和インのマリアージュ

料理人のためのソムリエ試験対策 Vol.8 ワインの酸とアルコール

ソムリエの松岡正浩さんから学ぶ「料理人のためのソムリエ試験対策」第8回目。テーマは、二次試験のテイスティング対策で意識したい「酸(酸味)」と「アルコールのボリューム」についてです。「ワインのタイプ分け」を行うにあたって重要なこの2要素。その強弱が生まれる理由や、見分け方のコツをお教えいただきます。

文:松岡正浩 

目次

松岡正浩(「合同会社 まじめ2」代表 / 大阪・北新地「空心 伽藍堂」シェフソムリエ)

兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。

ワインを分析する上で、その基準となる香りや味わいの強弱を個々に感じられるようになることはとても大切です。今回は、ワインの個性を決定づける重要な要素である「酸(酸味)」と「アルコールのボリューム」に焦点を絞って考えてみたいと思います。

冷涼産地と温暖産地が生み出す個性の違い

ブドウは農作物であり、気候や気温の影響を大きく受けます。例えば、夏でも比較的涼しく、気温がそれほど上がらないドイツのブドウと、太陽が燦々と降り注ぐ南イタリアやカリフォルニアのブドウでは、育成環境が大きく異なり、当然ながらワインのスタイルにも大きな違いが生まれます。

日本やフランス、アメリカなど、北半球に位置する国々では、一般的に北へ行くほど気温が下がり、南へ行くほど(赤道に近づくほど)気温が上昇することは、おわかりいただけると思います。
ワインは南半球でも造られていますが、話をシンプルにするために今回は北半球における南北をイメージしていただきながらお読みいただければと思います。


リンゴとマンゴー

ワインの酸とアルコールの関係を理解しやすくするために、リンゴとマンゴーを例に説明いたします。

どちらが涼しい地域の果物かといえば、もちろんリンゴです。日本では青森県が最大の生産地であり、全国の約6割を生産しています。シャキッとした食感に程よい甘み、そしてシュワっとした爽やかな酸味が特徴です。

一方、マンゴーはインドからインドシナ半島が原産で、日本においては沖縄・宮崎・鹿児島の3県が国内生産の約9割を占めています。果肉は(リンゴ以上に濃い色調である)オレンジ色で、芳醇な香りとジューシーでとろけるような食感を持ち、味わいは濃厚でしっかりと甘さが際立つ、まさに南国感満載の果物です。

リンゴが北の涼しい地域を、マンゴーが温暖な地域をイメージさせるのは、酸味と甘さの関係が太陽の恵みと比例していることに由来します。
このイメージをそのままワインに当てはめたいのですが、ワインの場合は少々事情が異なります。ブドウの酸(酸味)はワインに残りますが、ブドウの甘み(糖分)は発酵によって基本的に全てアルコールに変わるからです。

冷涼な地域では、ブドウが完熟したとしても温暖な地域ほどではないため、それほど糖度が上がらず、その分、酸がしっかりと残ります。これらのブドウから造られるワインは、色調が淡い可能性が高く、酸を主体としたスッキリとした味わいになる一方で、糖度が低めであるためアルコールのボリュームは控えめ、全体的にやや細身で(リンゴを思わせる)爽やかなスタイルになります。

反対に、温暖な地域で太陽の恩恵をたっぷり受けたブドウは、(マンゴーのように)より甘く熟し、その分、酸は控えめになります。その甘さ(糖分)がそのままアルコールに変わるため、できあがるワインは、濃い色調であることが多く、果実味が豊かでアルコールのボリュームを感じる一方で、酸が穏やかな分、より重厚感のある印象をもたらします。


ブドウの糖分

ワイン造りにおいて、糖分は極めて重要な要素です。十分な糖分がなければ、バランスの取れた高品質なワインを生産することができません。
近年の地球温暖化の影響により、ブドウ栽培が可能な地域の北限が上昇し、北欧などの地域でもブドウが熟すようになり、ワイン造りが始まっています。
このような気候変動にもかかわらず、名高いボルドーの格付けシャトーを含む多くの生産者が、今なお発酵過程でタンクに砂糖を添加する「補糖」を実施しています。この事実からも、ワイン醸造において糖分がいかに重要であるかを理解できると思います。

ところで、ワイン用のブドウを食べたことがありますか。ワインの味からすると「そんなに甘くないのでは」と思っている方もいらっしゃると思います。しかし、実際はフランス北部のロワール地方やシャンパーニュといった北に位置する冷涼な産地のブドウでさえ、ものすごく甘いのです。ただ、生食用とは異なり、水分が少なく渋みが強いことが多いため、そのまま食べても美味しいとは限りません。

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酸とアルコールの強弱を意識してテイスティングする

私はワインをブラインドテイスティングする時には、何よりもこの「酸とアルコール」に意識を向けます。このバランスと強弱が、そのワインが冷涼産地のものか、温暖産地のものかを判断するうえで、最初に着目すべき重要なポイントとなるからです。

ここで、二次のテイスティングを想定して少し考えてみましょう。どちらかと言えば淡い色調、酸が主体で爽やかな印象のワインであれば、ドイツやフランス北部といった冷涼な産地をイメージします。
一方で、濃い目の色調、豊かな果実香、しっかりとしたボリュームのある味わいを持つワインは、(北半球においては)より南に位置する温暖な産地、南フランス、イタリア、スペインといった地中海沿岸の国々、あるいはさらに果実味が力強いアメリカなどの新世界のワイン産地を想定するといった流れになります。
そして、さらにそこから、ブドウ品種等を探っていくことになるわけですが、この話はまた後日に。

とはいえ、まだこれらの強弱をいまいち感じることができない方も多いと思いますが、大丈夫です。今後ワインをテイスティングする時には、「酸」とは「アルコール」とはと問いかけながら、常に意識し、そして感じたことを「書き留めて」ください。続けているうちに少しずつわかるようになってくるはずです。そして、これらの強弱を感じ取れるようになってくるとテイスティングがより楽しいものになります。

ワインの個性を決定づける要素は、産地の緯度や気候だけではありません。地域ごとに栽培されるブドウ品種が異なり、土壌や標高、造り手の哲学も大きく影響します。それでも、酸とアルコールはワインにとって非常に重要な役割を果たしており、二次のテイスティングにおいては、「ワインのタイプわけ」の判断の基準となる大切な要素であるといえます。

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