道具のはなし

漆芸螺鈿師・山本 哲さん|「執念の研ぎが生む、螺鈿の光沢」

虹色に輝く貝と、濃密で艶やかな漆がなめらかな曲面をなし、深い光沢を放つ螺鈿(らでん)細工。その名手が奈良県生駒市に住むと聞き、取材に向かった我々を迎えてくれたのは、セックス・ピストルズのTシャツにデニム姿の山本 哲(さとし)さん。そのロックな佇まいとは縁が遠そうな忍耐の作業、螺鈿にかける心意気を、詳しく伺いました。

文:河宮拓郎 / 撮影:福本 旭

目次


研いで、塗って、また研いで

「僕らの仕事、ほとんど研ぎですから」と山本 哲さんは言う。その右手指は太く節くれ立って、親指以外の4指は小指側へ少し横に反って見える。「半年も修業したらこうなりますよ。昨日は8時間くらい研いでました」。

fea0731a_2198角形の匣(はこ)「薄暑」。蝶の各パーツの間隙(かんげき)は狭いところで毛髪より細い。丸い牡丹紋の精巧きわまる切り抜きの技にも驚かされる。

「薄暑」と名付けられた、見事としか言いようがない匣と、山本さんの手とに代わるがわる目をやりながら、人の指を軽々と変形させるほどの仕事を強いる、螺鈿細工の膨大な工程に畏れを覚える。その工程を、素人が受け売りで大いにつづめて述べるならば——

①漆で麻布を貼った木地に、切り抜いた貝を貼る
②貝の周りに何回かに分けて粗さの違う下地漆を塗って高さを貝と揃える
③砥石で水研ぎして下塗り・研ぎ・金粉蒔き・梨地塗り・研ぎ・上塗り・研ぎの順に塗りと研ぎを繰り返す
④貝の上の漆をめくり落とし、仕上げ炭での研ぎと摺り漆塗りを繰り返す
⑤鹿の角粉など微細な研磨剤を付けて手のひらで磨き上げる

といった具合。

fea0731b_194上の2枚が白蝶貝(しろちょうがい)(左)と黒蝶貝。真ん中と下左の3枚がニュージーランド産・メキシコ産・国産のアワビ。下右が夜光貝。

fea0731c_199上記の貝を立体感の出る厚貝(1㎜厚程度)、透明感のある薄貝(0.1㎜厚以下)に加工したものを使い分ける。

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