料理のうつわ十問十答

明治期の永楽

京焼を代表する永楽の物語も、いよいよクライマックス。今回の十問十答は、十三代の回全(かいぜん)の作品を振り返りながら、明治・大正期の永楽を学びます。明治維新から西洋化が進み、茶の湯は衰退。十四代は茶道具よりもうつわを多く手掛けていきますが、実はその十四代にはお二人が名を連ねているというお話で…。最初の五問は、苦難の永楽家を支えた財閥と、当時の作風について、『菊乃井』の村田知晴さんが『梶 古美術』の梶さん親子に尋ねます。

文:梶 高明 / 撮影:竹中稔彦
答える人:梶 高明さん

『梶 古美術』七代目当主。その見識と目利きを頼りに、京都をはじめ全国の料理人が訪ねてくるという。朝日カルチャーセンターでは骨董講座の講師も担当。現在、「社団法人茶道裏千家淡交会」講師、「NPO法人 日本料理アカデミー」正会員、「京都料理芽生会」賛助会員。
梶 古美術●京都市東山区新門前通東大路通西入ル梅本町260 
https://kajiantiques.com/

質問する人:村田知晴さん

1981年、群馬県生まれ。『株式会社 菊の井』専務取締役を務めながら、京都の名料亭『菊乃井』四代目として料理修業中。35歳で厨房に入り、現在5年目。「京都料理芽生会」「NPO法人 日本料理アカデミー」所属。龍谷大学大学院農学研究科博士後期課程に在籍し、食農科学を専攻している。

共に学ぶ人:梶 燦太さん

1993年、梶さんの次男として京都に生まれる。立命館アジア太平洋大学国際経営学部を卒業後、『梶 古美術』に入り、現在2年目。八代目となるべく勉強中。

(第1問)

十三代・回全の作行きは?

梶 燦太(以下:燦太)
実は、前回お話しした永楽十三代の回全の作品を、また一つ新たに手に入れました。
村田知晴(以下:村田)
十四代の得全が家系図を整理していた時に、永楽家にとても貢献してくれたということで、本人が亡くなってから後に十三代に迎え入れたのが回全だったというお話でしたね。
燦太:
この札に「宗三郎 菊形向付」とあるでしょ。宗三郎とは回全のことです。
箱にはたくさんの貼り紙(はりし)があります。4種類の筆跡があり、紙の古さもそれぞれ違うので、少なくとも4人の方の手を経て来たのではないかと推測できます。「ね拾参」「129番」というナンバリングがあったり、「聚景閣造」とあったり…。

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梶 高明(以下:梶)
聚景閣については調べましたが特定することができませんでした。おそらく料理屋の名前か、所有者の別荘名ではないかと思います。
燦太:
中身は古染付の写しの菊花形の向付です。
梶:
この向付をオークションで見つけた時「上手(じょうて)な向付だなぁ」と思いました。本歌の古染付に比べて整った印象があったので作者を確かめてみたのですが、回全の作品だと分かって納得しました。
以前にお話をしましたが、保全は土風炉(どぶろ)師の名である「善五郎」を和全に譲って、自らは焼物師の「善一郎」を一旦名乗り、やがてはそれを宗三郎に譲ろうと考えていました。こうして宗三郎の作品を改めて眺めると、保全は宗三郎の陶工としての素質を鋭く見抜いていたことに気付かされます。
村田:
見込みに梅と鶯(うぐいす)の絵が描かれていますね。
梶:
秋の菊、春の梅を描くことで季節を問わず使えて、ちょっと汁気のある料理も盛ることができる深さのある向付が欲しい、という注文主からの具体的な指示があったのでしょう。
この作品を見ても、前回ご紹介した酒次や蛤形向付を見ても、回全はこだわりの強い上手のうつわを手掛けています。
永楽家は困窮していたわけですが、数寄者からの特別な注文も受けていたのでしょうね。そういう仕事を任せても良いほど、回全は腕の立つ陶工だったのだと思います。

ten0016-1b
永楽善五郎(宗三郎)造 染附 菊形向付皿。
単に古染付を写したのではなく、古染付の持つ勢いを失わず、それでいて品よく整えている。「その絶妙な落としどころが表現されています」と梶さん。

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