プロ×プロ料理塾

熟成肉を学ぶ Vol.1基礎知識編

「お客様からの要望も多い牛肉は、常にコースに織り込んでいる食材。熟成肉を使うことでより印象的な料理を提案できれば」と話すのは、京都・東山安井にある『祇園にし』店主・西 隼平(じゅんぺい)さん。
今回訪ねるのは、熟成肉のスペシャリストとして知られる滋賀・南草津の精肉店『サカエヤ』店主の新保(にいほ)吉伸さん。そもそも、熟成肉とは何なのか。まずは意外と知られていない基礎知識から教えていただきます。

文:川島美保 / 撮影:岡森大輔
新保吉伸さん(『サカエヤ』店主)

1961年京都生まれ。精肉店に務めていた父の影響もあり、転々と職を変えた後に19歳で畜産業界へと足を踏み入れる。他店や父の下での修業を経て27歳で独立し、『近江牛専門店さかえや』を開店。30年ほど前から熟成肉を手掛け始め、経産牛や乳牛の食肉としての価値を高める試みでも注目を集める。2017年、南草津に移転リニューアルして『サカエヤ』をオープン。レストラン『セジール』を併設し、自身が“手当て”した肉の美味しさを着実に広めている。著書に『どんな肉でも旨くする サカエヤ 新保吉伸の全仕事』(世界文化社)。

西 隼平さん(『祇園にし』店主)

1983年京都生まれ。料理人になるのは幼い頃からの夢。京都・四条木屋町『日本料理とくを』で腕を磨き、視野を広めるべくイタリア料理も学んだ後、2016年に独立。昆布だしと塩だけで仕立てるすっぽん鍋を椀物替わりにしたり、フカヒレの春巻きを揚げ物に供したり、必ず牛肉料理を組み込むなど、印象的な料理を随所に配した独自のコース構成で人気を集めている。

熟成肉に決まりはない?

西 隼平(以下:西)
以前から熟成肉に興味はあったものの、安易に手を出してはいけないジャンル。この道のプロにお話を伺える機会をいただけて光栄です。どうぞよろしくお願いします。
新保吉伸(以下:新保)
おっしゃる通り、デリケートな扱いが必要な食材。熟成肉という名前はそれなりに広まったものの、知識のある人はかなり限られているのが現状ですからね。
そもそも、熟成肉には定義も基準もないんですよ。
西:
そうなんですね! 恥ずかしながら、考えたこともありませんでした。
新保:

一般的に認識されている現象で言えば、タンパク質が分解されてアミノ酸になり、旨みが増しているということ。ですが正直、科学的根拠も裏付けも難しいところ。

真空パックに入れて冷蔵保存するだけで熟成と呼ぶ人もいます。
肉を寝かせる温度や湿度はもちろん、日数にも決まりはない。
風を当てるか当てないか、菌を付けるか付けないかなど、製法も人それぞれ。
何をもって熟成と判断すべきかは、本当に難しくて決めきれない。
熟成に替わる巧い言葉があれば、とも思っています。

西:
そういえば、新保さんはご自身の著書で「手当て」という言葉を使われていましたよね。温かみのある素敵な言葉だと思いました。 
新保:
熟成だけでなく、肉を美味しくするための一連の下処理と保存を総じて手当てと呼んでいますね。

何度も言いますが、ルールがないからどれが正解と一概に言えないのが熟成の世界。今回の内容は、あくまで僕の手法として捉えていただけると助かります。

西:
承知しました! 本当に知らないことばかりなので、ワクワクします。
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