大阪料理会

【レシピ付き】鯨サエズリと大徳寺納豆麩——『慶喜』石橋慶喜さん作

大阪では鯨(クジラ)の舌をサエズリと呼び、昔から好んで食してきました。濃厚なだしが取れる部位ですが、独特のクセがある脂身なので、下処理が大変。そのため、多くの店が乾燥サエズリを仕入れています。ところが、北新地『慶喜(よしのぶ)』の石橋慶喜(けいき)さんは、なんと乾燥サエズリを自家製し、約3日かけて含め煮に。さらに大徳寺納豆麩まで手作りして、凝りに凝った一品を披露しました。「どうやって作るのか?」を知るため、一度は作ってみるという石橋さんの気概に、全会員が感服。その貴重なレシピをお届けします。

※大阪料理会 公式サイトhttps://osakaryourikai.com/

聞き書き:中本由美子 / 撮影:福本 旭
石橋慶喜さん(大阪・北新地|『慶喜』店主)

1962年、北海道・函館生まれ。20代後半から北新地で修業を始め、2002年に独立。「作れるものは手作りすべし」という師匠の教えを守り、クジラベーコンや利休麩も自家製。アンコールペッパーやオリーブ油の玉「オロバイレン」などを取り入れる進取の気性にも富む。大阪料理会では、驚くほど手間をかけた料理を発表することも多々。常に会員の興味をそそる存在だ。

サエズリは約3日かけて脂とクセを抜き、大徳寺納豆麩も手作りしました

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30年以上前のことですが、かつて北新地にあった『㐂川(きがわ) 有尾』という割烹で「サエズリと青菜」という一品を食べて衝撃を受けました。なんて美味しい料理なのだろうと感動して、どうやって作るのか、すごく興味を持ったんです。

『㐂川』出身の方の割烹で今でもお出ししているロングセラーですが、僕も挑戦してみたくて。市場でいいサエズリが売っているとつい買ってしまい、生の状態から自己流で調理しています。

サエズリは最初の下処理が大変なんですね。臭みが強烈なので、まずは何度か茹でこぼして、皮目をしっかり掃除します。その後、揚げ鍋に入れ、オーブンを140~145℃に設定し、低温でじっくり10時間くらいかけて加熱します。サエズリはほぼ脂身なので、加熱すると脂がたくさん出てきます。その脂で身が揚げ焼きされて、脂も臭みもかなり抜けていきます。

この時、たっぷりの鯨油が取れます。これが、なかなか優れもので。料理のコクだしにポトッと入れるといいんです! 今回は、大阪しろ菜をお浸しにする際、八方地に数滴加えました。ぐっと味が深くなりますよ。

この状態に下処理したものは「乾燥サエズリ」として市販されています。これを水で数日かけて戻し、さらに糠で炊いて臭みを徹底的に抜くのですが、今回は「乾燥サエズリ」を自家製したので、戻すのは熱湯に浸けて1日。糠炊きもしていません。

茹でては水にさらす、というのを3回ほど5時間かけてやり、やっと舌の皮がむける状態になります。舌の皮って、表面がザラザラしていて硬いでしょう。歯触りが悪いので、むいてから使うのですが、ここまで手間をかけたので捨てるのがもったいなくて(笑)。今回は皮も一緒に含め煮にしてみました。

大徳寺麩も自分で作ってみたくて、何度か挑戦したことがあります。でも、あの気泡がうまくできなくて…。スポンジのような独特の断面にはならなかったんです。そこで今回は再度トライしてみました。

本来、大徳寺麩は生麩に醤油やみりんで味を付けているのですが、大徳寺といえば納豆でしょう(笑)。そこで、大徳寺納豆を酒で蒸してペーストにし、グルテン粉・白玉粉・水の生地に加えています。

この生地を揚げては煮る、というのを3回ほど繰り返したのは、スが入ってスポンジみたいになるかな?と思ったからです。結局、気泡はできなかったので、3回繰り返さなくてもいいかもしれません。

軽やかな食感の大徳寺麩にはなりませんでしたが、むちっと弾力があり、豆豉(トウチ)のようなコクが生まれました。もはや別物ですが、これはこれで美味しいと思います。

osa0025-2c「大徳寺麩は自家製ならではの味と食感ですごく美味しい」「糠も使わず、こんなにきれいなサエズリの含め煮ができるとは驚きです」というコメントが多く寄せられた。「気泡の入った大徳寺麩の作り方を知っていたら教えてほしい」と言う石橋さんに、畑 耕一郎会長が「グルテン粉の種類が違うと思う」とアドバイス。実は石橋さんはグルテンから自家製したそうで、市販のグルテン粉を使ったものとの食べ比べも提案(画像右)。自家製グルテンの方が会員には好評だった。

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