『㐂川』一門うすくち競演vol.1“蒸さない”アワビ
創業60余年の法善寺横丁『浪速割烹 㐂川(きがわ)』は多くの門下生を輩出し、それぞれが人気店を営んでいます。本企画は、二代目・上野 修さんと門下生による、淡口醤油を使った料理競演。初回のお相手は、「志摩観光ホテル」で共にフレンチを学んだ後輩の西心斎橋『和洋遊膳 中村』店主・中村正明さんです。テーマは“蒸さない”アワビ。硬いヒダの部分も肝も生かす“始末の心”に、『㐂川』イズムが息づいています。
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上野 修さん(大阪・法善寺横丁『浪速割烹 㐂川』二代目)
1961年生まれ。81年より三重「志摩観光ホテル」のメインダイニング『ラ・メール』で総料理長・高橋忠之氏の下、フランス料理を学び、85年、『浪速割烹 㐂川』入社。父・修三さんの『天神坂上野』開店に伴い、95年に二代目店主に。伝統と独創を重んじる父の割烹料理を継承しつつも、フレンチの経験や知見を生かした独自の料理世界を構築している。
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中村正明さん(大阪・西心斎橋|『和洋遊膳 中村』店主)
1963年、奈良県生まれ。20歳で「志摩観光ホテル」のメインダイニング『ラ・メール』入店。総料理長・高橋忠之氏の下、フランス料理を修め、スウェーデン日本大使館の公邸料理人に。さらに『浪速割烹 㐂川(きがわ)』で腕を磨き、1995年に独立。和洋の枠に捉われない自由闊達な料理に定評がある。奈良の月ヶ瀬に菜園を持ち、野菜の栽培もしている。
王道の蒸しアワビを禁じ手に、始末の心で新作を考案
- 上野 修(以下:上野)
- 夏の魚介の王様といえばアワビやね。うちでは、お造りにしても火入れしてからお出しすることが多い。そうなると、王道は蒸しアワビやねんけどね。それをあえて禁じ手にしてみようかな、と。
- 中村正明(以下:中村)
- “蒸さない”アワビとは、なかなか難題ですね(笑)。アワビは活けじゃないと生でお出しできないから、うちでも蒸しアワビにしてステーキや酢の物にすることが多いんですよ。
- 上野:
- アワビを生でいただく夏の定番料理は水貝で、うちでも親父の時代からよくお出ししてきたけど、あの強烈なコリコリ感が僕自身、年々きつくなってきて(笑)。心地よい食感を残して火入れするか、柔らかく蒸してお出しするかの2択になってるわ。
- 中村:
- 僕らがフレンチを学ばせてもらった「志摩観光ホテル」メインダイニング『ラ・メール』のスペシャリテは「鮑ステーキ」でした。アワビを生でお出しすることはなかったですよね。
- 上野:
- 「火を通して新鮮、形を変えて自然」というのが、師匠の高橋忠之さんの教えやったね。僕が今回考えたのは、まさに“火を通して新鮮”な一品。極薄いスライスを軽く火入れして、サラダにしようと思って。
- 中村:
- 僕は、韓国のアワビ粥にヒントを得たアワビご飯でいきます。では、まず僕から作らせていただきますね。
『和洋遊膳 中村』中村正明さん作・アワビご飯 夏の香りと
- 上野:
- アワビはご飯と一緒に炊き込むの?
- 中村:
- 上身は70℃の昆布だしで10秒火入れして、そのアワビの旨みが移っただしで米を炊き上げます。リゾットみたいな仕立てなので洋の風味とも相性がいいと思って、最近、うちで人気の大葉ベーゼ(大葉のジェノベーゼ風)を合わせました。主役感が出るように上身を上に盛り付けます。
- 上野:
- 蒸しアワビの場合はヒダの部分も柔らかく仕上がるけど、70℃で10秒の火入れだと硬くて食べられへんでしょう。ヒダの部分はどうしてるのん?
- 中村:
- 米を炊く時に、ヒダは刻み、肝は叩いてから加えてます。“始末の心”を『㐂川』でたたき込まれましたから(笑)。
「アワビご飯 夏の香りと」の作り方

【材料(8人分)】
アワビ……3ハイ
白米……2合
太白ゴマ油……大さじ3
昆布だし……6合
淡口醤油……5ml
●大葉ベーゼ
│大葉(千切り)……50g
│松の実……100g
│太白ゴマ油……100ml
│淡口醤油……5ml
枝豆・トウモロコシ・穂ジソ・スダチ……各適量
【作り方】
<大葉ベーゼを作る>
- ①
- 松の実を160℃のオーブンで20分ローストする。
- ②
- すり鉢で①を七割ほどペースト状にする。大葉を加えてすり合わせ、太白ゴマ油を足しながらさらにすり合わせてペースト状にし、淡口醤油で味を調える。

<アワビご飯を炊く>
- ③
- アワビに粗塩(分量外)をまぶしてタワシで汚れを取り除き、水洗いする。殻から身を外して肝を取り、周りのヒダの部分を切り落とす。ヒダは1㎝角に切り、肝は少し粒感を残すよう叩く。

- ④
- 身の裏側に切り込みを入れてから、薄く波切りにする。
- ⑤
- 70℃の昆布だしで10秒ほど④に火を入れる。

- ⑥
- 太白ゴマ油で白米を炒め、米に透明感が出てきたら、⑤のだしを注ぎ入れる。③のヒダと肝を加え、ポコポコと沸くくらいの火加減を保ちながら、弱火で15分炊く。極力かき混ぜず、ゆっくり米にだしの味を吸わせていく。
- ⑦
- ②を80g入れ、淡口醤油で味を調える。塩茹でしたトウモロコシと枝豆を加え、ざっと混ぜる。

<仕上げる>
- ⑧
- 器にセルクルをのせ、⑦を入れる。⑤を花のように盛り付け、穂ジソを散らし、スダチを半分に切って添える。
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上野

- アワビが思った以上に柔らかい! リゾット風のご飯と食感が合っていて一体感があるね。大葉ベーゼの松の実のコクと大葉の香味がいいまとめ役になってるわ。
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中村

- スダチをぎゅっと搾って味変してください。今回はアワビの持ち味を前面に出したかったので、味付けは淡口醤油のみ。スダチの酸味で全体を引き締めようと思って。
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上野

- お! ぐっと夏っぽくなった! 淡口醤油とスダチはやっぱり相性がいい。アワビの磯っぽい風味も際立つね。
『浪速割烹 㐂川』上野 修さん作・千枚アワビの乳化すり流し 肝ムース添え
- 中村:
- 千枚アワビって、どうしてはるんですか?
- 上野:
- 僕も中村くんと同じで、極薄くスライスしてから昆布だしで30秒くらい煮る。昆布だしには、淡口醤油と塩・リンゴ酢で味を付けてて。
その煮汁にアワビの端の身と淡口醤油・リンゴ酢・太白ゴマ油を加えてハンドブレンダーにかけたのが、乳化すり流し。アワビドレッシングのイメージやね。
- 中村:
- アワビの上身を凹凸のある真ん中と両端で使い分けているんですね。なるほどなぁ。
- 上野:
- 凹凸のある部分はいかにもアワビって形やけど、両端はちょっと貧弱やからね。うちの親父が、アワビをまるごとすりおろして「啜りなます」を作ってたでしょう。あれの変形版。
- 中村:
- 上身にするということは、ヒダの部分も肝も外しますよね。
- 上野:
- ヒダは遠火で焼いて水気を飛ばしてから素揚げして、カリカリベーコンみたいなイメージで散らそうかなと。肝は裏漉しして、アワビの煮汁と豆乳でのばして淡い緑色のムースに。この煮汁には淡口醤油が入ってる。中村くんも大葉ベーゼに使っていたけど、淡い醤油色だから、緑のものと合わせても色がキープされるよね。
「千枚アワビの乳化すり流し 肝ムース添え」の作り方

【材料(3人分)】
アワビ……200g(1個)
●アワビの煮汁
│昆布だし……180ml
│淡口醤油……5ml
│塩……3g
│リンゴ酢……10ml
●アワビの乳化すり流し
│アワビの端身……20g
│アワビを煮た後の煮汁……80ml
│リンゴ酢……10ml
│淡口醤油……12ml
│太白ゴマ油……15g
●肝ムース
│アワビの肝……30g
│アワビを煮た後の煮汁……60ml
│豆乳……40g
│リンゴ酢……8g
│ゼラチン……2g
揚げ油……適量
サニーレタス・チコリ・マイクロトマト・パッションフルーツ・ディル……各適量
【手順】
- ①
- アワビに粗塩(分量外)をまぶしてタワシで汚れを取り除き、水洗いする。殻から身を外して肝を取り、周りのヒダの部分を切り落とす。身を極薄くスライスし、真ん中の部分と両端に分ける。

- ②
- 昆布だしを淡口醤油・塩・リンゴ酢で調味し、ひと煮立ちさせる。弱火にして温度を下げ、①の真ん中の部分を沸かさないように30秒煮てザルに上げる。煮汁は急冷する。

- ③
- アワビの乳化すり流しを作る。ミキサーに①の両端のアワビと②の煮汁、淡口醤油・リンゴ酢・太白ゴマ油を入れ、ハンドブレンダーで攪拌して乳化させる。

- ④
- 肝ムースを作る、アワビの肝を蒸して裏漉しし、②の煮汁と豆乳でのばし、リンゴ酢で調味する。温めてゼラチンを溶かしたら、鍋底を氷水に当てながら攪拌する。浅いバットに流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める。

- ⑤
- ①のヒダの部分をサラマンダーの遠火で20分ほど焼いて水分を抜き、素揚げにする。
- ⑥
- 皿に③を敷き、サニーレタスとチコリ、②、④を盛る。マイクロトマトとディルを添え、パッションフルーツをソースの上にかけ、⑤を散らす。

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中村

- ヒダの部分のカリッとした食感がいいアクセントです。師匠の高橋さんが、アワビをステーキにする時に「ヒダの部分はカリカリに焼きなさい」って仰ってましたが、それを思い出しました。
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上野

- 肝は真薯みたいにしようかと思ったけど、なめらかさが欲しかったからムースにしてん。豆乳と合わせたので、ほんのり醤油の香りが欲しくて。淡口醤油で味付けしたアワビの煮汁を活用したら大正解やった。
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中村

- 肝のクセが抑えられて上品な味わいです。上身の両端をすり流しにする発想も含めて、アワビの部位をすごくうまく使ってるなと思いました。パッションフルーツの酸味もいいですね!
超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
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国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500ml。
■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇を除く)https://www.higashimaru.co.jp
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