「料理人と食べ手の関係を考える」-フードコラムニスト・門上武司氏-
「昔は料理人が食べ手を、食べ手が料理人を育てたもんや」といったことを耳にしたことはないでしょうか。食べ手それぞれに贔屓の店があり、長く通うからこそ店主と関係性を築けていたという背景もあるでしょう。現代は食べ手の状況もさまざまで、食を楽しむ目的も多様化しました。これからの時代、「料理人と食べ手の関係」はどうあるべきか、いい食べ手とは何か。フードコラムニストの門上武司さんに伺いました。
門上武司さん:1952年大阪生まれ。株式会社ジオード代表取締役。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。一般社団法人「全日本・食学会」副理事長、「関西食文化研究会」コアメンバー。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)、2023年に発行した『別冊 あまから手帖 食べる仕事 門上武司』などがある。
代々通い、繋がりを育んだ「かつて」
幼少の頃から食いしん坊だった僕の割烹デビューは、京都の高校へ通っていた50年前以上前。学校帰りに友人宅へ遊びに行くと、そこのお父さんが木屋町の『河久(かわひさ)』へ時々連れて行ってくれました。その家では代々贔屓にしていた店なんですね。
ちなみに当時の『河久』はカウンター10席くらいで厨房が広く、従業員が料理をおかもちに入れて店前に何十台と停めている自転車に飛び乗って颯爽と方々へ散って行く、仕出し中心の店。
店内で提供する料理は単品だけで、壁に貼られたメニューに「うずらの焼き物」があると、常連さんが「それ、ご飯にのせてちょうだい」なんて言って「そんな注文ができるんや」「かっこいい世界やなぁ」と憧れたものです。
一方、別の友人はお父さんの代から祇園の『杢兵衛(もくべえ)』へ行っていたそう。このように、それぞれに贔屓の店があって、その家族が通ったり、紹介したお客が通ったり……と、脈々と続く。料理を食べに行っているけれど、そこには単に「食べる」だけではない、料理人と食べ手の相性や繋がりが色濃く現れていました。
繋がりが生まれると、使い方も十人十色。ある古美術商の方は、以前、祇園にあった『浜作』で「造りとアラ炊きとご飯ちょうだい」なんて、食堂使いをしていたそう。若い僕は驚いて、現『菊乃井』主人の村田吉弘さんがまだ『菊乃井 露庵』に立たれていた1990年頃、「高級店でも、そうした使い方はアリなのですか?」と尋ねると、「(街の定食屋さんよりも)高こぅつきますけど、できますよ」とおっしゃっていましたね。
これらを僕はまるで「ビスポーク」みたいだと思ったのです。ビスポークとは、「Be-Spoken(=会話する)」に由来する服や靴のオーダーメイドのこと。ある程度の知識を備えたお客が好みを交えて注文し、職人は要望に応えながらもより良くなるよう提案。何度も会話するうちにお客好みの逸品に仕立ててもらえるというものです。
料理人と食べ手も同じで、店に長く通うことで「この人はちょっと濃い味が好きやな」とか「こうしたらこの人は喜ぶな」なんて好みを分かってもらえることが多かったのだと思います。
月額990円(税込)で限定記事が読み放題。
今なら初回30日間無料。
フォローして最新情報をチェック!
会員限定記事が
読み放題
月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です
この連載の他の記事ニュース&トピックス
月額990円(税込)初回30日間無料。
※決済情報のご登録が必要です