上野修三の古典

皮も葉も捨てるとこなし。“田辺大根だけ”で仕立てる往年の名作5品

葉茎がぐーんと長く、肝心の白い根は短い。なにわ伝統野菜として知られる田辺大根は、昔の摂津国東成(ひがしなり)郡田辺地区(現・大阪市東住吉区)で江戸期から栽培が始まり、明治の頃には全国にその名が轟(とどろ)いていました。ところが、昭和の半ばに見た目のいい青首大根に取って代わられてしまい、幻の大根に。「身質がきめ細かくて、風味豊か。こんなええ大根を途絶えさせたら、浪速の宝の持ち腐れや!」と、上野修三さんはその復活劇にエールを送っていたそうです。「皮も葉も旨くて、捨てるとこなし! 煮ても焼いても、生でも旨い」と言うだけあって、仕立てた料理は数知れず。3品を厳選できず、今回はドーンと5品をご紹介します!

上野修三(うえのしゅうぞう):昭和10年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、1965年、『㐂川(きがわ)』を創業。なにわ伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。現在は、なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍。近著に「浪速割烹㐂川のおいしい野菜図鑑」春夏編・秋冬編(共に西日本出版社)がある。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:東谷幸一

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梅花大根の二色味噌——大根の茹で汁も葉も使った上野流風呂吹き

ずんぐりむっくりの、短足やけど、食味は抜群。煮てよし、焼いてよし、生でもよし。特に皮の部分はピリッと辛みも利いていて、大根おろしするとこれまたよし。皮も葉も美味いから、捨てるところもおまへん。
この田辺大根が絶滅しかけた…というんやから、もったいない話だすなぁ。

農学博士の森下正博先生が尽力され、地元の人たちが「田辺大根ふやしたろう会」を立ち上げてくれたおかげで、今やなにわ伝統野菜として府下に広まって…。嬉しいことだすなぁ。私ゃ、森下先生とはお付き合いがありましてネ。微力ながら応援させてもろたんだす。

ブリ大根に、大根ステーキ、生醋(なます)、漬物、大根めし…と、うちの割烹でもいろいろお出ししましたな。なかでも真骨頂は、風呂吹きだす。緻密な肉質で、独特の辛味も煮ることで甘みに変化する。その上、煮崩れもしないんやから、田辺大根にはおあつらえ向きの料理ですわ。

多くの人の力添えがあって復活した野菜でっさかいネ。見事な葉も生かさんと罰が当たると、様々に工夫する中で思いついたんが、この二色の味噌仕立て。一つは柚子味噌。もう一つは、菜っ葉を茹でてすり鉢ですり、玉味噌を合わせたもの。ほろ苦さと青さがあって、なかなかいけるんでっせ。コレ、練りゴマを加えても美味いですな。

大根を下茹でした汁に昆布とカツオ節を加えてだしを取る、というのも、持ち味を逃したくない一心から始めたことでしたな。ここに少しの塩で柔らかくなるまで炊いたら、最低でも半日以上そのままおいておくれやす。大根の滋味が一層深まりまっせ。

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