「祇園さゝ木」一門会、師弟セッション

『祇園さゝ木』2月の献立会議【前編】

京都の名割烹『祇園さゝ木』。2023年、大将・佐々木 浩さんは店の大改装に加え、「献立会議」にて調理スタッフ全員と共に献立を考えるスタイルに切り替えました。弟子たちの発想を柔軟に取り入れ、佐々木さんの経験値を掛け合わせた“新味”溢れるコースに。今回から、献立会議の模様を前編・後編で、試作を重ねた後の試食会を動画にてお届けします。

文:阪口 香 / 撮影:竹中稔彦

目次

佐々木 浩さん(『衹園 さゝ木』店主)

1961年、奈良県生まれ。前衛的な味と軽妙な話術で場を盛り上げるカウンターの名手。97年に独立し、衹園町北側に『衹園 さゝ木』開店。2006年、現在の地に移転してからはいよいよカリスマ性を発揮。「弟子を育てる店造りを」と改装を施し、23年8月、リニューアルオープンを果たす。

『祇園さゝ木』流、献立会議とは

日本料理の根幹を重んじつつ、常に新風を吹き込んできた『祇園さゝ木』の佐々木 浩さん。圧倒的なライヴパフォーマンスを可能にした一斉スタート、食材の個性を引き出す石窯での火入れ、マダムたちから絶賛のランチの選べるデザート…。お客の心をガシッと掴むアイデアを次々と実現し、いつしか「割烹の革命児」と呼ばれるようになった。

そんな佐々木さんが今、取り組むのが「弟子と共に挑む味づくり」。調理スタッフと共にアイデアを出し合い、若い感性と佐々木さんの経験値を掛け合わせ、献立を組み立てる。

右より煮方を務める坂東春樹さん、田中涼平さん、千谷友哉さん、桑原汰知(たいち)さん、ピスケルニック・ナディアさん、下澤海里(かいり)さん調理スタッフは、右より煮方を務める坂東春樹さん、田中涼平さん、千谷友哉さん、桑原汰知(たいち)さん、ピスケルニック・ナディアさん、下澤海里(かいり)さん。

夜のコースは基本的に、先付、前菜、椀、向付2品、鮨2カン、焼き物、進肴(すすめざかな)、鉢物、ご飯物、デザート。昼のコースは夜のメニューを取り入れつつ、料理6品、ご飯、デザートで構成する。

今回お届けするのは、2月17日から切り替わる夜コースについて。
【前編】では先付、前菜、椀、【後編】では焼き物、進肴、鉢物、ご飯物、デザートの献立を話し合う。
献立会議を経た後、すべての料理を何日かに分けて試作し、試食会でサービススタッフや姉妹店『祇園 楽味』のスタッフなどがコースの流れで試食し、最終チェック。料理内容は、その都度、修正・改良が加えられる。

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先付

佐々木:
えー、2月の献立会議ですね。よろしくお願いします!
予報では2月はめっちゃ寒く、3月から一気に春めくらしい。寒い、という前提で献立を立てていきましょう。

では先付から。考えてきた人、どんどん言うてって。
坂東:
僕が考えたのは、カラスミ餅のアレンジです。焼く、もしくは揚げた餅に、カブのあんとカラスミをたっぷりかけた温かい先付はどうかなと思っています。
佐々木:
うーん、まだ餅使う? 2月はどうかなぁ…。
田中:
僕は、フグ白子の醤油焼きがいいと思います。炭で焼いた白菜の芯と、もち米を炊いてから丸く抜いて表面をカリッと焼いたものの上にのせ、フグのヒレの香りを移したフグあんをかけ、柚子を散らす。スプーンで崩しながら召し上がっていただくイメージです。

佐々木:
今、うちにある白子はゴマフグやな。ゴマフグの白子は皮が厚いから、ペーストにして型に流して焼いたらできるけど、それやと1月の先付に似てきてしまうなぁ…。
坂東:
僕、白子は焼き物でグラタンにしたいと思ってます。
佐々木:
……なるほど。それなら皮も問題ないな。
とりあえず先付、他に考えてる人は?
千谷:
はい。タイラ貝と車エビ、白菜の芯とハッサクを、フキノトウと白酢を合わせた「フキノトウ白酢」で食べていただくのはどうかな、と思っています。
桑原:
僕はキャビアを使いたいです。
食材は車エビとイカ、食感にチシャトウ、ウルイの地漬け。キャビアには卵黄が合うので、酢を控えた黄身酢と、三宝柑(サンポウカン:柚子とダイダイを自然交配した果物)をタルタル状にしたものをかけ、上にキャビアをのせます。

佐々木:
今、三宝柑ないで。夏が暑すぎて国産の柑橘が採れてないはずや。
桑原:
別の柑橘、柚子か何か…。
佐々木:
もっとええ柑橘ないか? 安定して仕入れられるやつ。ちょっと今、八百屋に電話してみて。
桑原:
(電話を終えて)三宝柑はやはりなくて、八朔(ハッサク)は出始めてるけど高いかもしれない、せとかや紅まどんなが出てきてるみたいです。ブラッドオレンジやマイヤーレモン(オレンジとレモンを交雑した果物)はあるみたいです。
佐々木:
ブラッドオレンジはフルーツ感が強すぎるから違うと思うわ。マイヤーレモンはレモンに比べて酸味は穏やかやけどどうかな…。寒い時に酸っぱいもんはゾクッとするから。

ナディア、何か考えた?
ナディア:
ワラビが出てくる時季かな、と思うので、ワラビと長芋のコノコ和えを出すのはどうでしょう。
佐々木:
コノコ、ちょうど出てくる頃やね。おいしいよなぁ。
下澤:
僕は、タラと雲子(タラの白子)の柚釜を考えました。柚子釜に松前焼にした雲子、煎り酒の香りを付けたタラを入れ、上から銀餡をかける。芽ネギと白髪ネギ、マイクロ水菜、あられ状に切った柚子皮を合わせて盛ります。

佐々木:
なるほど。
うーん、ウチの食材の在庫やいろんなことを勘案した上で……。タイチの考えたキャビアと旬の魚介は先付としてワクワク感があってええな。
ただ、柑橘をタルタルにするのは手数が多すぎるから、小さめの塊にして他の食材と和えて盛り、黄身酢をかけてキャビアをのせる、というのがいいと思うわ。

一旦、これで進めよう。

前菜

佐々木:
先付の次、前菜いくか、お椀いくか。どうする?
坂東:
前菜、考えてきました。
旬食材を青さ海苔のゼリーシートで食べていただく仕立てです。ゼリーシートは加減酢のジュレに青さ海苔をたっぷり加えたもので、長方形に切って、皿に盛ったホッキ貝やミル貝などの貝類、半生の車エビ、ウルイや菜の花、金柑などをくるんで食べていただきます。
佐々木:
オモロいけど……先付に柑橘が入ってるから、果実の酸味が続くのは違うなぁ。
千谷:
僕は八寸を考えました。
子持ちのヤリイカと柚子、海老芋を炊いたものにあん肝味噌を塗ってバーナーで炙った田楽、セリのお浸し、花レンコンなどを盛り合わせます。

佐々木:
うーん、それ、一皿に盛るのは無理あるんちゃう? 子持ちヤリイカって大きいから、どう切って盛るのか、僕には想像つかへん。

あと、一番大切なんは、八寸て季節感を表現するもんやんか。子持ちヤリイカを出して「2月やな」てなる人、おると思うか? 料理の景色を見た瞬間に「2月やな」「冬やな」てならなあかんねん。

2月後半の八寸やから、お雛さんをテーマするか。でも、うちでお雛さんを表現してもあんまり喜ばれへん気がするねんな…。
桑原:
僕は、酢〆したサワラをヨーグルトと鮒ずしの飯を合わせたものに漬けて、皮目だけ香ばしく炭火で焼いたものはどうかな、と考えました。リンゴと緑大根を浅漬けしたもの、菜の花を添えて、鮒ずしソースを添えます。
佐々木:
……酢っぱそうやなぁ、それ。
ナディア:
私は3点盛りで考えました。フキノトウの田楽、大徳寺納豆を入れた百合根の茶巾絞り、サヨリの骨せんべい。

佐々木:
確かに、田楽いいよね。
千谷が言った海老芋は食べ頃やし、炊いて揚げると絶品。そこにあん肝味噌か、フキノトウ味噌で田楽にするといいと思う。
タイチのサワラもええけど、ヨーグルトじゃない仕立てがいいな。
2種を一皿に盛るとスキッとしてええねんけど……サワラをおいしくするにはどうするか。
坂東:
酒盗焼きにするのはどうでしょう。
ナディア:
おいしそう! 食べたいです。
佐々木:
うん、ええな。でも、カツオじゃなくて鯛の内臓の方が合う気がする。いっぺん試作してみよう。
海老芋の田楽とサワラの酒盗焼き。そうすると…ちょっと酸味のアクセントが欲しいな。油脂があって、芋はもさっとするから。キリッとしたやつ。何やろ。
坂東:
酢漬けにした野菜とか。
佐々木:
そこやな。ラッキョウとかも合うと思う。一番合うのは大根おろし。季節的に千枚漬けにするか。保管してる発酵キノコと合わせてもいいかもしれん。


お椀

佐々木:
コースの主役、お椀は何でいこう。
坂東:
白菜の台の上にタラと雲子はどうでしょう。椀ヅマはニンジンと柚子、青軸など。

田中:
僕もタラと雲子がいいなと思ってました。台はレンコン餅で。
ナディア:
ハマグリを2つ入れたお椀で、雛祭りを表現したいです。
桑原:
ブリをメインにしたお椀がいいなと思ってます!
佐々木:
うーーーん……。旬食材でドン!といくのもええねんけど……僕が考えたのは、冬らしく、みぞれ仕立てはどうかな。

昔の職人さんが作るみぞれ仕立ては、まず大根おろしをギュッと搾って、その搾り汁に昆布を入れて1時間ほど寝かす。それを火にかけて、カツオ節を入れる。これで、大根おろし汁の一番だしができるわけや。ほんで搾ったあとの大根を加えるねん。でも……硬く搾った大根を僕はあんまりおいしいと思わんかった。

だから僕は、大根をゆるく搾る。その搾り汁をカツオ昆布だしとほぼ1:1の割合で合わせて調味。ほんで大根おろしを加えるねん。これ、めっちゃうまいで!

椀種はコノコ真丈。揚げ豆腐と一緒に盛って、椀ヅマに菜の花、あられ切りにした京ニンジンと柚子を添える。どうかな。
桑原:
おいしそうです!
佐々木:
新コノコが出てくる時季やから食べてもらいたいという思いもあって。でも……最近、コノコが貴重やということを知らない人も多いねんな…。だからこそ、やる意味があるとも思ってる。一回やってみて、様子みよか!
全員:
はい!

【後編に続く】


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