苦味を生かすvol.1苦味の特性を知る
昔から「春の皿には苦味を盛れ」と言いますが、その代表格といえば山菜です。日本料理店『心根』が佇むのは、そこここに多彩な山菜が芽吹く、大阪は高槻市の山の中。店主・片山 城(きずく)さんが得意とするのは、そうした山菜の苦味を重ねるように盛り合わせた”山の料理”です。そんな片山さんに、「隠し味ならぬ“隠し苦味”を取り入れてみませんか?」と農学博士・川崎寛也先生が提案。今回から4回にわたってお届けするテーマは「苦味を生かす」。第1回目は、苦味の特性を知る3つの実験を行います。
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片山 城さん(大阪・高槻『心根』店主)
1975年、大阪府交野(かたの)市生まれ。「旅館をやりたい」という夢を叶えるべく、大学で法学を学び、法律事務所に勤務後、『魚匠 銀平』など居酒屋や魚料理店で約10年、料理の修業を積む。2009年に枚方に開いた『心根』を、2018年、高槻市の山間部に移転。自ら山に入って摘んだ山菜や川魚を軸に、二十四節気の移ろいに合わせたコースを仕立て、独自の“山の料理”を磨き続けている。2024年、農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」ブロンズ賞を受賞。
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川崎寛也さん(農学博士)
1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)、「日本料理大全シリーズ」(日本料理アカデミー)。
苦味のセンサー(受容体)は25種!
- 片山 城(以下:片山)
- この春は“苦和え”と名付けた料理を作ってみたいな、と思っています。それで、今回のテーマに苦味を選ばせていただきました。
- 川崎寛也(以下:川崎)
- 苦和えとは、そそる料理名ですね。面白い! いろんな苦味を重ねるイメージですか?
- 片山:
- 店の周りでは多彩な山菜が採れますし、うちは“山の料理”なので川魚を多用しますが、その内臓も苦いですよね。そこに柑橘を合わせたりして、一皿の中で多種の苦味を楽しんでいただこうと考えてます。
- 川崎:
- まず、苦味の特性を知ることから始めましょうか。
苦味とは、毒物である可能性を示唆するシグナル。いろんな毒を回避するために、舌には苦味を感じるセンサー(受容体)が25種類あるんです。甘味は1種、塩味と酸味は2種、うま味は3種ですから、ずば抜けて多いんですよ。
- 片山:
- それだけ苦味の種類が多いということですね。
- 川崎:
- では、その苦味の種類を体感する実験をしてみましょう。
【実験1】5種の苦味の強さと長さを比較する
- 片山:
- バゲットを黒く焦がしたもの、カカオパウダー、玉露、グレープフルーツ、フキノトウをご用意しています。
- 川崎:
- それぞれ苦味成分が違うんですよ。焦げは、メイラード反応の生成物である褐色物質のメラノイジン。カカオはテオブロミン、玉露はカフェイン。グレープフルーツはナリンギンで、ワタに多く含まれています。フキノトウはペタシンですが、葉と中心部はどっちが苦いですか?

- 片山:
- えっ。食べ比べたことがないので…。どっちも味見してみたいです。
- 川崎:
- 僕も興味があります! まずは苦味の弱そうなものから少量ずつ食べて、強さと長さを比較してみましょう。
焦げ、カカオ、玉露、グレープフルーツのワタ、フキノトウの外葉と中心部の順で味見をした。
口に含んでから3分間の苦味の強さを、それぞれ5段階で官能評価し、グラフ化したもの。
- 片山:
- 思ったより焦げって苦いんですね。でも、割と早く消えましたね。
- 川崎:
- メラノイジンは水溶性なので唾液と一緒に流れて、余韻が短くなったようです。カカオは苦味が鋭かったですね。テオブロミンは水に溶けないので、舌に長く残りました。
- 片山:
- 玉露は苦味が弱く、渋みの方が強かったです。驚いたのはグレープフルーツ。口に含んだ瞬間から強烈な苦さを感じて、でも、すっと消えちゃいました。
- 川崎:
- グレープフルーツのワタは柑橘の中で最も苦いとされています。キレのいい苦味でしたね。僕は柑橘香のあるIPAというビールが大好きなので(笑)、この苦味は好ましい!
- 片山:
- 断トツに苦かったのは、フキノトウの中心部。5分以上経ちますが、まだ口の中に苦味が残ってます。逆に、外葉はそれほど苦くなく、渋みが強かった。こんなに違うとは思いませんでした。
- 川崎:
- 外葉の渋味はアクですね。成分としてはポリフェノール。舌の粘膜がきゅっと締まる感じがするでしょう。これが、収れん味です。花椒(フォワジャオ)を思わせる刺激もありますね。

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