上野修三の古典

【レシピ付き】淡口醤油で仕込む、上野修三流「鯛わた醤(びしお)」

上野修三さん曰く「真鯛は捨てるとこなし」。とはいえ、内臓は扱いが難しく、廃棄してしまうことが多いのでは? そこで今回は、真鯛の胃袋と腸を使った鯛の魚醤「鯛わた醤」をご紹介。魚醤というと、一般的には塩だけで仕込み、完成までに1年以上かかりますが、「淡口醤油を使えば、3カ月で仕上がりまっせ」と上野さん。内臓由来のコクをじっくり引き出し、澄んだ深みのある味わいに仕上げるポイントは、胃袋と腸の下処理。徹底した掃除の仕方を丁寧に指南していただきました。


上野修三(うえのしゅうぞう):1935年、大阪・河内長野に生まれる。ミナミでの修業時代を経て、65年に『㐂川(きがわ)』を創業。なにわの伝統野菜を発掘するなど、大阪らしい料理を追求し、浪速割烹のカタチをつくる。60歳で開店した『天神坂上野』は伝説の割烹として名を馳せた。なにわの食文化を綴る随筆家としても活躍中で、2024年11月に「上野修三の仕事 うすくち醤油で仕立てる浪速割烹204品」(クリエテ関西)を上梓したばかり。

聞き書き:中本由美子 / 撮影:宮本 進

目次


鯛の内臓の旨みを生かして

私ゃ、山の中の田舎育ちでっさかいネ。鮮魚は大のご馳走でしたんや。修業のためにミナミに出てきた頃は、魚屋の仕事が珍しゅうて、しょっちゅう見学に行ってましてん。立派な鯛をさばくと、内臓もピカピカですやろ。ところが、これを躊躇なくバケツにポイッ。もったいないなぁ…と思って見てましたなぁ。

その記憶が残っているからか、独立して少し落ち着いた頃、あの内臓をうまく使ってやろうと思い立ってネ。人と違うことをやれば、お客さんにも珍しがられて喜ばれるってもんだす。その上、真鯛は高価やけど、内臓まで使い尽くせば元が取れるってネ。これぞ、大阪らしい“始末の精神”でおますな。

近年は魚介が不足して高騰し続けてまっしゃろ。贅沢な使い方ばかりしてたら、アカンわなぁ。今まで捨てていた部位を見直してほしいという想いも込めて、私流の真鯛の内臓の使い方をちょいとご指南いたしまひょ。

春になると、真鯛の真子(卵巣)や白子(精巣)が充実しまっさかい、淡口醤油で煮付けにすると旨いのはご存知ですわな。一緒にくっついている肝はどうしてはる? コレ、捨てたらあきまへんで。真子と一緒に煮て、卵とじにしまひょ。この煮汁がまた旨いから、玉子豆腐の地に加えるとよろしいな。

真鯛の真子と肝 左が真子、右が肝。


淡口醤油を使って“時短”魚醤に

腸や胃袋もきれいに掃除したら、食べられるんでっせ。消化器官はちょっと臭みがおまっさかい、ショウガ風味で炊くのが定番やけどネ。一番お薦めの食べ方は、今回ご紹介する「鯛わた醤」だす。

いわゆる魚醤ですけどネ。内臓を使うってのがポイントだす。身を使ったら高くつくし、捨てる部分を有効活用するってワケやね。魚醤は魚を塩漬けにして発酵させ、上澄みを取ったものやけど、完成までに1年以上かかりますやろ。ちょっと難易度が高いですわなぁ。

真鯛の胃と腸をヒガシマルのうすくちしょうゆ漬けに

そこで取り出したるは、ヒガシマルの淡口醤油。塩漬けにし、酒に浸してから淡口醤油に漬けると、3カ月でええ塩梅に。我ながらよくできた時短レシピでおます。

淡口醤油は鯛の胃袋・腸の2倍量使いまっさかいネ。ヒガシマルはんの中でも定番の黄色ラベルがお薦めだす。ケチケチせんと、じゃぶじゃぶ使っておくれやす!


胃袋と腸の掃除は丁寧に!

鯛の内臓は、全部取り出すとこんな感じだす。肝も胃袋も繋がってまっさかいね、まずは部位ごとに分けて、きれいに掃除することが肝要ですねん。

真鯛の内臓

今回は秋の鯛を使って、10月末に仕込みましてん。たっぷりと内臓脂肪が付いてまっしゃろ(笑)。コレ、全部取り除いてや。「鯛わた醤」に使うのは、胃袋と腸だけ。胃は脂肪たっぷりのピンク色の部分だす。

ぷくっとした袋を開いて、内容物を庖丁でこそいで、周りの脂もきれいに取り除く。写真右くらいまで掃除したらOK。ここは手を抜いたらあきまへんでぇ。

真鯛の胃袋の掃除

腸は、長い管みたいな部位ですな。庖丁の峰で端からこそぐようにして、内容物を出しておくれやす。ぺったんこになったら下処理は完了だす。

真鯛の腸の掃除

おっと忘れるとこやった。取り除いた脂も有効活用してや。溶かして「鯛油」を取りまひょ。鯛の身に塗って焼いたら、持ち味がぐっと深まって、旨いんでっせ。ウドやゴボウをキンピラにする時も、鯛油を使うと風味よし。アラの身が残っていたら、ちょっと合わせてお出しすると、値打ちが上がりますな。


塩漬け3日、酒に浸して2日で、本漬けに

きれいに掃除した胃袋と腸は、同量の塩を混ぜ合わせて3日ほど置くと、臭みが抜けますな。とはいえ、この塩分はできるだけ抜いた方がよろし。なんせ私流は淡口醤油で仕込みまっさかいネ。

塩漬けした胃袋と腸を半日ほど流水にさらしたら、まろやかさを加えるため、お次は酒に浸しまひょ。2日ほど経ったら、いよいよ本漬け。根昆布で旨みを補って、たっぷりの淡口醤油に漬けておくれやす。ちょぴっとみりんを加えると、まるみが出てよろしいな。

落としラップの上にさらにラップをかけて冷蔵保存。最初の1週間は毎日かき混ぜてや。その後1カ月くらいは、週に1度。その後は、思い立った時に混ぜてくれたら、3カ月ほどで完成だす。空気に触れんようラップや蓋をして、たまにかき混ぜながら保存したら、1年は充分に持ちまっせ。

上野修三さん流・鯛の魚醤「鯛わた醤」


鯛わた醤のレシピ

【材料(作りやすい量)】
真鯛の内臓(胃袋・腸)……250g(掃除後のもの)
塩……250g
酒……適量
淡口醤油……500ml
根昆布……10g
みりん……10ml

【作り方】

真鯛の内臓から胃袋と腸を取る。脂を取り除き、胃袋は開いて内容物をこそぎ取る。腸は庖丁の峰を使って内容物を出す。どちらもきれいに水洗いする。

真鯛の胃と腸

ボウルに①を入れ、塩を加えて混ぜ合わせる。保存容器に入れて3日ほど塩漬けにする。

真鯛の胃と腸を塩漬けにする

ザルに上げてからボウルに移し、1~2分、流水にさらす。食べやすい大きさに切り、さらに半日ほど流水にさらして塩抜きする。途中、軽く揉むと塩が抜けやすくなる。

真鯛の胃と腸の塩漬けを流水にさらす

保存容器に③を入れ、酒をひたひたに注ぎ入れ、2日ほど冷蔵庫でおく。
④の汁気を切り、別の保存容器に移す(壺などがよい)。淡口醤油・根昆布・みりんを加えて混ぜ合わせ、落としラップをしてから、さらにラップをかける。冷蔵庫で3カ月以上おく。最初の1週間は毎日混ぜ、その後は週に1度程度混ぜる。

真鯛の胃と腸を淡口醤油漬けにする

ヒガシマル醤油のうすくちしょうゆ 超特選丸大豆うすくち吟旬芳醇(左)
国産原料を100%使用。丸大豆しょうゆと米糀の二段熟成で、まろやかな味わいに。400ml。
特選丸大豆うすくちしょうゆ(中)
国産原料を100%使用。淡く上品な色合いと、おだやかな香りで素材を生かします。500ml。
うすくちしょうゆ(右)
厳選した原料を充分に発酵熟成。プロが認める、スタンダード商品。500ml。

■問合せ:ヒガシマル醤油㈱ お客様相談室 ☏0791-63-4635(受付時間9:00~17:00、土・日曜・祝日・年末年始・夏期休暇除く) www.higashimaru.co.jp

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