「銀座 小十」のエスプリ

【レシピ付き】趣向に富んだ10月の献立――寄せ向&魳松茸包み焼き

豆名月、栗名月とも呼ばれる十三夜、収穫を祝う秋祭りと行事ごとも多く、活気に満ちた10月。その愉しさを織り込んだ『銀座 小十』の献立は、いつにも増して変化に富んでいます。不動の四番バッターは、秋の名物「魳(カマス)松茸包み焼き」。充分に役者は揃っていますが、ご主人の奥田 透さんはそこで満足できないご性分で…。今年ならではの新たな趣向として取り入れたのは、名残(なごり)の茶事の「寄せ向(よせむこう)」。6種の付出しを用意し、一人ずつ違う料理を提供するという幕開けから意表を突くコースは、今月もまたアバンギャルドな展開を見せます。


奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。東京すし和食調理専門学校・教育顧問。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。

聞き書き:瀬川 慧 / 撮影:大山裕平

寄せ向——1杯目のお酒に合わせて6種の中から私が料理を選びます

gin0010a手前/[料理]甘鯛炭火焼 炙りくちこ 揚げ銀杏 [うつわ]鉄絵変形鉢 西岡 悠作
二列目左/[料理]渡り蟹 車海老 若布酢ゼリー [うつわ]信楽割山椒 山口真人作
二列目右/[料理]きんき皮霜 白髪葱 芽葱 菊花 ぽん酢ゼリー [うつわ]紅志野向付 山口真人作
三列目中/[料理]無花果 マスカット 柿 車海老白和え [うつわ]信楽高台 古谷和也作
奥左/[料理]〆鯖 車海老 子持ち昆布 金目鯛昆布〆 木ノ子イクラおろし和え [うつわ]三島高杯 鈴木大弓作
奥右/[料理]真名鰹(マナガツオ) 松茸フライ 甘酢あんかけ 揚げ銀杏 [うつわ]信楽キューブ 鈴木大弓作

茶の湯において10月は一年の終わり、名残の月と呼ばれています。翌11月は風炉を片付け、炉開きを行なう大切な節目。八十八夜に摘んだ新茶を壷に入れて封をし、半年の熟成を待って封を切り、新たな年を迎えます。

ですから、11月は“茶人の正月”。対して10月は“年の暮れ”となります。半年お世話になった風炉を惜しむように、侘びた風情の道具を用いてお茶事をします。

寄せ向は、一人一人異なる器を使って料理を盛る、侘び寂びの趣向です。金継ぎを施した器を使っていいのも、この月だけ。利休さんが考えたこの寄せ向をいつかやってみたいと思っていました。

ただ、そのまま取り入れただけでは面白くありませんから、盛り込む料理も全て変えようと。そこで今月は、付出しを6種ご用意し、私が「このお人にはこの料理」と選んで供します。お隣と料理が違うことに、お客様はさぞ驚かれることでしょうね。

どの料理を供するかは、1杯目のお酒に合わせて判断しようと思っています。
例えば、ビールを飲むお客様には、「真名鰹と松茸フライ」。「渡り蟹 車海老 若布酢ゼリー」や「フルーツと車海老の白和え」には、シャンパンがよく合います。日本酒党ならば、「甘鯛炭火焼」か「イクラおろし和え」。料理も器もグレードを揃えて用意します。

「選ばせてくれないの?」という声もあるかとは思いますが、茶の湯というのは、亭主の心尽くしを楽しむもの。ですから、こういう遊び心があってもいいのでは、と思います。工夫と、愛情と、情熱があれば、お客さまはきっと分かってくれることでしょう。

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