調味料とワイン、マリアージュの基礎【オリーブ油・カラシ(マスタード)・レモン編】
食材とワインの“つなぎ役”である調味料。これまで、ワサビ・ショウガ・醤油・味噌・塩・コショウとワインのマリアージュについてソムリエの松岡正浩さんから教わりました。今回はオリーブ油・カラシ(マスタード)・レモンについて。覚えておくとワイン選びに役立つポイントが満載です!
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松岡正浩(大阪・北新地|中国料理『有 伽藍堂(う がらんどう)』/シェフソムリエ)
兵庫県出身。山形大学に進学後、県内のホテルに就職。東京『タテル ヨシノ 芝』にて本格的にフランス料理の世界に入り、その後、渡仏。『ステラ マリス』を経て、パリの日本料理店『あい田』ではシェフソムリエとして迎えられた。帰国後、和歌山『オテル・ド・ヨシノ』にて支配人兼ソムリエを務め、2016年、日本料理『柏屋』へ。こちらでも支配人兼ソムリエを務め、ワイン・日本酒を織り交ぜたペアリングコースを提案。レストランガイド「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)2021」にてベストソムリエ賞受賞。2022~23年、京都・御所東のフランス料理『Droit(ドロワ)』においてギャルソンとして勤務。23年6月より、大阪・北新地の中国料理『有 伽藍堂』にてシェフソムリエを務める。
7. オリーブ油
おおよそ全ての油はワインととても相性が良く、特にオリーブ油の産出国であるスペイン、イタリアにおいてはパンに付けたり、アヒージョにしたりとオリーブ油そのものとワインを共に楽しむ文化が根付いています。
油と赤ワイン(タンニン)の相性を裏付ける、ボルドー大学の研究結果があります。
オリーブ油を乳化させた液体に、ブドウに含まれるタンニンを添加し分析したところ、タンニンが添加された液体は添加されていないものに比べ、油脂を取りまく粒子が大きくなっており、口当たりもなめらかになっていました。また、菜種油・グレープシード油・オリーブ油それぞれを被験者に飲ませた後、タンニン溶液を与えました。すると、単体でタンニン溶液を摂取した時より、これらの油を口に含んだ時の方が渋みを優しく感じたとのこと。さらに、オリーブ油の時が最もなめらかに感じた被験者が多く、タンニン溶液を「フルーティーで飲みやすい」と答えた人もいたそうです。
このことからも、オリーブ油を意識してワインを選ぶ時は、ピノ・ノワール種などの酸が主体でエレガントなタイプよりも、カベルネ・ソーヴィニヨン種やシラー種などの渋味のしっかりとしたフルボディタイプがより適していると考えられます。実際に、スペインやイタリアの赤ワインは果実味・タンニン共にしっかりとしたタイプが主流であることからもオリーブ油との相性が見えてきます。
オリーブ油は白ワインとも相性が良く、特にシャルドネ種やイタリア、スペイン等のふくよか系白ワインと良い関係を築きます。
タンニンに関しては赤ワインほどではありませんが、ふくよか系白ワインには樽由来の加水分解型のタンニンが含まれていることが多く、オリーブ油によってワインの風味を伸ばす傾向にあります。さらに、このふくよか系白ワインは、なめらかでワインによってはトロリとした質感を持つものもあり、このなめらかさ、口当たりにおいても油と同調します。
また、オリーブ油特有の青い香りに注目すると、ハーブ香を感じる白ワインとの相性の良さも見えてきます。
オリーブ油は魚料理とも相性が良く、地中海料理やイタリア料理においては調理や風味付けとして日常的に使用され、そこにワインのある食卓の絵が想像に難くないことからも良い関係であることが見て取れると思います。
なお、ワインが油全般と好相性であることから、天ぷらや揚げ物は素材をイメージしながらかなり自由にワインを選ぶことが出来ます。
撮影:Rina
8. カラシ・マスタード
どちらもアブラナ科に属するからし菜の種子から作られますが、その種類と製法が違います。
カラシはその種子を粉末にし、水またはぬるま湯で練ったものであり、ツンとした鋭角な香りと揮発性の辛味を持ち、強い刺激が特徴です。
一方で、マスタードは、種子そのものやその粉末に、水や酢、糖類や小麦粉などを加えて練り上げたもので、辛み成分はカラシと違って不揮発性であり、ツンとくる香りが少なく、マイルドな味わいになります。
このような違いがありますが、ワインとの相性においては、ひとまずまとめて考えても問題ありません。
以前お伝えしたように、料理にワインを合わせる際、ポイントになるのは酸味です。
カラシ・マスタードの酸味はワインと良い塩梅で、白ワインとは自然と同調する感じです。赤ワインとも、渋味と酸味がそれぞれお互いを補完し合うような関係で、さらに質感的にも口の中で心地良い状態が形成されます。
大阪・東心斎橋『ひろせ』の鴨のロース炭火焼には、だし入りマスタード醤油のソースで。ブルゴーニュの赤ワインと共に。
また、この辛味についてはコショウと同じくワインに合わせやすく、「マリアージュの考え方10」の「4. ある一つのポイントに合わせることで、全体をまとめる」に当てはめて考えることができます。
カラシ・マスタードは、主張がはっきりとしており、他の食材の風味に邪魔されることがそれほどありません。また、塗ったり付けたり、添えたりと口内に直接触れる可能性が高く、その主張が先に広がることもワインと合わせやすい理由です。ですから、刺身+ワサビの組合せのようなイメージで、ワインとそれほど相性が良くない食材にカラシ・マスタードをあしらうことで、比較的簡単にマリアージュが出来上がります。
9. レモン
レモンとワインは意外と難しい関係です。レモンは果実の中でもクエン酸含有量が多く、このクエン酸はそのまま舐めると顔をしかめるくらいの酸味を持ちます。
マリアージュにおいて酸味は大きなポイントですが、レモンの酸味は強すぎるため、合わせるワインは基本的に爽やか系白ワインに限られます。ソーヴィニヨン・ブラン種に代表されるこの爽やか系白ワインはレモンや柑橘の風味を持ち、樽を使わず酸味が豊かであるため、レモンの風味と流れを共にし、さらに強いクエン酸の酸味をまろやかにします。ちなみに、この白ワインの酸味はリンゴ酸が主体です。
残念ながら赤ワインとレモンは、相性が良いとは言えません。これは、ワインに含まれるタンニンとレモンの酸味が相互に干渉し打ち消し合い、風味を損なうためです。
白ワインでも樽を使ったふくよかなタイプは、リンゴ酸が乳酸に変わるため酸味が穏やかになり、味わい全体としても丸みを持つため、双方のバランスを崩し、ワイン、レモンそれぞれの強さだけが目立つ結果となります。
和食・日本料理においてはレモンの他に、ユズやスダチ、その他の和柑橘を使用されることも多いでしょう。これらの柑橘はレモンほどクエン酸が主張せず、より複雑で特徴的な風味を持つので、レモンよりワインとの相性が良いといえます。
私は、日本料理店勤務時代、お椀には多くの場合、日本酒ではなく少し温度を上げた白ワインを合わせていました。それは、お椀にユズを添えることが多かったことも理由の一つです。
撮影:Rina
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