柄杓師・三原啓司さん【後編】|「一時の涼を運ぶ、青緑色の竹道具」
奈良県生駒市の高山町に工房を構える竹細工の工芸士、三原啓司さん。100年使っても飽きが来ないようにと作る、茶席の柄杓や茶杓を専門としていますが、それら飴色に古びて美しさを増す道具と対照をなすのが、若々しい青緑色を帯びた青竹の器。ひと月もせず使えなくなってしまうこの器も、100年の道具に負けない贅沢さともてなしの心を帯びています。三原さんに竹林を案内してもらいながら、両者に通じる思いを伺いました。
“頭の中で育つ”2,000坪の竹林
三原啓司さんの案内で、工房のすぐそばに生える竹藪へと向かう。くだんの青竹の器について話を伺ううち、「とりあえず、裏山で竹を切るとこから見てもらいましょか」となり、ノコギリを片手に坂を上っていく。
自身で管理する竹林の面積は、ざっと2,000坪。しかしこれは「どっちかいうたら緊急用」で、銘竹と呼ばれる工芸向きの竹は京都に多く、そちらの竹材店から仕入れることが多いという。青竹の器のようにすぐ劣化してしまうスピード勝負の道具は、この手近な竹林で賄うというわけだ。
工房のすぐ裏手に広がる竹林。竹はわずか数カ月でめいっぱいの高さにまで育ち、あとは身が詰まって硬くなっていくだけ。節の間が20cmほどで、かつ器に使える径を持つ、という竹材を探すのがどれだけ難しいか、もりもりと生えた竹を見ればよく分かる。
高さ6~7mはありそうな竹を「あれで何年くらいですか?」と聞けば、「いや、あれは今年のですよ。色が青々としてるでしょ」。今年、ということは、春先に芽を吹いて3カ月かそこらでこの高さか。竹の成長は速いと知識では知っているが、実物を前にすると、その速度が現実離れしたものであることが実感できる。
「『楽心』さんとこで使ってもらってる鮎の器だと、節の間が20cmくらいでしょ。そんな小さな若竹はこの山ひとつの中でもごくわずかしかありませんし、たまに来たってどこに生えてるか分かったもんやない」。だから毎日のように山を歩き、竹林の様子を頭に入れておくのだ、と三原さん。1日に1m伸びることもある竹が、三原さんの脳内の竹林であちこちからニョキニョキと生えていく様子を想像して、ちょっと面白くなってしまう。
大阪の福島にある日本料理店『楽心』で6月に使われた青竹の器は、三原さんの手になるもの。鮎一尾が入る節は、竹1本につき1つしか取れないという。撮影:東谷幸一
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