×高仲健一vol.1 古典的な佇まいの中に弾けるユーモア
2023年、開店20周年を迎える東京の日本料理店『神楽坂 石かわ』。店主の石川秀樹さんは、うつわ好きとして知られ、現代作家の作品が彩るコース料理は独自の世界観を築いています。そんな石川さんが心惹かれた作家を毎月一人ずつご紹介し、自身の料理を通して、その魅力を語る連載が始まります。第1回目は、開店準備前から、よき伴走者として互いに成長を続けてきた稀代のクリエイター・高仲健一さんのうつわ。初期から近年の作品に料理を盛り込んでいただきました。高仲さんの作風の変化は、石川さんの料理にも知らず知らずのうちに影響を与えてきたようです。
「龍の掛け軸」からお付き合いが始まった
そもそもうつわ好きでもあるのですが、日本料理を志す者として、うつわの勉強は当然のことと思ってきました。独立準備をしていた20年前、西麻布の『桃居』に立ち寄ったところ、高仲健一さんの個展をやっていて。いいなぁと思ったのですが、当時の僕にはとても手が出なかった。その翌年、独立したての頃に再び『桃居』に伺うと、偶然にも高仲さんの個展の初日で、ご本人がいらしてたんです。
高仲さんはうつわのみならず、書画にも秀でた方で、前年に見た竜虎の掛け軸に心惹かれていました。私の会社名が「一龍三虎堂」なので、龍と虎でご縁を感じたんです。すると、『桃居』のご主人の広瀬一郎さんが、龍の掛け軸を出してきてくださって。虎は前年に売れていたのですが、龍は僕を待っていてくれたようで、即、購入を決めました。以来、現在までお付き合いが続いています。
うつわだけでなく、店のいたるところに高仲さんの作品が佇む。
独立したての頃は、無名の料理人が普通のことをやっても通用しないと思っていました。お客さんに来ていただくためには、他で食べられない、うち独自の料理を出さなくてはと徹底的に考えました。
うつわも同様で、他の店にはないものを、と探していました。どこかで見たことのあるうつわで料理を出されたら、せっかく店で過ごしている非日常の時間から日常に引き戻されてしまう。今の店は、BGMも自然界の音や厨房の音を組み合わせたオリジナルを作ってもらって流しているのですが、それも非日常感を演出するため。うつわは自分で作れない分、できるだけ雑念を払って、見た瞬間に「コレだ」と思ったものを直感で選ぶようにしています。
盛るたびに懐の深さを感じる、李朝スタイルのうつわ
これは高仲さんの20年前のうつわです。この高台から腰にかけてのラインが美しいでしょう。高台もとっても小さい。高仲さんのうつわは他にないフォルムで、品格があります。
僕がうつわで一番大事にしているのもフォルムです。料理が映え、無造作に盛っても収まってくれる。この「象嵌(ぞうがん)花紋皿」も何でも受け止めてくれるオールマイティさがあります。文様は、象嵌(※)で描かれたもの。渋い雰囲気だけど、華やかさもある。大好きなうつわです。
※象嵌:素地の表面を掘り、異なる色の土をはめ込んで模様とする手法
舞茸、やなぎ松茸、平茸、芹をさっと炒めて、八方だしを加えて一瞬煮詰めて作った温かいお浸し。「少し深みがあるうつわなので、煮汁をたっぷり含ませた状態で盛ることができます」。
この頃の高台は小さい。高仲さん曰く、「自分なりの皿の形で、茶碗が平たくなったようなイメージです」。
高仲さんは独学で陶芸を始められた方で、中国や韓国の書物などをひたすら勉強されているんです。絵も描き、書もしたためる方なので、土をこねるところでもその教養やセンスが自然ににじみ出てくるのだと思います。なかでも李朝(※)の作風は、高仲さんの初期の作品に色濃く表れていて、盛るだけで料理の価値が上がる感じがします。
※李朝:約500年続いた李氏朝鮮の時代のうつわを指す。戦国武将、利休らが好んで用いた。名もなき職人たちの手になるうつわは、厚手でひずみがあり、素朴な作風が特徴。侘び寂びを好む日本人に今も愛され続けている。
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