和食を科学する料・理・理・科

スッポンの最適調理を考える【前編】

スッポンといえば、「丸仕立て」。たっぷりの酒でクセの強い食材を煮る、という調理法ですが、この「丸」とは、甲羅が丸いことからついたスッポンの異名。料理名になるほど「スッポンは酒で煮る」のが古くからの定法で、それは今も変わりません。
そのスッポンを年中扱う『浅草』の店主・辻 宏弥さんは言います。「丸仕立てはだしの深い味わいが主役と考えていますが、スッポンの身が“キシキシ”とした歯応えになってしまうのが長年の不満で…」。
だしの旨みはそのままに、身をしっとり炊き上げる。そのベストなスッポンの調理法を求めて、まずは酒の効能を検証するところから実験はスタート。すると、のっけから意外な結果が…! さて、スッポンの最適調理とは?

文:河宮拓郎 / 撮影:香西ジュン
辻 宏弥さん(大阪・法善寺横丁『法善寺 浅草』店主)

創業は昭和12年。新世界に暖簾を掲げ、昭和22年に法善寺横丁に移転した、スッポン・フグ・鱧料理を得意とする割烹『法善寺 浅草』。宏弥さんはその4代目だ。同志社大学卒業後、銀行勤めを経て『たん熊北店』などで修業。2011年に『浅草』に入り、17年より店主を務める。https://houzenjiasakusa.gorp.jp/

川崎寛也さん(農学博士)

1975年、兵庫県生まれ。京都大学大学院農学研究科にて伏木亨教授に師事し、「おいしさの科学」を研究。「味の素㈱」食品研究所上席研究員であり、「日本料理アカデミー」理事。「関西食文化研究会」での基調講演でも活躍している。専門は、調理科学、食品科学など。

辻 宏弥(以下:辻)
うちではスッポンのコースを年中お出ししていて、そのメインは丸鍋です。当店ならではの濃厚なスッポンだしが鍋の主役で、身よりもこのだしを味わっていただく感覚です。
昔からスッポンを酒でぐつぐつ煮るのが丸鍋の定石ですが、以前から、酒で煮る効果って何だろう、と。比較実験をしてみたいと思っていたんです。
川崎寛也(以下:川崎)
酒で煮込むことの効果は、
①    消臭効果(酒の香りによるマスキングとアルコールの共沸)
②    風味をつける
③    照りをつける(糖分によるメイラード反応)
④    焦げ色をつける
⑤    荷崩れを防ぐ
⑥    肉の軟化効果(筋繊維の保水性が高まるため)

…とさまざまですが、丸仕立てにおいて酒を使わなければならない最大の理由を、辻さんは何だと考えていますか?
辻:
スッポンはクセが強いので、「消臭」のために酒を用いる、と教わったのですが…。
川崎:
では、まずそこに焦点を置いて実験してみましょう。お店では、酒だけでスッポンを炊くんですか?
辻:
そういうお店もあるようですが、うちでは酒1:水2の割合です。1回の「戻し」で4~6匹を一度に炊き込みます。水から炊き始めて、途中までは昆布も入れて、2時間ほどかけてだしをとっています。
川崎:
クセのある食材を食べられる状態まで仕込むことを「戻す」というんですね。では、まずスッポンを「酒+水」と「水のみ」で戻して、その違いを比較するところから始めましょうか。
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コメント
2
yun 2022.11.01

編集長の中本です。本文中の「煮詰め酒+水」は、水だけで煮出したスッポンだしに煮詰め酒を加えたもの、となります。
味を見ながら、スッポンだしに煮詰め酒を少しずつ加えていったので、分量が出せませんでした。スッポンだしの濃度によっても煮詰め酒の量は変わるので、ぜひ試してみてください。

2022.11.01

すみませんお尋ねします。
煮詰め酒+水の割合を知りたいです。


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