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和食の肉料理6選|プロのレシピと肉をおいしくする火入れ・調理法

和食の肉料理というと、すき焼きや肉じゃが、豚の角煮などが定番ですが、日本料理店では牛肉や豚肉、鴨肉などを、煮る、焼く、漬けるといったさまざまな技法でコースの一品に仕立てています。今回は「WATOBI」で紹介してきた中から、黒毛和牛の煮込みや牛肉の味噌漬け、豚角煮、合鴨ロース煮など、プロならではの工夫が光る肉料理6品を厳選。さらに、牛肉や鶏肉、鴨肉をおいしく仕上げる火入れや、ジビエを柔らかくする調理法、椀物に生かす「肉だし」の考え方もご紹介します。

文:WATOBI編集部 / 撮影:綿貫淳弥

目次


和食の肉料理レシピ6選

だしや醤油、味噌、山椒など、和食ならではの調味や技法を生かした肉料理を6品ご紹介します。牛肉、豚肉、鴨肉それぞれの持ち味を引き出す、プロの仕立てにご注目ください。

黒毛和牛の煮込み——東京『六雁』

東京『六雁』の黒毛和牛の煮込み撮影/海老原俊之

ビーフシチューを思わせる牛肉の煮込みを、醤油や香味野菜を使って和食の一品に仕立てた料理。東京・銀座『六雁(むつかり)』では、黒毛和牛のスネ肉をネギやショウガとともに約5時間蒸し煮にし、冷やして余分な脂を取り除きます。

ポイントは、牛肉を煮た際に出る煮汁も余さずソースに生かすこと。赤ワインやカラメルに、たまり醤油、濃口醤油、淡口醤油を組み合わせ、牛肉の力強い旨みに和の調味を重ねます。

菊花の甘酢漬けやマッシュポテト、スプラウトを添えれば、濃厚ながら後味に重さを残しすぎない仕立てに。時間をかけて肉を柔らかくしながら、その旨みをソースにも生かす一品です。

▼黒毛和牛の煮込みの詳しいレシピを見る


山椒と松茸が香る煮込みハンバーグ——京都『よこい』

京都『よこい』の山椒と松茸が香る煮込みハンバーグ撮影/竹中稔彦

洋食の定番・ハンバーグを、だしや葛、山椒、松茸を使って和食へと組み替えたのが、京都『よこい』の一品です。

牛肉は粗めのミンチを使い、つなぎにはパン粉ではなく、すりおろしたレンコンを。さらに生のタマネギをすりおろして加えることで、瑞々しさと甘みを補います。ナツメグの代わりに山椒を利かせるのも、和食らしい工夫。 

表面を焼いたハンバーグはいったん冷まし、だしで煮込んで中まで火を入れます。煮汁は葛でとろみを付け、揚げナスや松茸、山ワサビを添えて季節の一皿に。合わせる野菜を替えれば、秋に限らずさまざまな献立に応用できます。

▼山椒と松茸が香る煮込みハンバーグの詳しいレシピを見る


牛肉の味噌漬け——京都『割烹 梅津』

京都『割烹 梅津』の牛肉の味噌漬け撮影/岡森大輔

味噌漬けは、肉を和食らしく味わう調理法の一つ。京都『割烹 梅津』では、脂の少ない牛肉を麹味噌に漬け込み、焼き物に仕立てます。

味噌床は麹味噌と酒のみ。砂糖やみりんを加えず、味噌そのものの甘みと風味を生かすのが特徴です。牛肉には赤身のヒウチなどを使い、コショウを振ってからガーゼで挟み、味噌床に約4日間漬け込みます。

焼き上がりは火を通しすぎず、肉のしっとりした質感を残すのがポイント。焼きナスやオクラなどを添えれば、味噌の香ばしさを主役にした和の肉料理になります。漬け込んだ状態で冷凍しておけば、それ以上味が入りにくいため、保存食としても取り入れやすい一品です。

▼牛肉の味噌漬けの詳しいレシピを見る


牛肉の栗味噌炭火焼 栗三種仕立て——東京『和氣 旬』

fea0223d_6801撮影/大山裕平

牛肉の炭火焼に白味噌と栗を合わせ、秋の香りを重ねた東京・日本橋『和氣 旬』の一品。宮原 瞬さんは、赤身の牛内もも肉と茨城県産の利平栗を使います。

栗味噌は、栗を殻ごと炭火で焼くところから。鬼皮と渋皮をむき、だしとみりんで炊いてから粗めのペーストにし、京都の白味噌を合わせます。完全になめらかにせず、栗の細かな粒感を残すことで、焼き栗ならではの風味を印象付けます。

牛肉は塩をしてから大根おろしに浸け、串を打って炭火焼きに。七分ほど火が入ったところで栗味噌を塗りながら仕上げます。白味噌の発酵香と栗の甘み、炭火の香ばしさが牛肉の旨みを引き立てます。

さらに栗の蜜煮を添え、仕上げには蒸し栗をすりおろして「栗三種仕立て」に。新レンコンやカボチャも炭火で焼いて添え、季節感豊かな牛肉料理にまとめています。

▼牛肉の栗味噌炭火焼 栗三種仕立ての詳しいレシピを見る


豚角煮——東京『津やま』

東京『津やま』の豚角煮撮影/綿貫淳弥

豚の角煮は、和食の肉料理として親しまれてきた定番の一品。東京・赤坂『津やま』では、豚バラ肉の余分な脂を丁寧に抜きながら、ほろりと柔らかく仕上げます。

まず豚バラ肉は脂身側をしっかり焼き、オカラとともに4時間以上下茹で。アクや脂を取り除いてから100gほどに切り分け、水と酒でさらに脂を抜きます。

味付けは、まず砂糖を入れて甘みを含ませ、その後に醤油を加えるのがポイント。約2時間煮た後、一晩休ませ、翌日に再び温めながら煮汁を煮詰めます。時間をかけて下処理を重ねることで、脂の多い豚バラ肉も重たさを感じさせない味わいに。酢ゴボウと和辛子を添えて供します。

▼豚角煮の詳しいレシピを見る


合鴨ロース煮——大阪『さか本』

大阪『さか本』の合鴨ロース煮撮影/福本 旭

大阪『さか本』の合鴨ロース煮は、『浪速割烹 㐂川』の上野 修さんから受け継いだ料理。坂本さんがおせちにも欠かさず作るという、仕込みの技が詰まった一品です。

まず、生け花用の剣山で皮目に細かく穴を開け、霜降りしてから一度下煮。吊るして余分な脂や血を落とし、約10時間調味液に浸けます。その後、皮目を焼いてから再び煮て、アルミホイルとタオルに包んでゆっくり冷ますことで、中心まで穏やかに火を入れます。

煮汁には醤油などの和の調味料に加え、ケチャップやカレー粉を用いるのも特徴。鴨の脂のコクにほどよい酸味と香りが加わります。作り置きしやすく、八寸や弁当にも取り入れやすい肉料理です。

▼牛肉の味噌漬けの詳しいレシピを見る


肉料理をおいしく仕上げる、プロの火入れ・調理法

肉料理では、同じ素材でも火の入れ方によって食感や香りが大きく変わります。ここからはフランス料理やイタリア料理の料理人が実践する技法を、日本料理人が学び、和食のコースへと応用した例をご紹介します。

赤身牛肉をしっとり仕上げる、ローストビーフの火入れ

_PGP2660撮影/北尾篤司

奈良『おか田』の岡田直己さんがフランス料理『ラ・フォルム ド エテルニテ』の永野良太さんに教わったのは、脂の少ないイチボを使ったローストビーフです。

ポイントは、低温で穏やかに熱を入れた後、強火のフライパンで表面だけを短時間焼くこと。加熱前には塩をせず、肉の水分をできるだけ保ちながら火入れし、最後に香ばしい焼き目を付けます。

仕上がりは中心まで均一に赤みを帯び、赤身肉ならではのしっとりとした質感に。脂の多いロース肉より後味も軽く、薄く切って八寸に組み込むなど、日本料理のコースにも取り入れやすい仕立てです。

▼ローストビーフの火入れとレシピの記事を見る


鶏ムネ肉をしっとり仕上げる低温調理

火を入れるとパサつきやすい鶏ムネ肉も、低温で穏やかに加熱することで、しっとりと滑らかな食感に仕上げることができます。

永野良太さんの方法では、鶏ムネ肉を真空にしてスチームコンベクションオーブンで低温加熱。その後、フライパンで皮目を香ばしく焼き、身側には必要以上に火を入れないよう仕上げます。

あっさりとした鶏ムネ肉は、ワサビ醤油を合わせたり、水菜などの浸し物を添えたりすることで、和食にもなじみます。火入れそのものを工夫することで、淡泊な部位をコースの一品へと引き上げる例です。

鴨ロースをしっとり焼く、アロゼと余熱の火入れ

_GRA2475撮影/北尾篤司

同じく「肉料理の火入れ」Vol.2で紹介したもう一品が、倭鴨のローストです。

皮目に格子状の切り込みを入れ、フライパンでゆっくり脂を溶かしながら焼きます。そこで用いるのが、フライパンに溜まった脂をスプーンですくい、肉側に繰り返しかける「アロゼ」という技法。表面からも穏やかに熱を加えていきます。

焼いた後はすぐに切らず、アルミホイルに包んで休ませ、余熱で中心まで火を入れます。岡田さんは、最後に皮目を炭火で焼いて脂を落とし、タレや山椒を合わせるという和食への展開も提案。西洋料理の火入れを、日本料理の味へとつなげていきます。

▼鶏ムネ肉・鴨ロースの火入れとレシピの記事を見る


ジビエを柔らかく仕上げる「煮込みロースト」

pro0742k撮影/太田恭史

脂が少なく、部位によっては硬くなりやすいジビエ。大阪『ア・カント』の村田 卓さんが、高槻『心根』の片山 城さんに伝えたのは、仔猪の前足肉を「煮込みながらローストする」ように仕上げる方法です。

肉を焼いた後、深めの耐熱容器に入れ、ブロードを肉の半分ほどの高さまで注いでオーブンへ。液体に浸かった部分は煮込まれ、上に出た部分には焼き色が付くため、煮込みとローストの双方の特徴を生かせます。

片山さんはこの技法を仔熊(ツキノワグマ)に応用。ブロードの代わりにスッポンだし、タマネギの代わりに九条ネギ、ニンニクの代わりにショウガを用いるなど、日本料理らしい組み立てに変えています。

▼ジビエを柔らかく仕上げる煮込みの技法の記事を見る

鴨や鹿にも応用できる、塩と余熱を使った火入れ

pro0893h撮影/太田恭史

村田 卓さんがもう一つ披露したのが、鴨ロースの塩釜焼き。一般的な固い塩釜で包み込むのではなく、粗塩と濡らした不織布を使い、塩の中で蒸すように火を入れる方法です。

加熱後も温かい塩の中に置くことで、余熱を使って穏やかに中心まで熱を伝えます。肉が縮みにくく、瑞々しい質感を保ちながら同時に塩味も付けられるのが特徴です。

村田さんによれば、平たく骨のない肉であれば鹿の背ロースなどへの応用も可能。片山さんは、地域のフキや朴葉などで肉を包んでから塩に入れる方法にも着想を広げています。

▼鴨ロースの塩釜焼きの技法の記事を見る


肉の旨みを「だし」に生かす——調理科学から考える肉だし

肉料理の可能性は、肉そのものを煮たり焼いたりするだけではありません。東京・南青山『てのしま』の林 亮平さんと農学博士・川崎寛也先生が探究したのは、日本料理の椀物に使える「肉だし」。ブイヨンやコンソメのような濃厚な味わいではなく、一番だしのような透明感と繊細な旨み、肉らしい香りを目指しました。

牛赤身肉から、一番だしのような「肉だし」を引く

ryo0079a撮影/綿貫淳弥

最初に試したのは、牛赤身ミンチを昆布だしで短時間煮出す方法です。しかし、単純に抽出しただけでは、脂や濁り、酸味、牛肉らしい香りの弱さといった課題が現れました。

そこで行ったのが、肉を焼いてからだしを取る実験。牛赤身ミンチの片面だけを焼いてから短時間煮出すことで、濁りや酸味が抑えられ、香ばしさが加わります。

ただし、強く焼けばよいわけではありません。肉を焼いた際に起こるメイラード反応では、香ばしい香りが生まれる一方、アミノ酸と糖も消費されます。旨みを残しながら、どこまで香りを付けるのか。そのバランスを探ることが、肉だし作りのポイントになりました。

▼牛肉だしの短時間抽出の記事を詳しく見る
▼牛肉だしの旨みと香りの実験の記事を見る

熟成と乾燥で、牛肉の旨みを引き出す

さらに二人が試したのが、熟成肉と干し肉です。

ドライエイジングした牛肉から取っただしは旨みが強く、透明感も良好。一方、価格や安定的な入手という点で課題があります。

そこで林さんが取り組んだのが、牛赤身肉を自ら乾燥させる方法でした。薄切りにした肉を乾燥させ、表面を軽く炙ってから昆布だしで煮出します。

乾燥によって味を凝縮させ、炙ることで肉らしい香りを加える。さらに炙り方や抽出時間を調整した結果、林さんが求めていた、透明感があり、旨みと牛肉らしい香りを備えた肉だしにたどり着きました。

▼熟成肉・干し肉を使った牛肉だしの記事を見る

猪と鹿の干し肉から、ジビエ椀のだしを取る

牛肉で得た知見を応用したのが、シリーズ最終回のジビエだしです。猪肉と鹿肉を乾燥させてから炙り、昆布だしで短時間抽出。それぞれの肉の個性を残しながら、椀物に使える澄んだだしを目指しました。

中でも林さんが気に入ったのが鹿だし。鹿肉らしい香りと穏やかな甘みを備えながら、雑味の少ない味わいに仕上がりました。

この鹿だしを使って仕立てたのは、大根を椀だねにした極めてシンプルな煮物椀です。真薯などを合わせず、鹿だしで大根を直煮することで、ジビエの繊細な野趣を主役に据えます。

4回の実験から見えてきたのは、乾燥や加熱によってだしの透明感を調整し、焼きや燻製によって肉の香りをコントロールするという考え方。カツオ節や昆布と同じく「乾燥させた素材から短時間で引く」という発想に立ち返ることで、日本料理ならではの新しい肉だしの可能性が見えてきました。

▼猪・鹿のだしとジビエ椀の記事を見る

ryo0078h撮影/綿貫淳弥

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