和食の来た道、行く道

「だしと汁」はどんな変遷を経て今に至る?【後編】対談を終えて:「郷土性」「乾物」「澄まし」の視点で、2つの椀を考案

日本美術史の研究者・依田(よだ)徹さんと、『八雲茶寮』(東京・目黒)総料理長・梅原陣之輔さんの対談から、日本料理の歴史をテーマごとに探るこの連載。第2回のテーマは「だし・汁」です。前編ではだしの材料がかつては多様だったことを、中編では澄まし仕立ての煮物椀がなぜ花形になったかを追いましたが、最終回となる後編では、その対談を受けて梅原さんが考案した二つの椀――九州の郷土料理「たらおさ」を白味噌仕立てにした椀と、塩漬けした雉を用いた澄まし仕立ての椀――を紹介。対照的な二品を通して「汁」と「だし」のあり方を考えます。

文:柴田 泉 / 撮影:天方晴子

目次

梅原陣之輔さん

1969年大分県日田市出身。京都『たん熊北店』で修業を始め、福岡の和食ダイニング料理長、大分県による在東京アンテナレストラン『坐来(ざらい)大分』(銀座)にて8年間総料理長を経験。現在は「SIMPLICITY」による日本料理店『八雲茶寮』(目黒)の総料理長。農林水産省「料理マスターズ」ほか受賞多数。

郷土の料理を洗練させた椀と、素材を研ぎ澄ませた椀

今回は、対談を受けて2品のお料理を作ってくださいました。ひとつが、梅原さんの故郷、大分県の日田に伝わるタラの内臓の乾物「たらおさ」と海老芋を用いた、白味噌仕立てのお椀。もうひとつは、雉の手羽肉の塩漬けで作る澄まし仕立ての椀です。それぞれ、どのような意図を込めているか教えてください。
梅原陣之輔(以下:梅原)
「たらおさ」を使った椀では、郷土に伝わる食材や伝承されてきた味を、料理屋の椀として洗練させること。雉の塩漬け肉を使ったお椀は、かつて使われていた食材と保存方法を手がかりに、できるだけシンプルな澄まし椀を作ることを意識しています。両方とも保存食を使っているところも、対談を受けて気を留めたポイントです。

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伝統食材「たらおさ」を、白味噌仕立ての椀に

「たらおさ」は、ずいぶんと個性的な形の食材です。
梅原:
はい。これは棒鱈にするため、身を取ったタラのエラと内臓を、産地である北海道で干して作られる乾物です。それが九州まで運ばれてきた。副産物を利用した乾物ですが、遠方から届く貴重なものでもあります。博多商人が、タラの商品にならない部分も無駄にせず食べていた、という由来も聞きます。

たらおさをもどし、甘辛く炊いた料理も「たらおさ」と呼ばれ、地元ではお盆の頃に食べられてきました。なので、この料理は「盆だら」とも呼ばれています。サトイモやゴボウ、こんにゃくなどと甘辛く煮しめるのが定番です。たらおさは時間をかけてもどすと、ゼラチン質のプルンとした弾力がある部分や、軟骨のようにコリコリした部分が現れてくる。独特の歯ごたえがあって、おいしいんですよ。

rekishi_dashi3b_2156大分県・日田で親しまれてきたタラの乾物「たらおさ」は北海道で作られる。ギザギザの部分がエラ、長く伸びているのが腸。エラ、喉、腸それぞれで味わいが異なるおもしろい食材だ。

rekishi_dashi3c_3306たらおさを甘辛味に煮た料理も「たらおさ」と呼ばれる。日田の伝統料理だ。

rekishi_dashi3d_3336「腸は、要するにホルモンです」と梅原さん。シコシコとした食感が特徴。

梅原:
今回はたらおさを甘辛く煮たものと、だしでじっくりと炊いた海老芋を椀種とし、白味噌仕立てとしました。ベースのだしは、昆布、干しゴボウ、干しショウガで作ります。カツオ節も少し入ります。

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