永楽の料理うつわが教えてくれること
多くの写しを手掛け、多彩な作風を持つ永楽家は“揃いの美”という独自の世界を昇華させてきました。そして、大正・昭和期から現代。再び茶道具の焼物師として名を馳せるようになっていきます。永楽最終章となる今回は、そんな過渡期にあった十四代・妙全から十六代・即全の作品の中から、『梶 古美術』の梶 高明さんが目利きした料理うつわをご紹介。『菊乃井』の村田知晴さんが、料理人として、永楽のうつわから学んだこととは?
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答える人:梶 高明さん
『梶 古美術』七代目当主。その見識と目利きを頼りに、京都をはじめ全国の料理人が訪ねてくるという。朝日カルチャーセンターでは骨董講座の講師も担当。現在、「社団法人茶道裏千家淡交会」講師、「NPO法人 日本料理アカデミー」正会員、「京都料理芽生会」賛助会員。
梶 古美術●京都市東山区新門前通東大路通西入ル梅本町260
https://kajiantiques.com/
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質問する人:村田知晴さん
1981年、群馬県生まれ。『株式会社 菊の井』専務取締役を務めながら、京都の名料亭『菊乃井』四代目として料理修業中。35歳で厨房に入り、現在5年目。「京都料理芽生会」「NPO法人 日本料理アカデミー」所属。龍谷大学大学院農学研究科博士後期課程に在籍し、食農科学を専攻している。
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共に学ぶ人:梶 燦太さん
1993年、梶さんの次男として京都に生まれる。立命館アジア太平洋大学国際経営学部を卒業後、『梶 古美術』に入り、現在2年目。八代目となるべく勉強中。
(第6問)
妙全の手掛けた名作は?
- 村田知晴(以下:村田)
- 梶さんから見て、妙全の作品の特徴みたいなものってありますか?
- 梶 高明(以下:梶)
- 妙全の時代の永楽家はものすごい数のうつわをつくっています。お家を存続させるためには、茶道具に軸足を置くだけでは駄目だったのでしょう。
明治期も後半となると交通手段が発達し、多くの人が旅行をし始め、料理旅館も人気を博しました。そんな観光や飲食業で盛り上がった業界の需要を満たすために、妙全は懸命に働いたのでしょうね。
ですから、やや粗雑なうつわを目にすることもあります。逆に、素晴らしいうつわも手掛け、こんなお重までもつくっています。
- 梶 燦太(以下:燦太)
- これは、古染付ではなく、新渡(しんと)染付の写しです。
古染付は明の時代に景徳鎮(けいとくちん)でつくられたものを指し、古渡り(こわたり)とも言いますが、新渡はその後の時代のもの。清朝以降につくられ、新たに渡ってきた磁器です。
永楽妙全造 新渡写 染附飛鶴絵重。
窯で焼成する際、陶器はどうしても変形するのでトチンと呼ばれる陶器の柱を何カ所にも立ててうつわを支えるが、その苦労の跡を高台裏に見ることができる。
- 梶:
- 前回ご紹介した染付菊形向付と、どこか同じ匂いがする堂々とした完成度の高いお重です。私はこの作品以外で永楽家のつくった重箱を見たことがありませんから、何か特別な依頼があっての作だと思います。
このお重には、表千家と十六代・即全の箱書きがそれぞれある共蓋の他に、塗蓋が添えられています。この蓋を手掛けたのは、千家十職(せんけじっしょく)の塗師・中村宗哲です。このことから考えても、食籠(じきろ)としても茶室で使えるようにつくられたのだと思います。食籠は主に表千家で使われる道具なのですよ。
- 燦太:
- 千家十職というのは、三千家に出入りする、茶碗師の樂家など十の職家を表す尊称であることは以前お話ししましたね。永楽家も土風炉(どぶろ)師として名を連ねています。
- 村田:
- 千家十職のコラボみたいな感じですね。
- 梶:
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塗蓋には、表千家十二代の惺斎(せいさい)の花押(かおう)もあります。表千家からの注文だったのか、お家元の好みに近い形でつくられているようで、いかにも十職ならではの仕事です。
お重にある印も河濱支流ですし、かなり気合いの入った作品ですね。この箱書きの成り立ちをお話しすると、妙全の箱書きがなかったにもかかわらず、左下の表千家惺斎の箱書きが最初に存在しています。次に右の宗哲の塗蓋が発注され、塗蓋が宗哲の作であると記した左上の板が追加され、塗蓋自体にも惺斎の花押が書かれた。最後に永楽十六代・即全が惺斎の書いた箱に自らの名前を記すことを遠慮し、宗哲の箱書きの横に鑑定書きを行ったと考えられます。
以上のことからもこの作品の誕生に表千家が強く関わったことが伺い知れます。
左上の箱には「新渡写 染附飛鶴重 妙全作 即全印 善五郎極」と書かれ、 塗師・ 宗哲印がある。左下の箱は「永楽造 染附飛鶴繪重 ヌリ蓋 宗哲」と書かれ、惺斎花押がある。右の塗蓋にあるのも惺斎花押だ。花押は塗蓋の中央をわずかに外して記され、いかにも茶人らしい「控える」姿勢を表している。
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