舞茸は面白いvol.1うま味が増す温度と時間
キノコの中でも風味と食感が豊かな舞茸は、神戸の『割烹 道下』店主の道下真規さんの大好物。農学博士の川崎寛也先生は「他のキノコにはない特性があって面白い」と話します。今回から4回にわたってお届けするテーマは、舞茸の意外な特性について。初回はキノコ特有のうま味成分・グアニル酸に注目。加熱温度や時間によって、グアニル酸は増減します。舞茸のうま味が増すのは、さて、何℃で何分の加熱でしょうか?
文:中本由美子 / 撮影:香西ジュン
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道下真規さん(兵庫・神戸『割烹 道下』店主)
1974年、大阪生まれ。アパレル会社の営業マンを経て、28歳で和食の世界へ。芦屋の仕出し店、ホテルの日本料理店を経て、師匠と慕う上野直哉さんの割烹『玄斎(げんさい)』へ。4年半、自由闊達な単品料理やカウンターでのもてなしを学び、2013年に独立。季節の食材を駆使した真っ当で親しみやすい一品が評判に。奥様の実家が酒屋なので、日本酒が豊富に揃う割烹としても知られている。
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川崎寛也さん(農学博士)
1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木 亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所エグゼクティブスペシャリストであり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。近著に「おいしさをデザインする」「味・香り『こつ』の科学」(柴田書店)。
キノコ特有のうま味成分はグアニル酸
- 道下真規(以下:道下)
- これからの季節はキノコをよく使いますが、なかでも僕は舞茸が好きで。さっと揚げたりすると、すごくいい香りですし、旨みも他のキノコより強い気がします。
- 川崎寛也(以下:川崎)
- キノコの主なうま味成分はグルタミン酸ですが、グアニル酸も含まれるのが特徴的です。乾燥キノコに多いのですが、舞茸の面白いところはフレッシュの状態でもグアニル酸があることなんですよ。
キノコ種類 | 状態 | グルタミン酸 | グアニル酸 |
---|---|---|---|
舞茸 | 生 | 26 | 5 |
乾燥 | 456 | 60 | |
本シメジ | 生 | 143 | 0 |
エノキ茸 | 生 | 86~133.6 | 0 |
乾燥 | 134 | 30 | |
椎茸 | 生 | 71~131 | 0~20 |
乾燥 | 106~344 | 5~150 | |
国産マッシュルーム | 生 | 42~273.6 | 0 |
フランス産トリュフ | 生 | 77 | 7 |
ポルチーニ | 乾燥 | 77~738 | 10 |
「特定非営利活動法人 うま味インフォメーションセンター」うま味データベースより
- 道下
- でも、舞茸は生食できないですよね?
- 川崎
- そうですね。食中毒を引き起こす毒性や細菌、寄生虫の付着の心配もあるので、マッシュルーム以外のキノコは生食しない方がいいです。また、キノコは硬い細胞壁(キチン質)があって加熱しないと消化が困難。うま味も感じにくいんですよ。
- 道下
- 加熱すれば、2つのうま味成分が合わさって強いうま味が生まれるということですか?
- 川崎
- その通りです。表を見ると舞茸のうま味成分は量が多いとは言えませんが、グルタミン酸とグアニル酸が合わさることで“うま味の相乗効果”が起きるので、強いうま味を呈します。
グアニル酸は加熱の温度と時間によって増減する
- 道下
- 僕は、舞茸に限らずキノコ類はほとんど直煮にします。ひたひたのだしで煮始めて、火が入ったら調味料を加えて短時間で煮上げ、すぐに鍋ごと急冷しています。
- 川崎
- 舞茸を直煮する時の火加減は強火ですか? 煮汁は沸かしますか?
- 道下
- 強火でガンガンに沸かしてます。
- 川崎
- グルタミン酸は加熱によって増減せず、濃縮するだけですが、グアニル酸は50~70℃で増え、70℃以上で激減、50℃以下では増えないとされています。加熱の時間も重要で、グアニル酸が最も増えるのは60℃前後で20~30分の加熱という報告があります。
- 道下
- え! 僕は100℃で10分も加熱しないので、舞茸のうま味を充分に引き出せていないのでしょうか? いや、むしろ減らしている可能性もあるのか…。
- 川崎
- グアニル酸は、RNA(リボ核酸)が酵素によって変化したもの。別の酵素によってグアノシンという物質にもなるんです。RNAやグアノシンには味がないので、グアニル酸だけを増やすのが理想です。
加熱時間が短いとRNAがグアニル酸に変化せず、長く加熱しすぎるとグアノシンになってしまうんですよ。
- 道下
- うちには低温調理器があるのですが、舞茸に使ったことは一度もないですね…。どうなるのかなぁ。
- 川崎
- 低温調理器があれば、厳密に温度コントロールできますね。60℃と80℃で加熱して比較しましょう。時間は10分・25分・40分の3パターンでやるのがいいと思います。
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