を焼いてから、利尻昆布と共に弱火で煮出していく。

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木田:
アラは焼くことで、鱧の香ばしい風味を際立たせるんですね。
佐々木:
その通りや。この鱧だしに、より一層深みを与えてくれるのが、一番だしの存在。

67296732利尻昆布は前日から水に浸しておく。水1ℓに対して昆布30gを使用。翌朝火にかけ、約60℃で1時間加熱する。カツオ節は枕崎産。本枯節の雄節と亀節を7:3の割合でブレンド。

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左の一番だしは輝きのある黄金色。右は鱧のアラからとっただし。吸地には、一番だし:鱧だし=6:4の割合で用いる。沸騰したら塩と酒で味を調える。

木田:
削りガツオを一度に加えたら、すぐに火を止めて濾すんですね。
佐々木:
カツオの風味を一瞬でだしに閉じ込めるイメージやね。沸かしたら大味になるから。
ほな仕上げるで。骨切りした鱧は、葛をはたいて蒸している。レンコン、インゲン豆、ミョウガ、新ゴボウは細切りにして、三ツ葉とさっきの合わせだしで沢煮のようにさっと煮る。吸い口には梅肉、そして振り柚子を。

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木田:
完成ですね。ほな、お客にならせてもらいます。

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佐々木:
お待たせいたしました。徳島産の鱧の葛打ちと夏野菜の沢煮です。熱々をどうぞ。
木田:
いただきます。(じっくり味わいながら)懐かしいなぁ……、これぞおやっさんの味です。一番だしは、リッチな味わいの中にしっかりと底味を感じ、鱧だしのふくよかな旨みも生きています。せやけど昔は、もう少しカツオの味が濃かったような……。

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佐々木:
鱧のだしを合わせたからな。一番だしでカツオを利かせすぎると、その燻香が鱧と風味とバッティングする。せやからあえて、カツオの風味を控え目にしたんや。
木田:
カツオ節を一瞬で引き上げる理由に合点がいきました。
そして鱧は、この時期ならではのさっぱりとした旨みを感じ、沢煮にした野菜からは夏の香りが漂います。日ごと暑さが増すこの時期にはやはり、この爽やかな後味がたまりません。さすが、おやじです。

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佐々木:
シャープな味わいのだし、夏野菜の香り、鱧の脂の旨み……。それらを口に含んだとき、バランスよくハーモナイズしていたら、初夏のお椀としては完璧やと思う。
木田:
季節らしさが大前提にあり、食べ進むにつれて心がホッと和みゆく。この味わいの表現こそ、椀物の神髄だと再認識しました。常にその考えを念頭に置きながら、お客様にハッと喜んでいただけるような、僕らしさを忍ばせて……。これからも果敢に挑戦していきたいです。
佐々木:
ブレない軸の中で、いかにオリジナリティを出すかやな。康夫、これからも期待してるで。

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