道具のはなし

京都・祇園『真刀』の庖丁

大阪・堺で生産される庖丁は、全国の料理人が使う9割以上を占めるといいます。ここ、『真刀(しんとう)』もまた、主に堺の職人が作る庖丁を2018年より京都・祇園で販売。刃の大きさや材質を決めるところから、研ぎ仕事、柄付けまで。その仕事が、今、勢いある料理人からの注目を集めています。依頼主の要望や用途、クセなどを細かに聞き、真摯に応え、オーダーメイドで仕立てる店主・谷岡真次さん。その庖丁をご紹介します。

文:小林明子 / 撮影:ハリー中西
鯔背(いなせ)な雰囲気を漂わせる谷岡さん。1975年生まれ。庖丁を研ぐ時以外の表情はとても穏やか。
和庖丁と洋庖丁、店内には万能庖丁や柳、薄刃などの片刃の庖丁、鱧の骨切りや鰻用といった専門庖丁がズラリと並ぶ。
店内に掲げられている一文は、谷岡さんの幼い頃も知る建仁寺の僧侶が認(したた)めてくれた。

バックグラウンドと重なる、庖丁への想い

祇園にありながらも、地元密着型スーパーや飲食店が並ぶ、下町風情豊かな一画に建つ町家が『真刀』の店舗兼工房。通りに面した位置に作業場があり、主である谷岡真次さんが一心に刃物を研ぐ様子が眺められる。

職人の街・京都でも、刃物屋が新規開業することは滅多にない。大志を抱いて修業を積み、一念発起されたのだろうと思いきや「大した理由はなくて…」と呟く谷岡さん。その祖母は、料理研究家の首藤夏世(しゅとうなつよ)氏。京都の家庭の味を伝える料理教室を開くと同時に、多くの著書も出版するなどの活躍をされた先駆け的存在で、その娘である谷岡さんの母も料理上手だった。「だから、ウチには料理道具がたくさんあって、それらを大事にする気風があった。それでこの道に進もうかなと思ったんです」。

修業に入ったのは、祖母が通っていた室町時代創業の老舗。多くの一流料理人に愛される多種多彩な庖丁をはじめ、鍋、大小の調理道具を扱う同店で谷岡さんは一通りの仕事を覚えた。庖丁専門店の開業を考えるようになったのは、15年にわたる修業期間の終盤から芽生えてきた「自分だったらこう研ぐ」、「こんな庖丁を扱ってみたい」といった想い。老舗で経験を重ねるうち、その虜になっていた谷岡さんは、自身のホームタウンである祇園で専門店を立ち上げた。

この記事は会員限定記事です。

月額990円(税込)で限定記事が読み放題。
今なら初回30日間無料。

残り:1865文字/全文:2638文字
会員登録して全文を読む ログインして全文を読む

フォローして最新情報をチェック!

Instagram Twitter Facebook YouTube

この連載の他の記事道具のはなし

無料記事

Free Article

おすすめテーマ

PrevNext

#人気のタグ

Page Top
会員限定記事が読み放題!

月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です