「瓢亭」野菜料理のデザイン

【レシピ付き】『瓢亭』流、おせち料理 前編

今回は特別企画。京都きっての名料亭『瓢亭』の当代・髙橋義弘さんに、おせちの心得と料理について伺います。おせちには、日々の料理とは異なる仕事が数多くあります。日持ちさせる調理の工夫、祝いの心をいかに込めるか、華やかに見せる詰め方など。解説と共に、料理3品のレシピも公開していただきます。前編である今回は「鶴小芋」、12/6に公開する後編では、「松笠慈姑(クワイ)」「キンカン蜜煮」について。時間を経ても美しい姿や美味しさを、いかにデザインしているのか。2日に渡ってお伝えします。


髙橋義弘:創業450年を超える老舗料亭『瓢亭』の15代目当主。1974年、14代目髙橋英一氏の長男として京都に生まれる。東京の大学を卒業後、金沢の日本料理店『つる幸』で修業を積み、1999年帰洛。海外のシェフたちとのコラボレーションなど国内外を問わず、京都の懐石料理を伝える活動に尽力。2015年、15代目に就任し、2018年に東京店を出店。老舗の味を守りながら、時代に即した現代的な日本料理にも取り組み、新しい美味しさの提案を続けている。

文:西村晶子 / 撮影:蛭子 真(おせち)、内藤貞保

『瓢亭』の、新年を祝うおせち料理

昔は、おせちはご家庭で作る方がほとんどでしたが、最近は料理屋や百貨店で買うのが当たり前になりつつあります。料理屋さんごとに様々な工夫があり、いろんなお重、いろんな献立で仕立てられています。おせち料理は新しい年を迎えるにあたり、子孫繁栄、無病息災を願い、料理屋らしい丹精込めた仕事を大事にしないと、と思います。

日本のお節料理はそうした願いを大切にし、三が日をお祝いできる祝い肴を中心として、隙間なく丁寧に盛り込みます。しかしながら、最近はお節料理の意味合いも変わってきており、日持ちのしない生ものが入っていたり、お節らしくない料理が入っていたりすることもしばしばあります。美味しさに重点を置き、新年を祝う料理というよりも、お正月用のご馳走の詰合せが増えてきているかもしれません。

『瓢亭』のおせちは、長く続けているうちに献立は定番になってきました。百貨店用に発送するものと31日に店で直接お渡しするものがあります。発送用は30日の夕方頃までに仕上げ、手渡しのものはギリギリ31日の昼頃まで時間をかけて作ります。

使う食材や一部内容も異なり、発送分はより日持ちを考え、詰め方にも注意を払い、杉折のお重に詰めます。手渡し分はお客様のお重をお預かりして詰めることもあり、三段もあれば五段もあり、大きさ、形もいろいろです。お重が大きいと小鯛の焼いたものや伊勢海老、ご飯ものを入れたりし、上手いこと詰めるには経験を積んでないとできないので、慣れた者が一人で一つのお重を詰めるようにしています。

料理は数の子、黒豆、田作りの祝い肴三種や口取り、海や山の幸などを盛り込むのが一般的ですが、『瓢亭』では幽庵焼きやカラスミ粉焼き、このわた焼きなど、焼き物が多いのが特徴です。家庭でもよく作られるたたきゴボウや田作りのような料理は入れません。数の子は、だし浸けではなく2カ月近くかけて粕漬けにしており、料理屋ならではのおせち料理を心がけています。

大量調理なので、11月に入ったら漬け込みするように時間のかかるものから少しずつ仕込み始め、長いスパンで計画を立て、途中、食材の入荷状況を見ながら献立の手順や内容を調整していきます。

hyo8841_8921b『瓢亭』のおせちはラインナップがほぼ決まっており、お重の段数や価格によって詰める料理を変える。
魴(マナガツオ)味噌幽庵焼き/鯛塩糀焼/ぐじうるか焼/車海老カラスミ粉焼/伊勢海老このわた焼/鶉(ウズラ)味噌漬/うなぎ八幡巻/鴨ロース/ホタテ松風/ウニ松風/鴨松風/平目求肥巻/穴子棒すし/車海老菊花すし/サーモン砧巻/菊かぶら/汐子(シオコ)粕漬/カラスミ/ぶどう豆/キンカン蜜煮/串さし生貝・チシャトウ味噌漬/竹の子/松笠慈姑/穴子鳴門巻/車海老つや煮/寄せ子/助子湯葉巻/鶴小芋/揚小巻湯葉/炊きもろこ/梅人参/梅長芋/絵馬慈姑/絹さや 等々

日持ちがする、野菜料理の味の入れ方

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