和食のいろは

秋(9~11月)の和食に彩りを添える飾り葉・かいしき

料理に季節感や彩りを添える植物「かいしき」。実りの秋(9~11月)には、実に色彩豊かなものが出揃います。代表的なカエデ(モミジ)や柿の葉、イチョウなどは、色の移り変わりやグラデーションも楽しめ、皿の上も華やかに。特徴や使い方を「辻󠄀調理師専門学校」日本料理主任教授を務めた畑 耕一郎先生に解説していただきました。


畑 耕一郎(はた こういちろう):大阪生まれ。「辻󠄀調理師専門学校」理事・技術顧問。「大阪料理会」会長。TBS「料理天国」やABC「上沼恵美子のおしゃべりクッキング」など多くのTV番組に出演。『プロのためのわかりやすい日本料理』(柴田書店)など著書も多数。

文:阪口 香 / 撮影:下村亮人 

目次


秋のかいしきの特徴とは?

9~11月は農作物の収獲に感謝したり、翌年の豊作を願う時季。秋の実りを大切にする国民性もあって、料理店では多彩なかいしきで皿の上を演出します。

代表的なものがカエデ(モミジ)とイチョウの葉。形がユニークで、使いやすい大きさ、移りゆく色味も美しく重宝されます。また、柿の葉も1枚で多彩な色合いが楽しめ、存在感がありますね。
秋の七草なら萩やススキ。萩は小枝を編みあわせて小ぶりの簾(すだれ)状にした「萩垣」がよく用いられます。造りや八寸、焼き物などを器代わりに盛り付けて風情を楽しむことも。枝だけで作られているので、大切に扱えば繰り返して使えます。

秋のかいしきの注意点

他の季節にも共通することですが、香りが強いものは料理の邪魔になることがあるので多用しないようにしましょう。
また、栗のイガを使う場合は、刺さってケガをしないよう、先端をカットしておく方がいいです。栗の葉も周囲が尖ってますので、形を変えない程度に切り揃えておくといいですね。

秋によく使われるかいしき

この時季に紅葉する葉や、節句に伴って使われる菊など、代表的なものを紹介します。

カエデ(モミジ)

カエデ

5月頃から新芽が出て、8月頃に濃緑となり、晩秋にかけて紅葉するカエデ。
黄や橙(だいだい)、赤など、小さくても主張する色や形は1枚で象徴的に使っても、数枚散らしても絵になり、秋の風情を表現できます。

前菜、八寸、焼き物などに添えてもいいのですが、中でもおすすめは夏を過ごし、秋の訪れと共に美味しくなることから紅葉鯛(もみじだい)と呼ばれる真鯛の料理。造りや焼き物の彩りとしては最適でしょう。

余談ですが、カエデは葉の形がカエルの手に似ているため「カヘルデ」、そこからカエデと呼ばれるようになったと伝わります。モミジとも言われますが、どちらもムクロジ科カエデ属の植物。葉の切れ込みが浅いものをカエデ(ハウチワカエデやトウカエデなど)、深いものをモミジ(イロハモミジやオオモミジなど)と言ったり、秋に草木が色変わりすることを表す「もみず(紅葉づ/黄葉づ)」が名詞化し、特に目立って色変わりする葉をモミジと呼んだという説もあります。

イチョウ

イチョウ

末広がりな形は縁起が良く、日本人好み。
盛夏から晩夏にかけては緑色、それから徐々にグラデーションを見せるイチョウは、季節の移ろいを感じさせます。また、落葉樹の中でも葉を散らすのが遅いため、黄色い葉は晩秋の訪れを表現することができます。

カエデと同じく、程良い大きさのため、どんな料理にも合わせやすいです。もちろん、銀杏(ギンナン)の料理に添えるのもいいですね。

ちなみに、中国語のアヒルの足を意味する「鴨脚(ヤーチャオ)」から日本ではイチョウと呼ばれるようになったと言われています。確かに、ペタペタと歩く可愛らしい姿を想起させます。

柿の葉

柿の葉

採れる場所や木によって紅葉具合に特徴が出る柿の葉。全面真っ赤やまだら模様、縦半分だけ紅葉するなど、実に表情豊かです。

カエデやイチョウよりも大きく、葉がしっかりしているので、料理を直に盛り付けたりするのにも向いています。
器に敷き詰めた掻き氷に置き、造りをのせると粋な演出になりますね。
とは言え、複数枚使うのは野暮ったいので、1枚に留めて。八寸皿にのせたり、寿司を盛る際に使うと良いでしょう。

ちなみに古くは、詩を書き付け、流れる川面に浮かべて楽しんだとも伝わります。

栗の葉

栗の葉

葉脈の先がトゲのように鋭く、葉全体が反っているものが多いため、かいしきとしては少々使いにくい栗の葉。虫食いしているものも多いため、注意が必要です。

とはいえ、秋の実りを感じさせるイガ栗を器にした料理や、素麺を使ったイガ栗見立てには欠かせないかいしき。枝の先端近くの小さい葉が扱いやすいので、選べる場合はぜひ気にしてみてください。

菊の花・葉

菊の花と葉

旧暦9月9日は重陽の節句。古代中国では奇数は吉数と考えられており、最も大きい数「9」が重なるこの日は特におめでたいとされました。菊の着綿(きせわた)や菊酒など、菊を使った遊宴や故事があったことから、別名「菊の節句」と呼ばれます。

平安時代初期に日本に伝わると、貴族を中心に季節の移ろいを知らせる節句として広まりました。旧暦9月は菊の花が美しく咲き、見頃を迎える時季。菊は邪気を払う力をもつ霊草と信じられていたこともあり、重陽の節句には菊花を観賞したり、菊花を浮かべた酒を飲んで、無病息災や不老長寿を願ったとされます。このことから、菊の花や葉を秋の演出全般に用いるようになりました。

菊の葉は常緑で、紅葉しない葉の代表的な存在。薄くひいた造りを菊の花に見立てて盛り付ける菊花(きっか)造りに添えるといいですね。

愛知県などの温暖な地域で栽培される小菊の花は、造りなどの彩りとしても用います。花びらを摘んで茹でたものは、造りのあしらいだけでなく、浸し物、酢の物の食材としても最適ですが、食用菊でも多少、苦みがあるので大量に使わない方がいいでしょう。

食用菊の代表的なブランドとして、山形の「もってのほか」があります。独特な風味と味の良さ、美しさから「食用菊の王様」と呼ばれています。色は淡い紫色。花びらに厚みがあるため、シャキシャキとした食感が楽しめます。

ススキ

ススキ

秋の七草の一つで、花開いた穂が動物の尾に似ていることから別名「尾花(おばな)」といいます。とはいえ、料理のかいしきとして使う際は、穂が落ちないよう、花が開いていない若いものが望ましいですね。葉に縞(しま)模様が入った縞ススキや、葉に虎斑(とらぶ)模様の入った鷹羽(たかのは)ススキなど、いくつか種類があります。

萩と共に十五夜の供花の代表で、十日夜(とおかんや)や十三夜など、月を愛でる時、豊作感謝に欠かせない存在です。また、葉が鋭く刀のようなので、魔除けになるとも考えられています。

料理のかいしきとしては、膳に盛った料理の上に月が描かれた和紙をのせ、その上に水引をかけたススキを一穂添えると風情があっていいでしょう。

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