『神楽坂 石かわ』×現代作家

×太田修嗣vol.1 漆と料理、互いの職人仕事が、相思相愛のように響き合う

「太田修嗣(しゅうじ)さんの漆のうつわは、堅苦しくないんです。ふと触れたくなるような親しみやすさがいいな、といつも思います」と、『神楽坂 石かわ』の石川秀樹さん。店のコースでは、漆器を3点ほど組み込み、椀物には骨董を、それ以外では太田さんの漆を使うことが多いそうです。使い手を思う太田さんのうつわと石川さんの引き算の料理は、相思相愛のような相性の良さで互いを引き立てあいます。

文:渡辺紀子 / 撮影:綿貫淳弥 / 編集:伊東由美子

目次


使い手を思う細やかな仕掛け

コースでは、漆のうつわをいつも3点ほど入れています。椀物には骨董を使っているのですが、それ以外は太田修嗣さんの作品を使うことがここ数年多くなりました。

太田さんの漆に初めて出合った時、ビビッときたんです。佇まいは素朴なのに、よく見ると繊細に手が加えられていて、裏返すと、裏側にまで細やかな工夫が凝らされています。

ish0012-1a石川さん愛用の6点。左手前から時計回りに八方刀痕茶托、八方刀痕6寸皿、洗朱根来(あらいしゅねごろ)椀、洗朱根来ハツリ皿。手前の拭き漆の長方形は、石川さんのオーダーで作ったオシボリ皿。中央は、京溜(きょうため)ふち尾張浅鉢。

一番好きなのは、右上の洗朱根来椀。何ともいえない味があるでしょう。縁や周囲の黒い漆が研ぎ出されていて、鄙(ひな)びた味になっている。手に持つと温かみがあって、ほんわかした気持ちになる。

右の四角い皿も気に入っています。形だけでなく、下地の黒が見える感じも格好いいですよね。それでいて骨董のような味わいもある。

ish0012-1b洗朱根来ハツリ皿。裏面に4つの脚が。木地から手掛ける作家ならではの手仕事には、使い手への思いが随所に見られる。真ん中の朱色の筆書きがサイン。

太田さんの作品には、裏側にも仕掛けがあるんです。四隅に彫りで小さな脚を作って、安定をよくしていたり、じっくり見られることの少ない底の部分にも彫り目を入れて、細部まで手をかける。そんなところに職人気質を感じます。

ミーハーですがサインも好きなんです。シュッとしていて、ちゃんと主張がある。堅苦しい世界から解き放たれた感じが、ここにも表現されているような気がします。

木目の表情が際立つ手彫りの皿

ish0012-1c八方刀痕6寸皿 。栗の木を使用。ろくろで挽いた後、丁寧に手彫りした皿。

黒漆で拭いた木目が美しい。手彫りによって、木目がさらに浮き立って見えるようです。とても軽く、使い勝手のよさもあって、お気に入りのうつわです。

漆だから、油ものはどうかと思いましたが、天紙は敷きたくなくて。油がうつわに付かないくらいカラッと揚げて、しっかり油切りをしてから、そのまま盛り付けています。

ish0012-1d海老芋といえば、エビのような姿を残して調理されることも多いが、今回は揚げ物なので食べやすく一口大にカット。味を煮含ませてから、片栗粉をたっぷり付け、から揚げに。

初冬のお楽しみ、海老芋はいろいろな料理にしますが、今日はから揚げに。

皮をむいて蒸してから、昆布とカツオのだしに入れて、追いガツオをして、薄蜜煮にします。味付けは、みりん、砂糖、ほんの少々の淡口醬油と塩で。味を含ませてから、一口大に切って、たっぷりの片栗粉をまぶして揚げます。香りに振り柚子を少し。

木地の美しさも見せたいので、うつわの中央にこんもりと盛り付けます。彫りのラインのおかげで、料理が盛り上がっているように見えるのがいいですね。

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