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【レシピ付き】柔らかくなる「ジビエ」の調理 Vol.1煮物編

大阪・高槻の山中にある古民家で、自然と共存しながら日本料理を創造する『心根(こころね)』店主・片山 城(きずく)さん。とりわけジビエについては、「猟師さんから直接いただきます。ほとんどが鍋物か炭焼きにします」。なぜなら、柔らかく仕上げる「煮込み」に苦戦しているのだそう。「例えばアナグマなら、赤味噌で煮込むこともありますが、硬くなったりパサついたり…。もっとホロホロっと崩れるようなジビエの煮込みを学びたいのです」と、大阪・谷町四丁目のイタリア料理『ア・カント』の扉を叩きました。
店主の村田 卓さんは、フィレンツェをはじめ現地で10年経験を積んだ料理人。イタリアの食文化に根っこを張った村田シェフらしい、ジビエへのアプローチには、片山さんにとって多くのヒントが隠されていました。その様子を2回に分けてお伝えします。

文:船井香緒里 / 撮影:太田恭史
村田 卓さん(『ア・カント』オーナーシェフ)

1970年三重県四日市市生まれ。三宮のトラットリアでの修業後、銀座『エノテカ ピンキオーリ 東京店(閉店)』を経てイタリアへ渡る。フィレンツェ、マルケ、ピエモンテ、カンパーニャ州にある4軒のレストランで計10年経験を積む。うち最後の3年間は、『エノテカ ピンキオーリ 本店』パスタ部門のシェフとして活躍。2006年に帰国した後は、大阪の名イタリアン『ピアノピアーノ』の支店でシェフを務める。18年、谷町四丁目にて独立。

片山 城さん(『心根』店主)

1975年大阪府交野市出身。大学卒業後、法律関係の職に就くが夢を諦めきれず料理の世界へ。大阪・心斎橋『魚匠 銀平』などで約10年の修業を積み2009年、枚方市にて日本料理店『心根』を開店。その後も、京都や大阪などの名店のシェフの指導を受けて進化を重ね、郊外住宅街の端という立地にも関わらず、予約の取りにくい店に。18年12月、高槻から車で約30分の山中に移転。古民家を改装した空間で、山の恵みを生かした日本料理を提供する。

片山 城(以下:片山)
僕が料理屋を営んでいる地域は、大阪の中でも山奥。ですから野草、野菜、淡水魚、ジビエなど地物に特化した料理づくりを心がけています。
ジビエに関しては、猟師さんから直接仕入れさせてもらっています。鹿、猪、熊は一頭買い、さらにアナグマ、鴨、カルガモ、キジなんかも。
村田 卓(以下:村田)
イタリア各州の山間の村と似ていて、僕にとってはうらやましい環境ですよ。
ジビエはどのように調理されることが多いですか?
片山:
和食でジビエを扱う場合は、やはり鍋や焼き物が定番です。炭床がありますので、鹿ロース肉をスチームコンベクションで低温調理した後、炭の香りを纏わせることも。一方で、煮込み料理にもチャレンジするのですが、これが苦戦していまして。アナグマや鹿などの脂身の少ない部位は、煮込むとパサつきや硬さが余計に目立つのです。理想はタンシチューのような、しっとりしつつ、ホロホロと崩れる質感。圧力鍋を使わなくても、そんな煮込みができないものかと。
村田:
それでは、私がピエモンテの修業先で教わった、煮込みのテクニックお教えしましょう。今日は「仔猪(どんこ)」を用います。ジビエを日々扱われている片山さんには説明するまでもないですが、生後約1年未満の猪です。生体重量は約9kg。なかでも、脂が少なく、煮ても焼いても硬い肩甲骨から前スネにかけての「前足肉」を1本用います。

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片山:
綺麗ですね。赤身なのに、鶏肉のような白っぽさもあります。
ウチでは猟師さんから届く、60kg級の猪を扱うことがほとんど。ですから前足肉は、ミンチにしても硬く…。いつも、まかない行きですよ(笑)。
村田:
ざっと流れをご説明しましょう。まず前足肉は、フライパンに入れて焼き色をつけた後、ブロード(だし)を加えて、オーブンで煮詰めていきます。少量の液体でじっくり蒸し煮にするフレンチの「ブレゼ」に近い調理法でしょうか。オーブンを使い“煮込みながらローストをする”感覚で、加熱します。
片山:
和食にはない調理法ですね。
村田:
北イタリア・ピエモンテ州のリストランテ『イル・チェントロ』での修業時代に学んだ調理法です。当時は、羊や山羊のスネ肉など硬い部位を使っていましたね。加熱に使う調理道具は、テフロン加工された大きなバットだけでした。店を仕切るのは主婦であり母でもある、女性シェフ。洗い物も少なくて済むなど、効率的だったのでしょう。そもそも、イタリア人って面倒くさがりなんでね(笑)。
片山:
バット一つとは! 素材の美味しさを全て閉じ込めることができる…ということでしょうか。
村田:
それもありますね。
では、調理を始めましょう。まずは、ブロード。和食でいう「一番だし」のような存在でしょうか。パスタにも煮込みにも必ずと言っていいほど使うため、イタリア料理は、このブロードがないと始まりません。今回は前もって準備しておきました。
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