「祇園さゝ木」一門会、師弟セッション

佐々木 浩流、11月の献立の立て方【前編】

立冬を迎える11月。身も心も温まる“ほっこり”料理が食べたくなる季節です。『衹園 楽味』の献立試食会でも、弟子がそれぞれに料理を提案しますが、「これではほっこりしない」と、店主・佐々木 浩さん。何が必要で、どのような仕立てにすべきなのか。また、この時季らしい料理のデザインや演出など、今回もアドバイスが冴えています。


『衹園 楽味』:料理は先付、造りの後、魚・肉・野菜のネタ箱が豪快に並べられ、どう調理するか、料理人とお客がやり取りをして料理を決めるスタイル。「おすすめ」の品書きから選ぶことも可能で、試食会では先付と「おすすめ」の料理を決めるため、料理人がそれぞれ試作した1~3品を披露。佐々木 浩さんとスタッフ数人が試食し、ブラッシュアップを図る。

文:阪口 香 / 撮影:高見尊裕

目次

佐々木 浩さん(『衹園 さゝ木』店主)

1961年、奈良県生まれ。前衛的な味と軽妙な話術で場を盛り上げるカウンターの名手。98年、36歳で独立し、衹園町北側に『衹園 さゝ木』開店。2006年、現在の地に移転してからはいよいよカリスマ性を発揮。「弟子を育てる店造りを」と再度改装を施し、23年8月、リニューアルオープンを果たす。直営店の『衹園 楽味』は「大人の居酒屋」をコンセプトに掲げ、2013年に開店。アテをつまみながらお酒を楽しめる『食ばぁー 楽味』併設。

『衹園 楽味』の料理人『衹園 楽味』の料理人。上左/髙橋貴明さん。2015年入店で、煮方を務める。上右/水口直規さん。2016年入店で、向板を担当。下左/焼き場の堀越優希さんは、2022年入店。下中/千谷友哉さん。2021年入店。下右/見習いの山下一我さんは、2024年入店。

ソムリエの佐々木恭輔さん試食したのは佐々木さんのほか、ソムリエの佐々木恭輔(以下:恭輔)さん。


水口直規さん作──秋色の先付 柿酢がけ

水口:
秋の山に見立てた先付です。
魚介は車エビとホタテ、野菜は小カブと春菊、大黒しめじ。柿酢を和えながらお召し上がりください。

秋色の先付 柿酢がけ塩茹でした車エビ・炙ったホタテ・浅漬けにした小カブ・春菊のお浸し・だしで炊いた大黒しめじを乱盛りし、柿酢をかけた。柿酢は、ミキサーにかけた柿に千鳥酢・塩・薄口醤油で調味したもの。サツマイモはクチナシを入れて炊き、イチョウの形に。

恭輔:
エビやホタテが入っているのですが、なんか質素な感じがしますね。
佐々木:
味わいはバランスええねんけどな。
これはデザインや。イチョウの葉に象ったサツマイモが中途半端。倍ぐらいの大きさにしてバーン!と置いたらどう?
あと、棒状に切った柿を2本くらい添えるとええんちゃうかな。ボリューム感が出ると思うで。
水口:
かかっているのが柿酢であることも認識しやすいですね。ありがとうございます!

山下一我さん作──あんぽ柿のゴマ和え

あんぽ柿のゴマ和え練りゴマ・薄口醤油・煮切りみりん・椎茸の戻し汁を合わせたもので柿と甘酢漬けにした大根・ニンジンを和え、アーモンドスライスを散らした。

佐々木:
え、これも柿やんか。
山下:
……はい、考えるのに今日までかかってしまって、すり合わせができませんでした。
佐々木:
……味は美味しい。入って半年にしては上出来や。
でもコレを出したらお客さんは「また柿かい!」てなるから、もう一つ考えよう。

千谷友哉さん作──海老真丈と白菜の白いスープ仕立て

千谷:
ほっこりする一品を作りました。
カツオだしを牛乳で割ったスープに、鍋の定番の白菜、上に海老真丈をのせています。

海老真丈と白菜の白いスープ仕立て海老真丈は、ミキサーにかけたエビ・白身のすり身・卵白・カツオ昆布だし・薄口醤油を合わせ、片栗粉をまとわせて揚げたもの。器にカツオ昆布だし・牛乳・白味噌・塩を合わせたスープを注ぎ、だしで炊いた白菜と真丈を重ね、スナップエンドウをのせ、黒七味を振った。

佐々木:
……結論から言おか。これではほっこりしいひんわ。なぜか。
白菜しか野菜がないからや。食べてほっこりするのは、野菜をしっくり炊いたもの。僕やったら旬のレンコンか……炊いた里芋を一晩寝かせたもので饅頭にする。エビは喜ばれるから、饅頭に入れてもいいかもな。

もう一つのほっこりしいひんポイントは、スープに牛乳を使ったことや。なんで豆乳にせんかったんや?
千谷:
普通のだしでは面白くないかな、と思って…。試作で豆乳を使ってみたのですが、もろもろになってしまったんです。
佐々木:
だし・豆乳・白味噌のバランスと温度やな。上手くいくまで試作しよう。
千谷:
分かりました!
佐々木:
こういう、野菜のほっこり料理は力入れて欲しいねん。
おばんざい屋って流行るやん。それは、野菜のしっくり炊いたものが食べられるから。家で食べられそうで、意外と作られへんもんなんや。
この記事は会員限定記事です。

月額990円(税込)で限定記事が読み放題。
今なら初回30日間無料。

残り:2402文字/全文:4152文字
会員登録して全文を読む ログインして全文を読む

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事「祇園さゝ木」一門会、師弟セッション

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です