ウィズコロナの食

兵庫の酒蔵×酒販店のタッグで"飲み比べセット"限定発売

約1年にわたるコロナ禍の感染防止対策により、営業時間を短縮、あるいは扉を閉ざしたままの店。そんな飲食業界の影響を大きく受けているのが、酒販・酒造業界だ。例年であれば、搾りたての新酒に飲み手の心は浮き立つ頃。しかしながら、それを提供する飲食店が大打撃を受けたことにより、酒類もまた行き場を失ってしまった。
その危機的状況に落胆するだけではなく、酒の造り手としてのアクションを起こそう。そう声をかけあって誕生したのが、兵庫県内の五つの蔵が手を携えるユニット「HYO5KURA」だ。

文:藤田 千恵子 / 撮影:東谷幸一

呼びかけ人は、「純青」醸造元・加西市『富久錦』蔵元の稲岡敬之さん。「年明け1月に、昨年の第1波の時よりも、さらに出荷が減ったことに驚いて。これは酒屋さんに探りを入れようと(笑)。大阪の中山正章さん(『酒蔵なかやま』店主)に電話してみたところ、『去年の緊急事態宣言の時より出荷の動きが鈍くなってる。飲食店が活力を失っているし、どこの蔵も前回よりヒドイでぇ』と聞いて。みんなそうか、うちだけじゃないんだ、とホッとして。いやいや、ホッとしたらアカンって(笑)」。
ほかの酒販店さんと連絡をとりあってみても、聞くのは酒の需要が停滞している状況ばかり。明石市の『岩井寿商店』の岩井達也さんは、「開いている飲食店がほぼない状態では、酒の出荷が止まる。酒が動かなければ蔵元さんのタンクや在庫が圧迫される」と蔵を気遣い、神戸市『酒のてらむら』寺村仁均さんも「自粛とはいいながらも、それなりにお金を使った正月の後は、消費は落ちている。飲食店が止まった分、家飲みに向けて何かアクションを起こさないと」と思案していたという。

左から、明石『岩井寿商店』岩井達也さん、大阪『酒蔵なかやま』中山正章さん、神戸『酒のてらむら』寺村仁均さん。酒販店にもコロナ禍による消費縮小の波が押し寄せていると声を揃える。

稲岡さんは、酒蔵の仲間にも電話を入れた。兵庫県内の造り手たちは、この四半世紀にわたって「兵庫県酒造技術研究会」で共に学び合うことで、日ごろから交流がある。「どない?」と聞いてみると、どの蔵も厳しい状況であることは変わらなかった。
ならば、と稲岡さんは親しい仲間たちに「何か、やろう!」と持ちかけてみた。「何かって、何?」という相談で集まりたいところだが、蔵は酒造りの真っ只中、なおかつコロナ禍ということでZOOM会議が開催された。参加者は、前述の酒販店の主たちに加え、酒蔵からは神戸市「仙介」醸造元『泉酒造』杜氏の和氣卓司さん、明石市「来楽」醸造元『茨木酒造』蔵元・茨木幹人さん、加古川市「盛典」醸造元『岡田本家』蔵元の岡田洋一さん、宍粟市「播州一献」醸造元『山陽盃酒造』の壷阪雄一さんというメンバー。誰もが危機感を募らせていただけに、声を掛け合ってから第1回目の会議まで1週間という速さ。それぞれから異口同音に「マイナスの気持ちになっていた時にみんなで一緒に何かやれることは、心強い」「このメンバーに声をかけてもらって嬉しい」「コロナ禍の活力になる」という声が上がった。

左から、「盛典」を醸す加古川『岡田本家』蔵元杜氏・岡田洋一さん、「播州一献」の『山陽盃酒造』蔵元・壺阪雄一さん、「仙介」で知られる『泉酒造』杜氏・和氣卓司さん、「来楽」の明石『茨木酒造』蔵元杜氏・茨木幹人さん。そして、今回の呼びかけ人、「純青」蔵元『冨久錦』の稲岡敬之さん。

午後6時から開始のZOOM会議は、途中、蔵の麹室での作業や食事など、もろもろの事情に応じる形で延々と続き、やがてZOOM飲みへと発展しながらなんと23時にまで及んだという。
結果、出てきた案は、家飲みの需要に向けての新商品の販売。
5蔵がそれぞれの酒を300㎖の瓶に詰め、一箱に納めて宅配便で各家庭に発送するというスタイルに決まった。酒質の規格は統一せず、むしろ、それぞれ異なるほうが飲む人にとっては面白いし、嬉しい。ただし、原料米は兵庫県産米を使用し、さらには、他では飲めない、この企画限定のオリジナル酒を詰めることが決め事となった。

発売数量は限定500セット。販売もまた、すでに信頼関係が生じている酒販店で、なおかつ、この企画に賛同して販売を請け負ってくれる兵庫、大阪の酒販店への依託に限定された。
300㎖という少量ずつの酒を瓶詰めすることも、同業他社の酒と一緒に一箱に収まることも、蔵元たちにとっては前例のないこと。しかし、家飲みを楽しもうとする飲み手にとってはなんとも魅力的な詰め合わせのセットの誕生だ。

「五蔵一心」と名付けられたこの詰め合わせセットの申込み締め切りは、3月31日。4月9日一斉発送となる。2月末の発売開始から飛ぶように売れ、現在は残り僅かとなっている。

なお、蔵元ユニット「HYO5KURA」および、それを支える酒販店グループの活動は、この企画限定ではなく、今後も兵庫および、関西の日本酒振興のために継続される予定。このセットを皮切りに、今後は非常事態宣言解除後の飲食店に向けての新企画にも意欲的だ。

「五蔵一心」3960円(各300㎖、送料別)。「仙介」純米吟醸生酒原酒(兵庫錦)、「来楽」山田錦特別純米、「盛典」特別純米生酒原酒(五百万石)、「純青」愛山生酛純米吟醸一火、「播州一献」純米原酒(山田錦)の詰合せ。申込み受付は3月31日まで。4月9日一斉発売。

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事ウィズコロナの食

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です