和インのマリアージュ

×2色の田楽。甘みor強い味わいを拮抗させる

発酵調味料×日本酒の相性は言わずもがなではありますが、ワインも同じ醸造酒。この連載でも、醤油×ワインの可能性は幾度となく語られてきました。そこで、今回のテーマは味噌。旬を迎えるナスとイチジクを、赤・白と2色の田楽に。「和食こそワイン!」という心強い2名の指南役に、それぞれとのマリアージュをご提案いただきます。醤油がワインと合うならば、そのルーツである味噌も…と思いきや、第6回目にして意外な展開に…⁉

文:阪口 香 / 撮影:Rina
松岡正浩さん(大阪・千里山|日本料理『柏屋』/エグゼクティブソムリエ)

尼崎市出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にてワインの基礎を覚え、パリ『ステラ マリス』へ。日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人を務め、2016年、『柏屋』へ。フランス中心のワインと日本酒を織り交ぜたペアリングを提案。21年、レストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」にてベストソムリエ賞受賞。

高橋多弥さん(大阪・肥後橋|ワインバー『Sabor a mi(サボラミ)』/ソムリエール)

大阪市出身。辻調理師専門学校卒業後、料理人としてスタートを切り、サービスへと転身。ビストロ『ラ・トォルトゥーガ』やワインバー『ピュール北新地』などに勤めた後、『豚玉』(現『たこりき』)にて、今吉正力さんからヴァン・ナチュール※の熟成について薫陶を受ける。2018年、『サボラミ』開店。店では、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリアのワインを中心に扱う。日本ワインへの造詣も深い。

下田正人さん(大阪・本町|日本料理『昇六』/店主)

『浪速割烹 㐂川』出身の父・昇さんが営んでいた島之内の割烹『㐂川 昇六』(閉店)で、幼い頃からその背中を見て育つ。神戸『玄斎』などでの修業後、引退した昇さんに声をかけ、2019年3月より二人三脚で営業をスタート。なにわの伝統野菜や大阪の特産品を多用し、和風コロッケなど往年の浪速割烹の一品も織り込むコースで人気を得る。店では日本酒、もしくはフランス産のワインを提供するという。

※一般的には、ボルドー液を除く薬剤を一切使わず、有機栽培され手摘み収穫したブドウを使用。天然酵母による発酵で、補酸・補糖を行わず、酸化防止のために用いられる亜流酸塩(SO₂)の使用は極少量にとどめたワイン。フランスの「自然派ワイン協会(AVN)」の「ヴァン・ナチュール」の定義では、許容される合計SO₂の値は、赤ワイン・発泡性ワイン:30mg/ℓ、辛口白ワイン:40mg/ℓ、5g以上の残糖がある白ワイン:80mg/ℓとしている。

今回は田楽とのマリアージュ。やはり、赤味噌には赤ワイン、白味噌には白ワイン、でしょうか?
高橋多弥(以下:高橋)
セオリーでいうとそうですね。
加えて私は、アルコール感があったり、余韻が長いワインを選ぶのもポイントかと思います。赤味噌は特に余韻が長いので、それに負けないくらいのもの。もしくは、その余韻をスパッと切ってしまうような、酸のあるものがいいと思います。
松岡正浩(以下:松岡)

僕は、一番重要なのは“熟成感”だと思っています。これは、同じ発酵調味料の醤油にも言えることで、発酵独特の風味に複雑な香りや味わいを同調させます。

今回のお料理は田楽なので、合わせる食材によってもワイン選びが変わると思うのですが…。

下田正人(以下:下田)
今回は2種の田楽を作りました。ナスには八丁味噌を、イチジクには京都の白味噌を合わせます。
田楽味噌は、それぞれ砂糖、酒、みりん、卵黄を加え、鍋で1時間ほど練ります。八丁味噌の方はキリッとしてますが、白味噌の方は甘めかと思います。

DSC_4575大阪・南河内地域が主産地の「大阪なす」と呼ばれる中長の千両ナスは、皮と肉質が柔らかいのが特徴。イチジクは篠山のもの。

図1

『昇六』では、ナスの皮を縞目に剥いたものを油で揚げ、グリルでしっかり焼き、赤味噌の田楽味噌をのせて再度焼いてケシの実をのせる。「縞目に剥くのは、油を吸わせたり、食感を良くするためでもありますが、箸で食べていただきやすくなるんですよ」。イチジクは皮を剥かずに焼き、白味噌の田楽味噌をのせて再度焼き、黒ゴマをのせる。

DSC_4578

高橋:

白味噌の田楽味噌、結構甘い…ですね。
私がイチジクの白味噌田楽にと思って持ってきたのは、カリフォルニアで造られた、スペイン系品種のアルバリーニョ。果実味と濃密な凝縮感が、卵黄入りの田楽味噌のまったり感、イチジクの酸にも添うかな、と思ったのですが。
…うーん、邪魔はしないのですが、良くもないというか。

そして、ナスの赤味噌田楽には日本の赤を。メインの品種・タナは、渋みを意味するワイン用語・タンニンの語源になったもの。このワインもしっかりタンニン、そして酸がありますが、日本のワインらしく、トゲトゲしさはなく、落ち着いていて飲みやすい。
合わせてみると…赤味噌のコク深さ、ナスの皮の苦みをスッと流す力がありますね。これはこれでいいと思いますが、バチッとマリアージュしている感じはないかも…。

DSC_4566高橋さんが選んだワイン。
(左)エリア:アメリカ・カリフォルニア/ワイナリー名:Ferdinand(ファーディナンド)/ワイン名:Ferdinand Albarino2019(ファーディナンド アルバリーニョ)/品種:アルバリーニョ
(右)日本・栃木/ワイナリー名:ココ・ファーム・ワイナリー/ワイン名:陽はまた昇る2018/品種:タナ、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロ

松岡:

そうですね…。アルバリーニョがしっくりきていない感じは、私が持ってきたゲヴュルツトラミネールにも共通していて、ワインが味噌の味わいの強さに負けてしまっているということかと。

ゲヴュルツトラミネールは、華やかな香りがあるワイン。2013年のものなので、熟成というよりは、果実味が落ち着き、複雑味をほんのり感じられるくらい。でも、もっと熟成したものの方が今回はよかったかな。

下田:
個人的には、このライチっぽい味わいが、濃い赤味噌の田楽味噌やナスの油分をスッと流してくれて好きですよ。これは、人によって好き嫌いがありそうではありますが…。

DSC_4613

DSC_4570松岡さんが選んだワイン。
(左)エリア:フランス・シャンパーニュ/ワイナリー名:LOUIS ROEDERER(ルイ・ロデレール)/ワイン名:LOUIS ROEDERER BRUT PREMIER(ルイ・ロデレール・ブリュット・プルミエ)/品種:ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエ 
(右)フランス・アルザス/ワイナリー名:Valentin Zusslin(ヴァランタン・チュスラン)/ワイン名:Valentin Zusslin Gewurztraminer Bollenberg La Chapelle 2013(ヴァランタン・チュスラン ゲヴュルツトラミネール ボーレンベルグ ラ・シャペル)/品種:ゲヴュルツトラミネール

高橋:
イチジクの白味噌田楽にシャンパーニュは、いいと思いますが…。
松岡:

こちらも仕入れて数年間セラーで寝かせ、複雑味と旨みをしっかりと感じられるものを選びました。 でもこちらは、味噌というより、イチジクとシャンパーニュの相性がテッパンなのでなんとかイケている…という感じで、マリアージュというには厳しいかな…。

総じて言えるのは、田楽味噌と今回選んだワインを一緒に味わうと、ワインの甘みがほぼ感じられなくなるということ。
甘みを欠くと、ワインは味のバランスを崩してしまいます。
かろうじて、ナスやイチジクといった食材の甘みや瑞々しさのテンションが繋いでいるな…という感じですね。

DSC_4576

高橋:
もし、これを教訓にワインを選び直すとしたらどんなものにします?
松岡:

甘みがしっかりあるものを選ぶか、味わいに強さがあるもの。味噌の味わいに拮抗させたいですね。
例えば、シャンパーニュなら今回選んだ辛口を表す区分「ブリュット」のものではなく、「ドゥミセック」という甘口のものを選んで、甘さのテンションを合わせるのがいいかな。

あとは、高橋さんが持ってきたタナ主体の赤ワインのように味を「流す」方向でなく、同調させる、味わいがしっかりしていて、アルコール度数が高めのもの。例えば、南イタリア・シチリアの赤ワイン品種であるネーロ・ダーヴォラはいいかもしれない。もしくは、南アフリカのもの。新世界ならではの味わいや酸の強さはイケるかも。

高橋:
南アフリカなら、サンソーとかアリかもですね。しっかりとした酸があるので。
私は、シュナン・ブランを試してみたいです。シュナン・ブランは極辛口から甘口まで味わいが多彩ですが、デザートワインまでいかない程度の甘さがあってもよさそう。
松岡:
逆に、甘みのないワインを選ぶ、というのも手ですね。フランスのジュラ地方を代表する白ワイン品種・サヴァニャンとか。シェリーもアリです。辛口から極甘口まで選べる範囲が広い。
高橋:
酒精強化ワインのシェリーは意外と汎用性が高いので、試してみる価値ありですね。
今回は、私たちも勉強になりました。

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