日本料理のことば

「南蛮」がつく料理の由来と意味

南蛮漬けや南蛮人、南蛮菓子…なんとなく外国由来のものを指すイメージがある「南蛮」ということば。ですが、その定義は?と聞かれるとなかなか明確に答えることができません。今回は、その語源から、料理に用いられ、さらに変化していった背景を辿ります。また、混同して使われる似たことば「難波」についても解説します。

文:「辻󠄀静雄料理教育研究所」今村友美 / イラスト:松尾奈央(Factory70) / 協力:辻󠄀調理師専門学校

目次

「南蛮」はどこからきた?

料理の名に南蛮[なんばん・なんば]とつく場合、揚げる・炒めるなど油を用いた調理や、ネギやトウガラシといった香味野菜が使われるといった特徴があります。南蛮漬けや南蛮煮が代表的な例として挙げられます。

南蛮ということばの由来は、古代中国において自国を世界の中心と見なし、優位を誇示していた時にまで遡ります。四方の異民族を呼んだ蔑称の一つで、文字通り南の野蛮な国(人)を意味しました。
このことばは日本にも伝わりましたが、日本では蔑む意味合いは薄く、東南アジアなど南方地域の総称として使われたようで、16世紀にポルトガル人が、後にスペインなどとの交易が始まると、その二国が南蛮と呼ばれる南方地域を経て渡来したこともあって、彼らのことか、本国そのものを指すようになりました。


料理の特徴が由来ではない

では、なぜ南蛮が料理の名に使われるようになったのでしょう。
油を使った調理法は、古くは中国文化や仏教の影響によって、奈良時代には伝わっていました。鎌倉時代になると、禅宗の寺院で中国風の精進料理が作られるように。室町時代以降は食用油の生産量拡大もあって、庶民も調理に用いるようになり、本格的には明治以降に定着します。すなわち、油を使った料理といえば中国の模倣という時代が続いており、南蛮人が渡来するよりずっと前からあったわけです。もちろん、ネギなどの香味野菜も古代から日本にはあります。南蛮は、料理の特徴に由来することばとは考えにくいのです。


「南蛮」は“異国風”のイメージに

もともと日本の世界観は、仏教の教義に基づいた3国(日本・中国・インド)を中心としたものでした。しかし、この世界観をがらりと変えるエポックメイキングな出来事が起こります。西洋との出合い——すなわち16世紀の南蛮人の渡来です。

1543年、ポルトガル人を乗せた中国船が種子島に漂着。以後、西欧諸国(ポルトガルを筆頭にスペイン、遅れてイギリスやオランダ)との交流が行われ、文物が行き交うようになりました。江戸時代初期の1639年に鎖国が完成するまでの約100年間、この交流は続いたのです。

伝来したもののうち、代表的なのは鉄砲とキリスト教ですが、料理や菓子も含まれました。南蛮を冠する食のことばは、南蛮料理のほかに、南蛮菓子(カステラや金平糖など)、南蛮胡椒[トウガラシ]、南蛮黍[トウモロコシ]など、次々に生まれました。日本人の食生活にも大きな影響を与えたのです。

ところが南蛮と名のつく料理を江戸時代の本で引いてみると、その特徴は一様ではありません。調理法は、油で揚げる・炒めるにとどまらず、煮る・焼く・漬けるなどさまざま。材料に丸鶏を使う料理が目立ちますが、魚(鯛や小魚など)も多く、ネギやトウガラシなどの香味野菜や、香辛料の類もまちまちです。油も豚の油やゴマ油、さらには油を使わず鯛を丸ごと糠味噌に漬けて焼いた料理もあります。江戸後期の随筆『嬉遊笑覧』にあるように、南蛮は「昔より異風なるものを南蛮と云によれり。これ又しっぽくの変じたるなり」、すなわち中国風なのか南蛮風なのかの線引きも難しいのです。

どうやら南蛮料理は、元は油で揚げたり香味野菜を加えたりした西洋風料理だったのが、鎖国下の日本では、決まった調理法や材料などで定義づけられるというより、“異国風”という感覚的な特徴だけをもって、日本化していったものと考えられそうです。それほどに南蛮文化との出合いは、庶民にとってもインパクトがあった。「南蛮」ということばが持つ、目新しさや垢ぬけた感じ、異国情緒豊かで、そして外国の上等な文物(舶来品)への憧れの気持ちをこめて、好んで料理に用いたのかもしれません。

ちなみに、ネギを用いる料理に難波[なんば]という名がつくことがあります。大阪難波がかつてネギの産地だったことからの呼び名だそう。音が同じなので、南蛮の字をあてることがあります。ぶつ切りネギ入りの難波煮(南蛮煮)、ネギ入り鍋焼きの難波うどん(南蛮うどん)など。油を使わなくても南蛮の名があるネギの料理は、難波からの転と考えることもできます。

なお、南蛮に蔑む意味はありませんが、料理屋は海外のお客様も多く迎えるため、「蛮」の字に抵抗を感じる方もいるかと思います。その場合、ひらがなで「なんばん」と表記する例もあるので、合わせて紹介しておきます。

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