「おいしい」とは何か Vol.2 嗜好性が変化する理由を探る
今回は、甲子園大学・釜阪 寛(ひろし)先生が生徒たちと行った「嗜好性」にまつわる調査研究をお伝えいただきます。テーマは「チョコレート」ですが、さまざまなアプローチから、現代の日本人の嗜好性、また、喫食経験を積むことでどのような変化が起こるのかを考察します。
釜阪 寛さん:1964年生まれ。神戸大学農学部卒業後、1989年江崎グリコ株式会社入社。菓子開発研究室の焼き菓子チームに3年在籍した後、生物科学研究所で食品の新しい素材・技術開発を行う。健康科学研究所に名称変更した後、カルシウム、主に「お口の健康」の研究に携わる。2022年4月より甲子園大学 栄養学部 食創造学科教授に。同大学の学長である伏木 亨氏と共に食品の嗜好性の研究を行う。農学博士。
「おいしさ」を捉える実験
前回の「概要編」では、人が短時間で「おいしい」と判断するには「生理的」「文化的」「情報」「やみつき」の4つの要素が関係していること、そして、直観的なおいしさの評価値(VAS法※1を用いた評価値)と15の質問を用いて重回帰分析※2を行なえば、人がどの要素に影響を受けて「おいしい」と感じているのかが分かる、ということをご紹介しました。これらは甲子園大学の学長・伏木 亨先生が提唱しているものです。
今回は、この考え方に則り、私が甲子園大学の学生と共に取り組んだ「ハイカカオチョコレートの嗜好性に対する調査研究」をお伝えします。この研究はミルクチョコレート、ハイカカオチョコレート※3それぞれ2種のおいしさが「文化的」「情報」「やみつき」※4のうち、どの要素に基づくのかを明らかにすると共に、喫食経験や、経験を積むことで「おいしい」という感情はどのように変化するのかを調査したものです ※5。
※1:相対化・数値化しにくい感覚などを測る方法。被験者に、10㎝の横線の左端(0)から右端(100)の間で「おいしさはどれくらいか」を表すところに縦線を引いてもらい、左端から何㎜の部分かを測定、点数を出すことができる。
※2:複数の要因(説明変数)が結果(目的変数)に与える影響を分析する統計手法。
※3:カカオ含有量を70%以上まで増やし、カカオ以外の成分、砂糖や乳脂肪などを極力抑えた健康志向のチョコレート
※4:「生理的なおいしさ」は人の状態(満腹、大量に水を飲んだ後、運動後の汗をかいた後、飢餓状態など)によって大きな差が出てしまうので条件の中から外す。
※5:第77回日本栄養・食糧学会大会プログラム集P66, 2023/第100回農芸化学会大会プログラム集P308,2024
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