【レシピ付き】「日本一のワサビ」を使った、『居酒屋 ながほり』の料理2品
大阪・上町の『居酒屋 ながほり』の店主・中村重男さんは、大阪の飲食店30軒以上を転々とし、27歳で独立。品書きには割烹然とした単品メニューが多数揃います。その多くの食材は、中村さんが現地まで足を運んで吟味した、素材の力を感じるものばかり。確かな技と感性で仕立てた滋味深い料理は、全国からお客を呼びます。
静岡・御殿場(ごてんば)にある『和佐久(わさきゅう)』の真妻ワサビは、「ワサビについては誰にも負けたくない!」という中村さんが「日本一!」と惚れる逸品。造りに添え、魚介の持ち味をグンと引き上げます。今回は、特別に『和佐久』へ足を運んだ際のルポをお届け。そして、ワサビの持ち味が生きる料理2品をご紹介いただきます。
富士山の麓で育つ、日本一のワサビ
「ほら、ウチのワサビは茎が赤いでしょ。これは赤茎とも呼ばれる真妻ワサビ。一般的に使われているのは茎が青い実生といって、品種が違うんですよ」。
随分前に『居酒屋 ながほり』で、店主の中村重男さんが愛用しているワサビのことを聞いたことがある。「ドーンと辛みがきて、でも甘みもあって、粘りがスゴイ。日本一やと私は思ってます」と。
それは、静岡県御殿場の『和佐久』のワサビ。その産地を中村さんと共に訪ねる機会に恵まれた。
「この方が、日本一のワサビを作る人です」と中村重男さんが嬉しそうに、誇らしげに紹介してくれたのが、ワサビと米を生産している田代耕一さんだ。
右が田代さん。現在、御殿場わさび組合の組合長を務めると共に、御殿場市議会議員でもあるダンディな方。以前紹介した『わさびのマルキチ』の井上さん親子を中村さんに紹介した人物でもある。左が中村さん。食材と発想が生きた料理を得意とする。
「良いワサビが欲しくて、静岡県のワサビの組合長に電話をしたんです。第一人者として紹介されたのが田代さん。届いたワサビが素晴らしかったから、すぐにも会いたくなって」、即座に御殿場へ行ったと中村さん。以来、30年以上の付き合いだという。
田代さんが作るワサビは、「全国わさび品評会」で、農林水産大臣賞を5回受賞。平成24年度には、内閣総理大臣賞も受賞している。「優良苗の確保と安定生産による御殿場わさびのブランド化の成功」が受賞理由だ。
「真妻種は市場評価の高い種ですが、病気に弱いんです。連作障害を起こしやすい。そこで種苗会社と連携して、真妻の組織培養苗を完成させ、安定生産できるようになりました。それを僕が広めたんです。みんなで良いワサビを作ろうと」。つまりは御殿場ワサビをブランドとして確立した功労者なのだ。
田代さんのワサビ田は、富士山を遠く望む高原にある。
静岡県で最も生産量の多い伊豆のワサビ田は、ほとんどが畳石(たたみいし)式栽培※。
※畳石式栽培…階段状のワサビ田で大きな石の上に小石と砂を敷き、その上にワサビを植える。上段から湧き水を流すと下段の田に流れ落ち、その過程でろ過され、きれいな水が抜けすぎず、たまり過ぎない。その結果、水に含まれる栄養分がワサビに行き渡り、大きく育つという効率的な栽培法。
『和佐久』では畳石式の改良型である北駿(ほくすん)式栽培を採用。静岡北東部の御殿場・小山町一帯を指す北駿地域特有の栽培法だ。砂利や石の代わりに富士山の火山噴出物・スコリアを利用し、水持ち・水はけも良い土壌で、富士山の湧水が贅沢に使用できる地の利があって可能な栽培方法なのだという。
40年前の富士の湧き水が美味しさの決め手
「水源は、ワサビ田から100mほどのところにあります。富士山に降った雨や雪解け水が40年かかってそこから湧き出てくるんです」と田代さん。
通常、水は田の最上段の短い辺から流れ、何段もの田の中を通って川へと流れるが、田代さんのワサビ田では長い辺から流れ、すぐに田の横を流れる須川へと落とされている。豊富できれいな水の贅沢な使い方。「この環境がワサビに良いんです。僕の腕じゃないよ」と、日本一の誉れ高い人はさらりと言う。
田代さんのワサビ田。須川と呼ばれる美しい清流に沿うように山裾に長く広がっている。左/水は長い用水路から数段のワサビ田を通り、川へと流れていく。「水は1秒間に200ℓ湧出してます。うちの動脈ですね」と田代さん。水温は12.5℃ほどで、1年通して安定している。だから、夏は冷たく、冬は温かく感じるのだとか。水と土の栄養だけでワサビはゆっくりと育つ。右/ワサビが斜め下へと伸びるよう、茎部分に石が置かれている。
「1つ抜いてみましょか」と田代さん。
茎を折らないように押して引いて押して引いて、大きく育った一本が地上へ姿を現した。100gはありそうだ。
「これは2年物ですね」とは中村さん。花芽の数で何年物かが分かるのだそう。「実生は1年ほどで大きくなるけど、真妻は2年ほどかかります。ボコボコの目が詰まってるのがいいワサビ。ゆっくり成長した証しです」。
その場で、摺り下ろしていただいた。
粘りがスゴイ。「この粘りを寿司屋さんが喜ぶんです」と田代さん。
早速、味見をして「うおーっ辛い!」と中村さんがおどける。「だけど甘みもあるのが田代さんのワサビ。生魚には絶対これ!」。
贅沢に使ったワサビが決め手の「比内地鶏胸肉と油麦菜のワサビあんかけ」
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