和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.12 ラストスパート!一次試験前二ヶ月間の一次試験対策

ソムリエ試験の一次試験開始まで残り2ヶ月を切りました。ソムリエの松岡正浩さんから学ぶ「料理人のためのソムリエ試験対策」も終盤。第12回目となる今回は、過去問を通して“出題のクセ”を把握すること、ソムリエ教本の「プロフィール」を頭に入れることの重要性をお伝えいただきます。

文:松岡正浩 

目次

松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地『空心 伽藍堂』シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『空心 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

7月後半から始まる一次試験開始まで、あと二ヶ月を切りました。試験対策が思うように進まず焦っている方がいる一方で、目標に近づき集中力を増している方もいらっしゃると思います。年明けから頑張ってこられた方は、すでに多くのワインの知識を身につけられたことでしょう。

毎日少しずつの努力が、合格のための唯一の道です。これまでの有資格者も同じ道を辿ってまいりました。
目的を見失ったり、精神的に追い込まれたりと、かなりつらい時期であることは私も経験したので理解しております。 しかし、他の受験者も同じようにこの苦しみに耐えつつ努力を続けているはずです。

これから一次試験受験日までが本気の勝負です。多少無理をしてでも時間を絞り出して試験勉強に取り組んでください。この二ヶ月間の努力が人生を変えることになるかもしれないとご自身に言い聞かせながら。合格した後に見える世界があります。
とにかく前に進みましょう。前進しなければ、つかみ取ろうとしなければ、成功を手にすることはできません。

今回は、この時期の一次試験対策として意識していただきたい、試験問題に対応するための暗記、各生産国の「プロフィール」の重要性についてお伝えいたします。


CBT試験と「過去問」

2018年より一次試験がCBT方式に変更になり、数千問以上準備された問題の中からランダムに出題されるようになったため、「過去問」が公開されなくなりました。
受験された方の意見を総合すると、おおよそ約6~7割程度が「過去問」からの出題、残り3~4割が教本問題(CBT方式になってから出題されるようになった、やや難易度の高い問題)のようです。

7割正解すれば一次試験突破は間違いありません。ですから、「過去問」を意識して基本事項を暗記する、教本の重要箇所を繰り返し確認する、この二点に尽きるように思います。

一つ注意点です。問題集やネット上には「過去問」が様々出回っておりますが、そこに書かれている「模範解答」を鵜呑みにしてはいけません。改訂し出版されたばかりの問題集であれば、精査されているかもしれませんが、多くの場合、模範解答は試験が行われた年にソムリエ協会によって発表されたものであることが多く、現在の状況には当てはまらない解答が多々見受けられます。ワインは農作物から造られるものであり、生産高などは年々変化します。また、ワイン法に関しても毎年さまざまな国で数々の変更がなされております。
ですから、現在に即した解答を教本から導く必要があります。「模範解答」を疑う必要はないかもしれませんが、違和感を感じた時はすぐに確認するように心がけましょう。


「過去問」を通して暗記するということ

上記でふれたように6~7割は「過去問」からの出題です。これまで以上に「過去問」を意識して暗記作業を続けてください。

何よりも、試験ではこのように問われるというソムリエ協会のクセを知ることがとても大切で、覚えなくてはならない事柄を試験に即した形で暗記することに意味があります。過去問、問題集は本番直前の力試しという考え方は、基礎練習ばかりを続けて実践を経験しないのと同じです。
さらに、その日に勉強した内容、復習した事柄など、記憶があやふやなタイミングで「過去問」に挑戦することで知識として定着する確率が上がります。

下記の「過去問」に挑戦してみてください。

「過去問」
次の1-4の中からMedoc 1855年の格付で5級の格付ワインが最も多いA.O.C.を1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。

1.Pauillac
2.Margaux
3.Saint-Estephe
4.Saint-Julien

どのシャトーがどのAOCの何級であるかということばかりを暗記していては、足元をすくわれるような問題です。

「過去問」
次の1-4のMedoc 1855年の格付ワインの中からA.O.C.名がHaut-Medocとラベルに表示され、格付等級が最も上位なものを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。

1.Chateau Cantemerle
2.Chateau La Lagune
3.Chateau Leoville-Poyferre
4.Chateau La Tour-Carnet

これまたいやらしい問われ方です。それぞれをしっかりと暗記していれば問題ないのですが、あやふやな知識では「格付等級が最も上位なもの」を選択することは難しいと思われます。

「過去問」
次のシャトーの中から1855年のMedocの格付けで、Margaux村で生産されている3級のシャトーを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。

1.Chateau Pouget
2.Chateau Prieure-Lichine
3.Chateau Ferriere
4.Chateau Lascombes

私としては「1. Chateau Pouget」や「3. Chateau Ferriere」は地味なんです。ですから、あまり記憶に残らない。それでも、このように「過去問」を通して考えることで、記憶の定着に一役買ってくれると思います。

このようにメドック格付けの一覧表をそのまま暗記しただけでは答えることが難しい問題があります。また、問われ方を知ることがとても大切です。
一覧表をただ眺めても、ブツブツ念仏のように唱えてもなかなか頭に入らないもので、過去問を解きながら悩みながら暗記する方が効率が良いと思います。

ということで、「過去問」を通して暗記することの意味、効果をご理解いただけましたでしょうか。


教本の各生産国の「プロフィール」の重要性

皆さんはこの数ヶ月間で驚くほどのワインの知識を身につけました 。そして、教本をある程度スムーズに読み進められるようになったはずです。ワインの基本が身に着き、教本の内容がスムーズに頭に入ってくるようになったこのタイミングでしっかりと各生産国の「プロフィール」を読み込みましょう。
とりわけ、東欧諸国やチリを除く南米諸国に関しては、この「プロフィール」と「過去問」だけで乗り切ることが出来ると思います。

過去の受験者からも以下のような報告をいただいておりますので、ご紹介いたします。

「私の場合、一回目は6割が基本問題、4割が難問でしたが、二回目は7割以上が基本問題でした。出題はランダムと聞いておりますので、この差は運なのかなと思います。一回目で難問が多いと感じたので、二回目受験までの間、各生産国の“プロフィール”を特に自信のない国、手が回らなかった国を中心に読み込みました。おかげで二回目はスムーズに解答できたように思います」

「一回目、不合格でした。自己採点は6割以上7割未満といったところ。正直、あと二週間でどこまで上積みできるのかと心配でしたが、気持ちを入れ替え、言われるがまま各生産国の“プロフィール”を読み込みました。そして、無事、一次突破!今思えば、“プロフィール”を読み理解する過程で、これまで暗記した内容が自分の中で整理され、それが結果として表れたのではないかと思っております」

「教本は分厚過ぎて読む気になれませんでしたが、この“プロフィール”だけは言われたとおりにしっかりと読みました。するとどうでしょう。試験本番中、なんとも悩ましい問題に出合うのですが、“プロフィール”を読みそれなりのイメージを持っていたこともあり二択くらいにまでに絞り込むことができた問題が数問ありました。CBT試験になって難問が増えたと言われますが、解答は以前と変わらず“選択肢”から選ぶわけです。そして、無事一次試験を突破しました」

「第一問目がワインと料理の問題でびっくりし、かなり動揺しました。なんとなく、フランスまたは日本から始まると勝手に思い込んでいました。そして、次に目に入った問題が、まさに前日に“プロフィール”を読んでイメージを覚えていたルーマニアで、ここからリズムを取り戻しました。その後も、この“プロフィール”を読んだおかげで得点になった問題がいくつもありました。“プロフィール”を読みなさいと言われたことに心から感謝した瞬間でした」

「仕事が忙しく、自分の時間をあまり取れなかった私はいかに効率良く一次試験を突破できるかを考えました。過去の出題とこれまで合格された方の受験報告から、勉強すべき箇所と捨てる箇所を完全に決めてしまうという作戦で一次試験に臨みました。例えば、ボルドーの格付けは諦める、ドイツは全て捨てるといった感じです。ただ、各生産国の“プロフィール”だけはしっかりと読み込みました。そして、一発で一次試験を突破しました」

「一回目受験の一週間前から、自身でまとめたノートを全て見直し、日本、日本酒は教本の全ての項目をしっかり読み込みました。また、教本のページが少ない国については“プロフィール”のみを流し読みしました。これだけで10問近く拾えたと思います」

いかがでしょうか。教本の内容すべてを理解、暗記することは不可能ですが、過去問と「プロフィール」に絞って勉強することで、先が見えてくるように感じていただければと願っております。

最後になりますが、一次試験を突破しないと二次試験に挑めませんから、この時期は何をおいても一次試験対策が最優先です。ただ、それでも二次のテイスティング対策、「テイスティングして書き留める」を並行して続けてください。テイスティングは暗記と違って、結果として表れるまでに時間がかかるんです。

今、本当に辛い時期だと思います。それでも、長い人生で考えるとたったの二ヶ月、この期間の本気の頑張りで「ソムリエ」になれるのであれば挑戦する価値は大いにあると思います。

▼料理人のためのソムリエ試験対策 他の回はコチラから。

Vol.1 概要編
Vol.2 一次試験対策前にすべきこと
Vol.3 一次試験対策の準備と春先までの勉強法
Vol.4 一次試験対策、教本と過去問を利用した勉強法
Vol.5 二次試験対策の準備
Vol.6 二次試験対策として意識すべきワインについて
Vol.7 テイスティングして書き留める
Vol.8 ワインの酸とアルコール
Vol.9 主要白ブドウ品種の特徴
Vol.10 主要黒ブドウ品種の特徴 その1
Vol.11 主要黒ブドウ品種の特徴 その2

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