東京『傳』長谷川在佑編。Vol.2 世界が認めた『傳』のサービス、その本質とは
2019年、「The World’s 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)」で、優れたホスピタリティを称える「アート・オブ・ホスピタリティ賞」を受賞した東京『傳』。店を率いる長谷川在佑さんが2026年7月に上梓したのが、もてなしの考え方と実践をまとめた『傳/DEN 相思相愛のサービス論』(柴田書店)です。今回は、この著書を入り口に、“世界No.1フーディー”浜田岳文さんと、お客一人一人に寄り添うサービスのあり方や、日本と海外のレストランにおけるもてなしの違いについて語り合います。
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浜田岳文さん(「株式会社アクセス・オール・エリア」代表)
1974年、兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮の不味い食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約128カ国・地域を踏破。一年の5カ月を海外、3カ月を東京、4カ月を地方で食べ歩く。「OAD Top Restaurants」(世界規模のレストラン投票システム)のレビュアーランキングで2018年度から8年連続で1位を獲得、国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信している。2024年、著書「美食の教養 -世界一の美食家が知っていること-」(ダイヤモンド社)を出版。2025年より「The World’s 50 Best Restaurants(世界ベストレストラン50)」及び「Asia’s 50 Best Restaurants(アジアのベストレストラン50)」の日本評議委員長に就任。
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長谷川在佑さん(東京・神宮前『傳』店主)
1978年、東京都生まれ。高校卒業後、東京・神楽坂の料亭『うを徳』で日本料理の研鑽を積む。2008年、東京・神保町に自身の店『傳』を開業。2016年に現在の神宮前へ移転した。『ミシュランガイド東京・横浜・鎌倉2011』で二つ星を獲得。2019年、「The World’s 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)」において、優れたホスピタリティを称える「アート・オブ・ホスピタリティ賞」を受賞した。2022年には「Asia’s 50 Best Restaurants(アジアのベストレストラン50)」で1位に選出。著書に『傳 進化するトーキョー日本料理』(2017年)、『傳/DEN 相思相愛のサービス論』(2026年、いずれも柴田書店)がある。
「誰にとっても居心地のいい店」にするためのサービス
- 浜田:
- 新たにサービスに関する本を出版されましたね。
- 長谷川:
- 18歳で料理の世界に入って、今年で30年の節目を迎えました。今、改めて思うのは、料理人にとって大切なのは料理だけじゃないということ。お客さまを想い、どう行動すれば喜んでいただけるか。そこにもっと力を注いでいきたいと思って、かたちにしました。
正直、料理の技術はある程度のレベルまできていると思います。そこにある程度のおもてなしが加われば、料理屋として80点、90点は取れる。でも、それでは200点は取れない。「誰にとっても居心地がいい店」にするため、サービスを突き詰めたいと考えています。
- 浜田:
- それは、日本のレストランにとって重要な視点だと思います。
日本は、どちらかというと料理そのものに評価が集中しがちです。例えば、料理人が一人ですべてをこなすワンオペレーションの店では、サービスの専任者がいません。それでも店として成立するし、高い評価を受けることもある。日本のレストラン文化の特徴の一つでもあります。
もちろん、料理だけで強い印象を残すこともできます。でもこれからの時代、海外からのお客も増え、サービスの重要性はますます高まっていくと考えます。
長谷川さんが、サービスを特に意識するようになったのはいつ頃からですか?

- 長谷川:
- 修業時代からですね。僕も女将も料亭で働いていたんですが、ある出来事が、その思いを強くしました。
料亭では、接待やお祝いの席を、気持ちよく過ごしていただくことが何より大切です。でも、若い頃の僕は料理を作ることに夢中で、自分では「完璧だ」と思うものを出している自負がありました。
ある日、料理を出しても出しても、一口も召し上がらずに下げられてくる部屋があったんです。一生懸命作っているのに、どうして食べてくれないんだろうと、少し腹が立ってしまって。
それで、どんなお客さまなのか見に行ったら、ご高齢の女性だったんです。米寿か何かのお祝いで来られていました。
その姿を見た時、「自分はなんて独りよがりだったんだろう」と思いました。コース料理ですから量も多いし、その女性が食べやすいものを用意していたわけでもない。自分がいいと思う料理を作ることばかり考えて、召し上がる方のことを見ていなかったんです。
それ以来、料理は自分が作りたいものを作るだけではいけない、召し上がる方のことを考えなければ、と強く思うようになりました。自分の店を持つなら、お客さまとのやり取りを大切にしながら、一人一人に合った料理をお出ししたいと思ったんです。
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