「銀座 小十」のエスプリ

【レシピ付き】鮎解禁で夏へと向かう6月のご馳走 ――殻雲丹&牛ロースすき焼き

6月は「衣替えの季節です」と『銀座 小十』店主の奥田 透さん。鮎は解禁、鱧も出始め、ナスや茗荷、トマト、冬瓜といった夏野菜も旬を迎え、和食の献立は一気に夏色を帯びてきます。ガラス器の出番が増え、“料理の衣“もまさに衣替え。シャキシャキと食感のいい料理や、冷製の一皿も織り交ぜながら、「この時季ならではの“勝てる食材”で勝負しないと」と奥田さん。ウニ、天然鰻、牛肉などでご馳走を仕立て、それを引き立てる皿もまた必須。メリハリを重視した献立の中には、昨年とは違うもの、いい意味でのモダンでスタイリッシュな表現を追い求める、奥田さんのエスプリが薫ります。


奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。東京すし和食調理専門学校・教育顧問。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。

聞き書き:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平

殻雲丹——意外性と調和性のある豆腐の味噌漬を潜ませて1品目から“掴み”ます

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[料理] 殻雲丹 豆腐味噌漬 枝豆 昆布だしゼリー  青柚子
[うつわ] 荒川尚也作 ガラス丸皿

この時季、どこに行っても鮎と鱧が出てきます。寿司屋に行って「またマグロか」、天ぷら屋で「またエビか」とは言わないのに、なぜか日本料理店では「また鱧か」「また鮎か」と思われてしまいがち。そうはいっても6月の花形食材ですから、献立には外せません。ですから、圧倒的なクオリティーの違いや、誰とも似ていないような創意工夫が必要です。

私の中では、鱧は和食でしか表現できない食材で、夏を象徴する存在。ここ2年、鱧はトップバッターの突き出しでお出ししてきましたが、今年はお造りにし、正道の湯引きで勝負します。本当は7月の祇園祭の頃に提供したいのですが、へそ曲がりとしては6月に湯引きにして圧倒的に美味しいものに仕上げようと思っています。使うのは、身質がいい長崎・天草の500~600gの鱧。ほのかに、ふわっと火入れして、温かい状態で食べていただきます。

今年の6月の“掴み”となる1品目は「殻雲丹」です。この時季は、安定した美味しさの北海道の紫ウニを使います。私は殻ウニをほじって食べるのが好きで、これに初夏を感じます。
殻雲丹も、ここ数年の定番。焼きナスと合わせたり、トウモロコシや枝豆、アスパラガスのアイスを添えたり…といろんなバージョンでお出ししてきましたが、今年は豆腐の味噌漬で! なかなか意表を突いているでしょう。

豆腐を味噌漬にすると、白味噌の甘味が移って味も凝縮します。さらに柚子果汁を搾るとクリームチーズのような味わいになるんです。ここに茹でた枝豆を加えて殻に詰め、その上にウニをのせ、仕上げに昆布だしのゼリーをかけてお出しします。シャンパンにもビールにも日本酒にも合う一品です。

ひと口目は爽やかに。昆布だしがウニの磯の風味をより鮮やかにします。そこに豆腐の味噌漬が加わると、濃厚な旨みの相乗効果が起こって、枝豆の食感がいいアクセントになります。ウニの殻をほじりながら、一口ごとにそんな味の変化が楽しめたら…、みんなハッピーでしょう(笑)。1品目は“気分が上がる”ということも大事ですから。

続いて、今月はあと2品付き出しをお出しします。柔らかなウニの次は、食感のいい車エビとツブ貝、野菜の和え物を。そして、3品目には毛ガニと夏野菜、紫蘇素麺で涼を感じてもらいます。ここに、蕎麦つゆのシャーベットを添える趣向が面白いでしょう。6月の突き出しは、このラグジュアリーな三部作で、掴みを完結させます。

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コメント
3
いいだん 2022.06.30

すき焼きの2番が豆腐になってます

yun 2022.06.10

ちょこまろ様
WATOBI編集長の中本由美子です。ご指摘ありがとうございました。すぐに修正をさせていただきました。今後はより一層、チェックを強化していきます。ご迷惑をおかけしてすみません。熱心に読んでくださっていることが伝わり、とても有難く思いました。感謝申し上げます。

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