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第1回 海藻サミット(京都)|海の危機に、料理人は何ができるか

海藻を起点に、日本の海と食の未来を考える「第1回 海藻サミット-海藻から見る、海・食・未来-」が、2026年3月8日、京都調理師専門学校で開催されました。“磯焼け”による藻場(もば)の消失や水産資源の減少など、海の危機が深刻化する中、料理人、生産者、研究者、企業、自治体が一堂に会して向き合おう、という本サミット。現状の共有にとどまらず、再生への道筋とともに、「料理人に何ができるのか」という問いに注目しました。

文:WATOBI編集部 / 撮影:海藻サミット

目次


海藻を起点に、海と食の危機を見つめ直す

冒頭、日本料理店『菊乃井』主人であり「一般社団法人OCEAN FOREST Project」理事長の村田吉弘氏が、強い危機感をもって現状を提示した。人口減少とともに食料自給率の低下が進むなか、日本の食は構造的な転換点にあるという。

new_a村田氏は、「日本の人口は現在1億2300万人で、食料自給率は約38%。50年後には人口が8000万人に減少し、食料自給率は19%まで落ち込むと予測されている」と警鐘を鳴らした。
「Ocean Forest Project 」は、料理人、生産者、研究者、企業など多くのステークホルダーが協働し、海藻を通じて海の再生と食文化の未来を考える団体だ。

とりわけ深刻なのが海の変化だ。海水温の上昇や藻食動物による食害により、海藻が消失する“磯焼け”が各地で進行。藻場を失った海では魚の生息環境も損なわれ、漁獲量は大きく減少している。海藻は単なる食材ではなく、生態系と食文化の双方を支える基盤であるという認識が、改めて共有された。

本サミットは、こうした課題に対し分野横断で向き合う場として企画されたものだ。料理人のみならず、生産者、研究者、企業、自治体といった多様な立場の参加者が集まり、それぞれの視点から議論が交わされた。

new_b登壇・裏方として活躍した関係者たち。

分野を越えた連携で実現した、海藻サミット

本サミットは、「公益財団法人日本財団」の助成を受け、「一般社団法人OCEAN FOREST Project」と「一般社団法人グッドシー※」の共催により実現した。背景にあるのは、海藻の生産現場と消費現場との間に横たわる分断という課題である。

※「グッドシー」は、海藻栽培を通じた藻場の再生や、海洋環境の改善を目的とした調査・研究や社会啓蒙活動に取り組んでいる団体。

海藻養殖や種苗開発を手がける現場では、生産技術の進展とともに生態系への好影響も考えられる。一方で、消費が伸びなければ持続的な産業として成立しない。とりわけ現代の食卓においては、海藻の調理法や食べ方の幅が限られていることが大きな壁となっていた。

こうした状況に対し、料理人が果たす役割への期待が高まる。新たな食べ方を提示し、文化として定着させること。この領域において料理人は大きな力を持つ。異なる領域にあった危機意識が結びついたことが、本サミット発足の契機となった。


藻場再生の現場から見える、海の構造的な課題

基調セッションでは、研究者や生産者から現在の海の状況が報告された。全国的に進む磯焼けは、場所によっては藻場の半数近くが消失する規模に達しているという。これは陸上の森林に置き換えれば、「静岡から九州にかけて森がなくなっているのと同じ」と、極めて深刻な環境変化だ。

原因は一つではない。水温上昇に加え、アイゴやウニといった藻食動物の増加など、複合的な要因が重なり合っている。また、海の中は目にする機会が少ないため、ニュースになりづらく手が施しにくい。従来型の自然回復だけでは再生が難しい状況にある。

こうした中で注目されているのが、ロープやケージを活用した養殖藻場の整備だ。いわゆる「新藻場」の周辺では、小型生物が増え、それを餌とする魚の個体数も顕著に増加するなど、生態系の回復に寄与するデータが示された。

また、陸上養殖技術の進化により、多様な海藻の種苗生産が可能となっていることや、未利用魚の活用といった資源循環の取り組みも紹介され、再生に向けた具体策が共有された。


海藻の価値を拡張する試みと、食の可能性

議論は幅広く展開された。海藻に含まれる成分を活かした化粧品開発や、肥料としての利用による農業への応用など、多様な可能性が提示された。

とりわけ印象的だったのは、海と陸の循環を前提とした視点である。海藻を介して、海洋環境の改善と地域産業の活性化を同時に図る。その連鎖のなかに雇用創出や教育的価値を見出す動きも語られた。

new_c左は、福井県三国町で、現役の海女をしている石森実和さん。「山がよくなれば海がよくなる」と、海と山、循環の環境保全が大切だと話した。左から2番目の「海藻研究所」所長でもある新井章吾さんは、「アイゴが数万尾いると、2~3日で、まるで焼け野原のように藻がなくなります」と、驚きの事実を伝えた。また、そのアイゴは11月~12月頃に脂がのり、適切に処理すれば美味しい食材にもなり得ることも共有された。村田氏は「アイゴ美味いですよね。海藻のソースでアイゴを食べるのもいいのでは」と語った。

また、歴史的観点からは、日本において海藻が多様に利用されてきた背景も共有された。かつては多彩な調理法が存在したにもかかわらず、現代では用途が限定されている。このギャップをどう埋めるかも重要な論点として浮かび上がった。


料理人は何ができるのか——科学の視点から考える

サミット全体を通して繰り返し示されたのが、「海藻の消費をどう広げるか」という課題である。生産や研究の現場で再生への道筋が見えつつある一方で、それを持続可能なものとするためには、食として選ばれ続ける必要がある。その接点に立つのが、料理人だ。

これまで日本料理において海藻は、だしや添え物、あるいは季節感を表現する脇役として用いられることが多かった。しかし、消費を喚起するという観点に立てば、従来の枠組みを超えた扱いが求められる。すなわち、食材としての役割をより前面に押し出し、食べ手の記憶に残る一皿へと昇華させることだ。

登壇した料理人たちの提案は、その具体例といえる。

new_d左から京都のイタリアンイノベーティブ「チェンチ」の坂本 健さん、京都の日本料理「一子相伝なかむら」の中村元紀さん、フランス料理「レフェルヴェソンス」の生江史伸さん、WATOBIの連載「料理理科」にも登場する農学博士の川崎寛也さん(味の素食品研究所)。

まず提供されたのは、「レフェルヴェソンス」生江氏によるサンドイッチ(ジャンボン・ブール)。豚ハムとともにパンに挟んだのは、トサカノリなど3種の海藻のピクルスと、スジ青のりを練り込んだバターである。バターのコクに、鼻へ抜ける磯の香りが重なり、さらにピクルスの酸味が油脂を切ることで、食べ進める手が止まらない構成となっていた。

生江氏は、フランス料理における油脂の使い方に着目する。「海藻は油との相性がいい。一方で、油脂は重さが出るため、酸味を組み合わせることで食べ続けられる設計にすることができる」。海藻をピクルスにすることで摂取量を自然に増やすという発想も含め、味の組み立てと消費喚起が結びついた一皿であった。
あわせて、海苔とオリーブオイル、カジメとナッツオイルといった組み合わせや、岩海苔を揚げることで風味を引き出す手法など、油脂との関係性の広がりも示された。

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この提案に対し、川崎氏は科学的な視点から補足する。「青のりにはグルタミン酸とイノシン酸が含まれており、旨みの相乗効果が働く。バターの風味付けとしても理に適っている」。さらに、ピクルスによって油脂の重さを緩和する構成についても、合理性があると評価した。

new_f「チェンチ」坂本氏が作った「ワカメスープ」。

続いて、「チェンチ」坂本氏は、海藻を“日常的に食べる文化”へと引き寄せる視点から料理を提示した。着想の源にあるのは、韓国におけるワカメスープの文化である。産後の滋養食として、また人生の節目に食べられる料理として根付くその存在に着目し、シジミだしに、すりつぶしたエゴマを加えて油脂のコクを補った一品。ワカメとメカブを具材としてたっぷりと用い、オリーブオイルでまとめることで、食べ応えのある料理へと昇華させた。

さらに具材として、琵琶湖産ニゴイのすり身にスジ青のりを練り込んだフィッシュボールを加えたのもポイント。ややクセのある湖魚の風味を海藻の香りで和らげると同時に、旨みと香りを補強する役割を持たせた。「イタリアのゼッポリーニのように、生地に海藻を練り込むと、香りと旨みの両面で食べ手に訴求しやすい」と語った。

川崎氏はこの点について、「海藻は、具材として使うのか、調味料として使うのかを分けて考える必要がありますね」と感想を述べた。前者であれば食感を、後者であれば旨みや香りといった特性をどう活かすか。その使い分けを明確化する必要があると語った。

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最後に、「一子相伝なかむら」中村元紀氏は、海藻を甘味へと展開した。スジ青のりを用いたアイスクリームである。「海苔には煎茶のような香りがある。海藻を“海の中のお茶”と捉えれば、甘味への展開も自然ではないか」と語る。キャラメルソースを合わせ、さらに青のり醤油や海藻のチップ、キャビアを添えることで、甘味と塩味、香りの層を重ねた構成に。

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この提案について川崎氏は、「海藻には一定量の脂質が含まれ、乾燥などの過程で海藻らしい香りが増す」とし、加工状態による風味の違いに言及する。フレッシュ、塩蔵、乾燥といった状態ごとの特性を理解し、料理の中でどう使い分けるかが重要であるとした。

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いずれも既存の「海藻=副次的な存在」という位置づけを更新する試みであった。 重要なのは、単に新奇性のある料理を生み出すことではない。日常的に取り入れられるか、繰り返し食べたいと思わせられるかという視点に立ち、技術をどう発揮するかである。油脂との相性に着目するのか、だしの延長として設計するのか、あるいは発酵や乾燥といった加工を組み合わせるのか。料理人それぞれの引き出しによって、海藻の表現は大きく変わり得る。

また、産地との繋がりも欠かせない。海藻が育つ環境や加工の手間、流通の現状を理解することは、価格設定や提供のあり方にも影響を及ぼす。単なる仕入れ先としてではなく、背景を共有したうえで料理に落とし込むことが、結果として食べ手の理解を深めることにつながる。

海藻という食材は、まだ十分に使い尽くされているとは言い難い。だからこそ、料理人の解釈と技術によって、その価値は大きく更新される余地を残している。消費を広げるという行為は、単なる需要の創出ではなく、食文化そのものの再構築にほかならない。その最前線に立つのが、料理人なのである。


次世代へつなぐための実践と育成の場

サミットの終盤では、今後の取り組みについても具体的な方向性が示された。未利用資源の加工・流通を促進する仕組みづくりや、認証制度の構築など、経済的な循環を生み出す試みが進められている。

さらに、若手料理人を対象とした産地研修や、実践的な学びの場の創出にも力を入れていくという。現場を知り、食材の背景を理解したうえで料理に向き合うことが、次の食文化をかたちづくる基盤になるとの考えからだ。

懇親会では、多ジャンルの料理人による海藻料理が提供され、参加者はその多様な表現を体験した。海藻という食材が持つ可能性の広がりを、実感をもって共有する場となった。


海の再生と、料理人が担うこれからの食文化

本サミットを通して浮かび上がったのは、海にはなお再生の力があるという確信。同時に、その力を引き出すためには、人の関与と連携が不可欠であるという現実でもある。

生産を増やし、消費を広げ、循環を回す。その中核に、食の担い手としての料理人の役割があることは明白だ。

海藻を起点としたこの取り組みは、単なる環境問題への対応にとどまらず、日本の食文化そのものを問い直す試みでもある。次世代へ何を手渡すのか。その具体的な一歩が、ここから始まっている。

new_j懇親会の模様。新鮮な海藻料理に、参加者は興味津々だった。この日、参加したのは定員150名に対して170名。各分野から、未来を考える人々が集まった。

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