おいしさの科学

「おいしい」とは何か Vol.1概要編

「おいしい」は、「味がよい」という意味の女房詞(にょうぼうことば)※「いしい」の語頭に「お」を付けたことば。『広辞苑』には「美味である」「好ましい。もうけになる。都合がよい」と書かれています。誰もが持つ感情ではありますが、同じものを別の人が食べたら「おいしくない」と感じることもありますし、程度に差が出ることも。それはなぜなのか? 今回は、捉えづらい「おいしさ」を科学します。
※女房詞:室町時代頃から、宮中に仕える女房が隠語的に使ったことば


釜阪 寛(ひろし)さん:1964年生まれ。神戸大学農学部卒業後、1989年江崎グリコ株式会社入社。菓子開発研究室の焼き菓子チームに3年在籍した後、生物科学研究所で食品の新しい素材・技術開発を行う。健康科学研究所に名称変更した後、カルシウム、主に「お口の健康」の研究に携わる。2022年4月より甲子園大学 栄養学部 食創造学科教授に。同大学の学長である伏木 亨氏と共に食品の嗜好性の研究を行う。農学博士。

聞き書き:阪口 香 

目次


「おいしい」に関する研究

生きていく上で食べることは必須であり、「おいしい」という感情は身近にあります。科学者にとっても興味深い研究対象であり、おいしさを捉える感覚器官の研究はこれまでも進められてきました。
1870年代に視覚の光吸収性の存在が発見されて以降は、1991年に嗅覚受容体の遺伝子配列の発見(発見者は2004年にノーベル賞を受賞)、味覚受容体が発見されたのは2000年と、人類が誕生した歴史を考えると、近年分かってきたことが多いのです。

また、おいしさの研究に長年携わってきた甲子園大学・学長の伏木 亨先生は「『おいしさ』を追求しようと思ったら食べものを研究するのではなく、それを食べて人間がどう思うかを研究しないと始まらない」(「味覚と嗜好のサイエンス」伏木 亨著『丸善』)とし、実験心理学者のチャールズ・スペンス氏は著書「おいしさの錯覚」(『KADOKAWA』)の中で「食の喜びは、心で感じる、口ではない。この考えを突き詰めると、なぜ料理が——たとえそれがどれだけ完璧なものであっても——必ずしも心に残らないのか説明がつく。何が食事を楽しく、刺激的で、そして記憶に残るものにするかを知るには、“そのほかの要素”の役割を理解しなければならない」と著しています。

つまり、「おいしさ」は食べ物自体だけでなく、人間が感じる五味五感、さらに他の要素も多分に含まれているということ。同じものを食べるとしても、嗜好や経験、体調など、同条件下で味わうことができないため、「『おいしさ』に科学的な定義はない」とされています。

▼「おいしい」とは何か Vol.2「嗜好性が変化する理由を探る」の記事はコチラ

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