【レシピ付き】“夏のご馳走”極まるお盆月 ――鮑(アワビ)素麺&天然鰻蒲焼き
8月はお盆月。『銀座 小十』の料理は、蓮の葉に鱧の湯引きと夏野菜を盛り込んだ付き出しから始まります。また、盆飾りの精霊馬(しょうりょうま)といえば、キュウリ。そこで、お造りは加賀太きゅうりをくり抜いて舟にし、刺身を盛り込みます。昔ながらのこの仕立てを、あえて店主の奥田 透さんが取り入れるのは「廃れつつある仕事だから」こそ。そこに新風を吹き込み、今の時代に伝えたいと語ります。加えて、8月は涼の演出と共に、精をつけてもらうことも大事なこと。今回は、『銀座 小十』永遠の四番バッター・天然大鰻の奥田流蒲焼きについて、じっくりとお話を聞きました。
奥田 透(おくだ とおる):1969年、静岡県静岡市生まれ。静岡、京都、徳島で約10年間、日本料理を学ぶ。29歳で地元・静岡に『春夏秋冬 花見小路』を開店。2003年に東京・銀座に移り『銀座 小十』をオープン。2011年、銀座五丁目並木通りに『銀座 奥田』をプロデュース。12年6月同ビルに『銀座 小十』を移転する。13年にフランス・パリ、17年にはニューヨークに『OKUDA』を開店。本物の日本料理を海外で提供するという挑戦を始める。東京すし和食調理専門学校・教育顧問。近刊に、『日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(ポプラ社)、『献立にみる日本の節供と守破離のこころ 銀座小十の料理歳時記十二カ月』(誠文堂新光社)ほか。
鮑素麺——アワビのすり流しと冷たい素麺を組み合わせた、夏のスペシャリテです
[料理] 鮑素麺
[うつわ] ガラス鉢 錫蓋物
8月のお盆月には、蓮の葉を器に見立てた付き出しから始めます。蓮は極楽浄土に咲く神聖な花で、最上の仏花です。そのことを知らずに、最近は「葉っぱがきれいだから」と時季を考えずに使う人もいますが、それは単なるファッションでしかありません。日本料理の季節感は、こうした本来の意味をきちんと捉えて表現すべきだと私は思います。
この時季に蓮の葉を器として使うようになったのは昔のことだと思いますが、今でも品格があり、新しさを感じます。やはり1年に一度、お盆月に蓮の葉に料理を盛るのは、日本料理にとって深い意味合いを持つものではないでしょうか。
ここに、今年は鱧の湯引きと夏野菜を盛り込みます。鱧の湯引きというのは、何らかの液体と共に味わってこそ真価を発揮すると私は思うんです。今回は、水ナス、オカワカメ、蓮芋、茗荷と和えて、蓴菜(ジュンサイ)を添え、だしでのばした煎り酒を合わせました。夏はひんやりした冷たいだしを啜ると心地よいでしょう。
その後、毛ガニとトウモロコシの冷たい茶碗蒸しをお出しして、3品目には「鮑素麺」。真夏日が続く8月の付き出しは、冷菜が並びます。
春の「春菜づくし」や、秋の「魳(カマス)松茸巻き焼き」と並んで、夏の鮑素麺は常連のお客さまが心待ちにする一品です。極細の三輪素麺に素麺つゆを合わせ、その上からアワビのすり流しを注ぎ入れ、さらに蒸しアワビを盛り、肝だれをかけてお出しします。
すり流しは、アワビをすり下ろして吸い地と合わせたもの。昔はすり鉢で合わせていましたが、フードプロセッサーを使うと空気を抱き込んで、軽くふわっと仕上がります。この方が素麺を持ち上げた時、すり流しがふんわり絡んで美味しいんです。アワビはすって食べても強さと深みがあり、一年で一番暑い時期には清涼感があっていいものです。
アワビのすり流しは北大路魯山人(きたおうじろさんじん)が考案したものだと思いますが、素麺と合わせたのは私のオリジナル。コツは素麺につゆを合わせてから、アワビのすり流しを加えること。そのバランスが大事なんです。実は、すり流しだけで素麺を食べるとそれほど美味しくありません。カツオの風味や醤油の旨みが合わさることで絶妙なバランスが生まれます。素麺つゆが勝ちすぎてもいけない。ちょうどいい味加減は、何年も作り続けて確立したものです。
蒸しアワビ、肝だれを重ねて、ご馳走感をぐっと高めた夏のスペシャリテです。
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