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「タクシー業界と飲食店さんは、一蓮托生の間柄です。コロナ禍で我々も大きなダメージをこうむっていますが、飲食業界はさらに深刻。痛みを分かち合い、我々にできることで応援するための手立てとして、『タク配』はとても有効な事業でした」。そう語るのは、京都のタクシー大手「エムケイ」の経営企画部次長・東 真一さんだ。

タク配とは、タクシーによるフードデリバリーサービスの通称。従来、飲食物のデリバリーを含む「貨物輸送」はタクシーには認められていなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大による生活様式・消費行動の激変をうけ、2020年4月から、国土交通省の特例的取扱によって可能となったものだ（この措置は、同年10月以降、恒久化されている）。

同社は京都で初、全国でも指折りの早さで参入に名乗りを上げ、許可開始当日に許可をとったが、そのスピードよりもさらに話題を呼んだのが、緊急事態宣言中の京都市内のタク配料を1件110円の破格値としたことだ。会社として少なくない負担となるが、飲食業界を応援したい、またその心意気を示すことで「エムケイ」のファンを増やしたいという青木信明代表取締役社長の一声で、この料金は決まったという。
「今年6月の宣言解除後は距離に応じた料金体系に移行しましたが、それでも同一区内なら550円、隣接する区内へのデリバリーで700～900円です」と東さん。

注文の流れは、お客の注文を受けた飲食店が「エムケイ」24時間専用ダイヤルに配車依頼を行い、近くのタクシーが店に向かって料理をピックアップ。この際、感染予防の観点から、ドライバーは運搬用の保温バッグを含め料理には一切手を触れず、積み込みは飲食店側のスタッフが行う。配送先でも、最寄りの場所に停めたタクシーまでお客に取りに来てもらい、バッグからの料理の取り出しもお客が行う。やや煩雑だが、感染リスクを極力減らすためには必要な手順。支払いをクレジットカードやQRコード決済など、現金以外の方法に限っているのも感染対策の一環だ。

このタク配サービスを取り入れている左京区の『下鴨茶寮』では、2020年4月から「おうち料亭」と銘打ち、鍋物のセットを含む豪勢な「味重ね三段重」（2～3人前21600円）をはじめ「料亭の酒肴」（2人前2700円）や「贅沢弁当」（3240円）、さらに「料亭の贅沢椀」（1080円）までを自宅で楽しめるよう腕をふるっている。

同店ブランド推進室の奥田知位子さんは「感染対策に気を遣ってタクシーで店まで往復するよりはと、タク配をご利用になるお客さまは多いですね。ホテルで巣籠もりしつつ、当店の料理をタク配で取り寄せてお好みのお酒と楽しむお客さまも」と語る。精緻に、きらびやかに盛り込まれた日本料理であれば、運搬時の揺れが気になるところだが、その点、プロが運転する四輪での配送には大いに安心感があるとも。

『下鴨茶寮』では、「おうち料亭」と銘打つ多彩な季節料理の詰合せを用意する。左は料亭の酒肴（全9品・2人前）2700円。この日はハモの南蛮漬け、タコ・キュウリの柚子ゴマ和え、穴子酒盗焼きなど。料亭の贅沢椀は1人前1080円。この日はハモの真丈。

おうち下鴨茶寮・味かさね三段重2～3人前21600円。スズキの蓼焼き、からし蓮根、タコの柔らか煮など20種以上盛り込まれた、夏のある日の三段重。鮮やかで晴れの日にピッタリだ。「お料理を極力揺らさないよう、路面の状態やスピードに気を配っています」とは「エムケイ」ドライバーの岡田夏美さん。

フードデリバリー業にはすでに数多くの会社が参入しており、サービスの内容も社によってさまざま。価格だけを取ってみれば、「エムケイ」タク配の通常料金は安い部類ではないが、上記のような感染対策の徹底、プロのドライバーによる運搬といったクオリティ面での大きなアドバンテージがある。長年培われた「エムケイ」のブランド力も相まって、安心・安全を求めるユーザーへの訴求力は高いと言えるだろう。

「街なかの観光客が消え、ドライバーは意気消沈していたのですが、この事業を始めたことでモチベーションを取り戻してくれた。社会貢献という見地からも、始めてよかったと思える事業です」と東さん。現在、タク配によるデリバリーを取り入れている京都の飲食店は200店舗ほど。その数は日を追うごとに増えている。

●エムケイ https://mk-takuhai.jp/