生産者―料理人―食べ手を繋ぐ 奈良の「カレーキャラバン」
コロナ禍により、飲食業界は激変。お客さまに安心して食事を楽しんでいただくには?
席数を減らし、時短営業で減った売り上げを補填するための方法は?
他店のコロナ対策はどうなっている?
「あまから手帖」と連動し、アイデア光る取り組みをお届けします。今回は、開催中止になったイベントの新しいカタチをご紹介。
近鉄百貨店奈良店の地下1階、賑わう食料品売り場の一角。「カレーキャラバン」と掲げられた店前には、冷凍された色とりどりのカレーがズラリと並ぶ。パッケージには、ヤマトポーク、十津川ぶなしめじ、大和牛、大和肉鶏など、奈良が誇る食材名。選ぶのも楽しいラインナップだ。
店前の冷凍庫には、常時約5~10種のカレーが並ぶ。店内に設えられたカウンターは、吉野のキハダという木材。その樹皮は生薬になるが、近年、外国産が主流となり、事業をたたむ農家も。未来に文化を繋ぐため、芯材を積極的に使うプロジェクト「Re;KIHADA」を応援している。
この店を手掛けたのは、奈良県最大級のフードイベント「シェフェスタ」の実行委員会。事務局長の福吉貴英さんは「コロナ禍で2020年秋に行うはずだったイベントは中止。でも、こんな時こそイベントのコンセプトである“生産者—料理人—食べ手を繋ぐ”仕掛けが必要だと思ったんです。だから今回はカタチを変えて開催しました」と話す。
事務局長を務める福吉さんは、奈良の地域メディア誌などを発行する『株式会社エヌ・アイ・プランニング』にて食材と情報誌を一緒に届ける「奈良食べる通信(休刊)」の編集長も経験。現在は、奈良市食育推進委員や、京都・烏丸御池にあるコミュニティキッチン『DAIDOKORO』を運営する『株式会社Q’s』の取締役も務める。
「シェフェスタ」とは、例年、奈良公園や馬見丘陵公園などで開催される食の一大イベント。奈良県食材を広く知ってもらうため、会場では有名シェフが手掛けた料理を食べられるほか、生産者から食材や加工品を購入したり、農家が先生となるワークショップに参加することもできる。年々規模を拡大し、2019年度には約19.8万人の来場者を迎えるほどに。
2009年に「クーカル in奈良」という名でスタートした「シェフェスタ」。2018・2019年の模様から。(写真提供/株式会社エヌ・アイ・プランニング)
コロナ禍により、「シェフェスタ」を含めイベントが続々と中止になり、飲食店にはお客が少なくなり。飲食店も、飲食店を中心に食材を卸していた生産者たちも困窮していた。そこで、「『シェフェスタ』に参加してくださっていた料理人たちに奈良食材を使ったカレーを作っていただき、販売しようと考えました。もともと、馬見丘陵公園会場ではカレーを提供していたのでイベントの流れも汲めるし、和食、イタリア料理、フランス料理など、どんなジャンルの料理人でも作れると思って」と福吉さん。なるほど今回の商品がココナッツにアメリケーヌキーマ、グーラッシュ、和風……と多彩なワケだ。「これまでにご協力いただいた店舗は9店舗。それぞれ数百食ずつですが、作っていただいたカレーはすべて買い取り。魅力的なラインナップが揃いましたし、料理人の方々にも安心して取り組んでいただけたかと思います」。
かくして誕生した「シェフェスタ」のポップアップストア。2020年11月から2021年5月11日までの期間限定で楽しむことができる。
壁には、「カレーキャラバン」に参加するシェフたちの写真が。
シェフたちが作るカレーによって、いい循環が生まれている。例えば、近鉄奈良のフランス料理『ラ・フォルム ド エテルニテ』の「バスク風トマトココナッツカレー」に使われる、天理市『T・ファーム』のプレノワールという黒鶏。イベントの減少により余剰が出た手羽先と手羽元を骨ごと煮込み、とろみがついた、旨みもしっかり感じられる一品に。「やさしい甘さの和風カレー」には、葛城市『寺田農園』のイチジクや柿を使い、フードロスを減らしたという。
近鉄奈良のイタリア料理『リストランテ ボルゴ・コニシ』の山嵜正樹シェフが手掛けたのは、「北イタリアのスパイス煮込みグーラッシュカレー」。取材当日、山嵜シェフが店頭に立っていた。ショップでは、取り組みに参加するシェフがカレーをサーブすることもある。
山嵜シェフ。『ピアット』(閉店)で11年間修業を重ねた後、パスタ専門店『ベッカン ピアット』をオープン。店の定休日に『イ・ルンガ』(東京へ移転)でスタジエ(研修)として通い、堀江純一郎氏の幅広い知識と高い技術を吸収。2014年、新たなステージを目指し、店名を『ボルゴ・コニシ』に変更、奈良食材を使ったリストランテに。2019年、イタリア料理コンテスト「プレミオアッチ」全国3位を獲得した。
手掛けたカレーは、牛肉、パプリカパウダー、クミン、フェンネル、ローズマリー、マジョラムなどを赤ワインで煮込んだ、イタリアの北東・トレンティーノ・アルト・アディジェ州ではポピュラーな料理「グーラッシュ」をアレンジしたもの。「クミンを立たせ、唐辛子を加えることでカレーらしい味わいになります。あとは、奈良食材を組み合わせて」。
山嵜シェフの「北イタリアのスパイス煮込みグーラッシュカレー」1870円(冷凍カレーのテイクアウト1620円)。取材時は山嵜シェフ来店イベントにつき、キャベツと大和橘(やまとたちばな)の塩麹クラウティをトッピング(別途220円。通常時はトッピング不可)。
山嵜シェフは、普段の料理にも大和橘ややまと花びらたけ、曽爾(そに)高原の野菜、大和まな、大和当帰(やまととうき)、イチゴのあすかルビーなど、奈良食材を使う。「イタリアでは、街の教会の鐘の音が聞こえる範囲で生活し、コミュニティを大切にするカンパニリズモの精神があって、顏が見える人たちとの暮らしを大切にします。私は『シェフェスタ』や、その前身の『クーカルin奈良』に参加するようになってから奈良食材を使うようになったのですが、その意味がだんだん分かるようになってきて。ただ距離が近いから使う、というのではなく、生産者の方と会って話をし、この土地にしかないものの素晴らしさを発信していきたいと思っています」。
牛肉には、宇陀(うだ)市の「井上牛」のスネ肉を使用。旨みしっかり、肉質はきめ細やかでクリアな味わい。田原本町で作られる「鎌じいのニンニク」は、風味はありつつも、特有の嫌な匂いがない。とろみ付けには小麦粉ではなく曽爾で作られる米粉「そにっこ」、スパイスには奈良県産の秋ウコンや唐辛子。下市町「へいばらのレモングラス」は、フレッシュな香りで爽やか。大和橘は皮を削って加えることで、高貴な香りをプラス。「大和橘は、2000年も昔から日本人が口にしていたものだから、身体に馴染みやすいように思います。他の柑橘に比べて甘ったるくなく、苦みがありますので、味が締まりますね」。
肉やスパイスなど、山嵜シェフのグーラッシュカレーには多くの奈良県素材が使われる。赤ワインビネガーの代わりにまろやかな柿酢を使うなど、全体の味わいのバランスも考慮されている。
カレーは、「井上牛」から引き出された旨みと、スパイスやハーブのフレッシュで鮮烈な味わいが見事に調和。そして、余韻はどこまでも爽やかだ。蒸してから擦って加えるというショウガがポカポカと身体を温め、全身の細胞が開くような爽快感。
店では、奈良の生産者から買い取った食材で作った「お福分け」も販売。ヤマトポークの柔らか煮や野菜セットなど、そのままはもちろん、カレーにトッピングしても。お米は「コシヒカリ」や「にこまる」など、日によって変わる。
右から、曽爾村のホウレン草216円、ヤマトポークのやわらか煮432円、お米「にこまる」300g540円、生ソーセージ648円、野菜セット324円。すべて湯煎調理。※すべてテイクアウトの価格。イートイン可。
最後に山嵜シェフが語ってくれた。「カレーをここで食べたり、誰かに贈ったりすることで、『昨年は一緒にシェフェスタ行ったね』と思い出話が始まるかもしれないし、生産者に想いを馳せるかもしれない。本来、その架け橋になるのはレストランの役割でしたが、お客さんが少ない今、この場をいただけてとても嬉しいし、ありがたいなと思います。コロナ禍で分断されていた人間関係が繋がったり、心が暖まるきっかけを作れたらいいなと思います」。改めて、「美味しさ」だけでない食の役割を感じた。
ポップアップストアが終了した後は、ネットショップでの販売を継続する予定だ。
<参加店舗>
・フランス料理『イリス ウォーターテラス』秋吉博国さん
「大和肉鶏のタイ風ココナッツカレー」
・フランス料理『ロワゾ・ブリュ』薮本 亮さん
「エビと奈良産キノコのアメリケーヌキーマ」/「ヤマトポーク骨付きスペアリブカレー」
・フランス料理『ラ・フォルム ド エテルニテ』永野良太さん
「奈良県産プレノワールのバスク風トマトココナッツカレー」
・フランス料理『ビストロヨシムラ』吉村文豊さん
牛すじのコラーゲンとゴボウの“和”を感じる美肌カレー」
・イタリア料理『トラットリア・ピアノ』稲次知己さん
「ヤマトポークと十津川ぶなしめじのココナッツカレー」
・イタリア料理『リストランテ ボルゴ・コニシ』山嵜正樹さん
「北イタリアのスパイス煮込みグーラッシュカレー」
・日本料理『心根』片山 城さん
「秋刀魚と吉野の原木しいたけのスパイス“和”カレー」
・洋食『菊水楼』君島豊さん
「明治24年創業至高のビーフカレー」
・タイ料理『RAHOTSU』別所有可さん&諸江紀夫さん
「奈良産大鉄砲大豆のガパオカレー」
他、「奈良チャツネで作ったやさしい甘さの和風カレー」「奈良県曽爾村セロリと大和肉鶏スープのスパイスカレー」「アメ色玉ねぎと大和牛の煮込みカレー」など、「シェフェスタ」オリジナルカレーあり。
※売り切れ次第、販売は終了。
<取り寄せ>
奈良のこだわり専門店ナラノコト楽天市場店『カレーキャラバン』
https://item.rakuten.co.jp/naranokoto/1047-80001006/...
奈良のこだわり専門店「ナラノコト」Yahoo!ショッピング
https://shopping.geocities.jp/naranokoto/
【住所】近鉄百貨店 奈良店 B1「食料品のフロア」(奈良市西大寺東町2-4-1)
【電話番号】0742-33-1111
【営業時間】10:00〜19:00
【定休日】近鉄百貨店 奈良店に準ずる
http://nara-foodfestival.jp/
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