料理のうつわ十問十答

魯山人の文字皿【前編】

篆刻(てんこく)家、陶芸家、漆芸家、料理人にして美食家。稀代の芸術家として知られる北大路魯山人(きたおおじろさんじん)をもっと知りたい!と言う『菊乃井』村田知晴さんのリクエストで、2022年8月に続く第2弾をお届けします。生涯で20~30万点と言われる作品の中から、『梶 古美術』の梶 高明さんが選んだテーマは文字皿。書を得意としていた魯山人ならではの技と感性に迫ります。

文:梶 高明 / 撮影:竹中稔彦
答える人:梶 高明さん

『梶 古美術』七代目当主。その見識と目利きを頼りに、京都をはじめ全国の料理人が訪ねてくるという。朝日カルチャーセンターでは骨董講座の講師も担当。現在、「社団法人 茶道裏千家淡交会」講師、「NPO法人 日本料理アカデミー」正会員,「京都料理芽生会」賛助会員。
梶 古美術●京都市東山区新門前通東大路通西入ル梅本町260 
kajiantiques.com/

質問する人:村田 知晴さん

1981年、群馬県生まれ。『株式会社 菊の井』専務取締役を務めながら、京都の名料亭『菊乃井』四代目として料理修業中。35歳で厨房に入る。「京都料理芽生会」「NPO法人 日本料理アカデミー」所属。龍谷大学大学院農学研究科博士後期課程に在籍し、食農科学を専攻している。
菊乃井本店●京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル下河原町459
kikunoi.jp/

共に学ぶ人:梶 燦太さん

1993年、梶さんの次男として京都に生まれる。立命館アジア太平洋大学国際経営学部を卒業後、『梶 古美術』に入り、八代目となるべく勉強中。

(第1問)

魯山人の作風が幅広いワケは?

村田知晴(以下:村田)
以前、魯山人の乾山(けんざん)写しを見せていただきました。その時、梶さんは「魯山人の魅力を語るのは1回では無理なので、また機会があれば」と仰っていましたので、今回リクエストさせていただきました!
梶 高明(以下:梶)
魯山人の作品全体にお話を広げてしまうと、作風が多種多様であるため、一つ一つの解説が浅くなってしまいます。それで前回は乾山写しを軸に、ざっと魯山人の人生も絡めてお話しさせていただきました。
知晴さんは、魯山人というとどんなイメージを持たれていますか?
村田:
破天荒やワガママという人物像はさておき(笑)、何でもやる人というイメージです。
梶 燦太(以下:燦太)
魯山人は京都生まれですが、いろんなところで作陶しています。加賀では『須田菁華(すだせいか)窯』で染付をやっていますし、信楽や備前にも滞在していました。
志野や織部など美濃の古陶にも精通し、鎌倉に開設した『星岡窯』で焼いていましたし、日月椀に代表されるように加賀地方の山中温泉などで漆器も手掛けていました。
梶:
私たちの感覚として、やきものはその産地近くの土を用いるものだと思いがちです。信楽・唐津・備前など、地名がやきものの名称になるケースも多く見られます。

ところが、京都にはやきものに適した良質な陶土が少なかったために、磁器には天草の土、陶器は信楽の土というように、好みの土を取り寄せて作品を生産していました。そのため京焼は、「この色、この形」といった定形に当てはめられるものではありません。磁器もあれば陶器もあります。
そんな京焼の影響を、魯山人は多分に受けているのだと思います。
村田:
京都で上質な焼き物にたくさん触れてきたのでしょうね。
梶:
茶人を含め、多くの数寄者が暮らしている町ですから、日本中の陶磁器、漆器だけでなく、外国からも多種多様のうつわが集まってきます。大袈裟に言っているのではなく、自分たちが良いと思った世界中のやきものをアレンジして京都のやきものにしてしまう柔軟さ、大胆さ、貪欲さがあります。
そんなスタイルを魯山人も、自らの姿勢に自然と取り入れていったのでしょう。

それから、魯山人は自信家ですから、備前を見ても、漆器を見ても、「自分が手掛ければもっといいものができる!」という閃きがあったのでしょうね。体中のアドレナリンを沸き立たせて「何でもやってやる」というのが、魯山人を唯一無二の存在たらしめているのだと私は思います。
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